第三百四十三話 やっぱりベルトがないと
シロウとの遭遇はオーベル騒動の
数年後だったそうだ。
「厚」の仕事でバロードに赴き
その帰り、休憩時に森を散歩中に
仮面が落ちているのを発見した。
「そこで襲われたと」
「いえ、動きませんでした。
興味本位で自ら被ったんですけどね」
いつだったかヨハンに
俺とユーは似て無い様で似てると
評された事があったな。
被った仮面はユーの魔力を吸収しながら
体内に潜ったそうだ。
「私も先程、痛感したのですけれどね」
バング状態だと自身の魔力の自然放出
これが人間の比ではない程激しいそうだ。
大技を連発していたとはいえ
確かに稼働時間が短かった。
0型の常套手段である
異空間から攻撃しては引っ込む
あの戦法は自身の消耗を防ぐ為でもあったのだ。
「2~5型は長い稼働を可能にしていたが」
「それらは道具ですからねぇ
意志を持ちません。
どうも我々と違い、この意志とやらの
消費量それに連動する放出量は
爆発的な量に加速するようですねぇ」
その為かシロウも個性、意志を
削げるだけ削いで作られたそうだ。
「因みに作ったのはハヤトです。
彼の記憶・・・記録と言った方が
適切でしょうか。」
それで知っていたのか。
送り込まれたものの宿主を
制限時間内に発見出来なかったシロウは
仮面だけを残しボディは霧散
いつから転がっていたのか
森の中でポツンと
いつか誰かに被って貰えるのを
待っていた状態だった。
そして低燃費を考慮し
作成されたシロウには
命令と手段、元の世界の歴史
というデーターだけで個性などは
認識出来なかったそうだ。
「乗っ取られたというより感染した感じですか」
「ですねぇ。
融合と言ってもいいかも知れません。
相手に意識があれば体の主導権を
巡る戦いになったかも知れませんが
何も考えていませんでしたからねぇ
シロウとの会話は不可能でした。
それ以後も私はユークリッドとして
考え、行動をしていました。」
それなら回りもユーの変化に
気が付かなかったのも無理はない。
俺の場合は異世界の人間の意志が
この世界の悪魔を乗っ取った格好だが
ユーの場合は
この世界の人間が異世界の
力と遺言を取り込んだ格好だ。
「ただ、命令と手段は焦燥感となって
私を圧迫していました。
それに行動を左右されていないとは
自分でも言い切れません。」
自分の世界を救いたいという
数少ないシロウの意志。
救いを求める者を無下には出来ない司教。
確固たる意志で除外は出来ないだろう。
救済者としての存在の力がそれを許さない。
しかし、ヒューマンの殲滅も
同じくらい許されない。
「私の中の希望、人類の繁栄と殲滅
そのジレンマが絶える事は無くなりました。」
命令の中にはこの世界の覇者である
ヒューマンの殲滅がある。
初手がドワーフ領になったのは
もしかしたら飛行生物捕獲以外の
理由があったのかも知れない。
俺への対処も
俺を排除したい割には詰めが甘い。
その矛盾もそこから出た
ガス抜きの妥協案だったのではないだろうか。
「それで俺の抹殺も手加減が加わっていたんですね。」
「いえ、それは本気でした。
悪魔相手ですからねぇもう遠慮なく
全て本気でした。ただ
アモンさんがデタラメに強かっただけです。」
二人とも笑った。
「・・・よろしければ
シロウの世界がどうなったのか
お聞かせ願えませんか。」
そりゃ気になるよな。
俺は遠足の後半を話した。
「そうですか。勇者の力を
持ってしても世界を救うには
足りなかった、いえ遅すぎたのですかねぇ
今となって判断出来ませんし
する意味もありません。」
「間に合わなかったのは間違いない
ウリハルは勇者として、まだまだ未熟だ。」
結構スパルタで鍛えているのだが
全然レベルが上昇しない
更に「勇者」のクラス・・・ジョブに
なるのかな、それも開放されていないのだ。
「いえ勇者の力と言っても
本人の能力を欲していたのではないので
練度は関係ありませんよ。」
ナイ タバカッタナ
「受け継がれる勇者の力
ガバガバ様にはもう残っていません。
これは確実に子に受け継がれた証拠ですからね。」
アモン君、あの場に勇者はおらんぞ。
「こんな事をした私が言うのも変ですが
ウリハル様を失ったバルバリス
いえ人類は取り返しの付かない
損失を被った事になります。」
それを聞いた俺は
今感じている動揺を隠す様に言った。
今からユークリッドがウリハルを
どうこうしようとは思えないからだ。
「あー死んでないぞ。ウリハル」
ユーの目が光った。
獲物を見つけた獣のソレでは無く
絶望の底から光を見た時に近い
想像はしていたが確証が欲しくて
しょうがなかった。
そんな感じだ。
「本当ですか?!」
その次に頭をよぎったのが
俺が人をからかうのが大好き人間という事だろうな
この「本当ですか」はそれだ。
「こういう事で冗談は言わんぞ。」
言った事あるかも知れんが
「次の定例報告会でお披露目する予定だよ」
保証もつけとくか。
それを聞いたユーはガックリと肩を
下ろし長いため息をついた。
背負い続けた重い荷物を下ろした時の様だ。
事実そうなのだろう。
そして言葉を漏らした。
「だからと言って私が許される訳ではありませんがね」
これは俺に同情を求めている声では無い。
下されるであろう罰を受け入れる覚悟の
出来ている人間の声だ。
推理物のラストで探偵と犯人の会話に
こんな感じの知能犯を良く見かける。
「まぁソレも議題になるんじゃないかな」
「如何なる裁定も甘んじて受けますよ。
・・・ってさっきから何を作っているのですか」
魔力の自然放出の辺りの説明で
閃いて、俺は話しをしながら
工作していたのだ。
良く考えたらすんごい失礼だったか
でも、早く試したいのだ。
身に着けているだけで
魔力を充填するクリスタル。
通常より放出量が多いならば
積極的に回収する機構を追加してみた。
ベルトと呼ぶには
ちょっとサイズがデカくなってしまったが
ぶっ倒れる時間が少しでも伸びた方が良いだろう
クリスタルを内蔵しまくり
バックルは勿論左右にもBOXを追加した。
強制回収装置として
ミスリルのファンを2機バックルに着けた。
ただ身に着けている充填より
より積極的に回収出来るはずだ。
俺は上記を説明して
更に追加した。
「人状態でファンを回しても
効果は上乗せにならない
自然放出自体が少ないからな
変身時に回す様に」
俺は出来上がったベルトを
ユークリッドに渡した。
受け取ったユークリッドは
俺の真意を測りかねている様子だ。
素直に聞いて来た。
「何故、これを私に・・・。」
「必要な物を必要としている人に与える。
お互いに非や損が無ければ
俺は誰にでもそうしているだけだよ。」
シロウの姿を見た時
何か足りないと思ったんだ。
タケシとハヤトの二人で作った。
これで完成って事でイイだろう。
「有難く頂きますねぇ」
「試してみてくれないか」
俺に言われてユークリッドは席を立ち
司教の衣装の上からベルトを巻いた。
うーん、似合わない
司教の衣装に合わなさすぎだ。
異物感がハンパ無いが
これはこれでいいのだ。
これが現れる時は
その先の展開は通常の常識を
超えた世界になると
それを表現していると
強引に納得した。
「・・・カッコ良いですねぇ」
嘘
気に入っちゃってるよ。
素で喜ぶユークリッド
子供のような笑顔だ。
「では早速!」
あの踊りのようなポーズを再び取ると
シロウに変身した。
うーん、似合っている。
つか司教の服は内蔵されるか
コートされるのに
ベルトは出たままだった。
2つのファンはビュンビュン回っていた。
回収機能はどうだろう
俺は聞いて見た。
「どうですか。」
「うーん、何もしないと
消費も進まないので何とも」
じゃ消費してみるか
俺は悪魔男爵化して
更にテーン風盾を構えた。
これ対0型必須装備だな。
「ちょと蹴ってみましょうか。」
「すいませんねぇ。」
結局、第2ラウンドっぽくなった。




