第三百四十 話 魔導院地下室にて
「何でこんな事をしたんですか」
怖い顔をして
ストレガは俺を責めた。
おい
何で俺がやったって限定するんだ。
ストレガの考えでは
俺が時空系覚えてウリハルで
試したけど戻せなくなって
ストレガを頼って来た。
とかそう思ってんだろうな。
・・・ありそうだ。
「いや、俺がやったんじゃない。」
一応、事実は伝えておこう。
「えっ?」
両手で口元を押させて一歩後ずさるストレガ。
そんな意外そうな顔するか。
ウリハルも俺を助ける為に
補足説明を入れて来た。
「はい。敵に捕まり、この様な目に・・・。」
持ち上げた頭部を
ビンの蓋でも開ける様に
左右逆回転でズラすと
そのまま両手を開いて
割れた顔面を天秤の様に持った。
「きゃあああああああああ」
「姫様、お止め下さい!!」
知ってても怖い。
発狂されても困るが
慣れすぎるのも
これはこれで困る。
ストレガには血流は無い
それなのに顔色が悪くなっていた。
頭痛を堪えるような仕草で
少しヨロめく
転びはしないのだろうが
まぁノリで何となく
俺はストレガの両肩を支えた。
「時空系で分断されている。
高次元的には繋がっているのだ。
ウリハルの体内で血は正しく流れ
呼吸も肺にキチンと届いている。
見た目はスゴイ事になっているが
本人は痛くも痒くも無い、健康体だ。」
「むしろ、普段では届かない
場所を掻く事が出来るんですよ。」
頭部をテーブルに置いて
右腕で左腕を引っこ抜き
そのまま孫の手の様に
背中を掻き出すウリハル。
「きゃあああああああああ」
「姫様、お止め下さい!!」
本当に止めろ。
「分かりました。」
分かったの?
スゴイねストレガちゃん。
最善の処置をするとの事で
設備の整った魔導院の地下に
移動する事になった。
俺達はウリハルを神輿の様に
台車ごと担いで馬車を下りた。
御者にはベレンに戻る様に言った。
ここに居ても持て余すだけだ。
ストレガのテキパキとした指示で
各部署の責任者が動き出した。
地下施設
そう言えば俺も初めてだった。
案内された部屋は
手術室、それも普通のじゃなく
改造人間でも作るかのような
怪しさ満載の部屋だ。
何に使うのか想像も出来ない
機材が並んでいた。
「だ大丈夫なのだろうな。」
なんかテーン先輩、怖がっていた。
ちょっとカワイイ。
ウリハルは中央の台に
寝か・・・並べられた。
後付けの包帯など
全て取り払われたのだ。
パーツごとに並べられ
動く横隔膜や
ぜんどう運動している腸などが
見てとれた。
この時点でビビビとクワンは
部屋を退散した。
気分が優れないそうだ。
バラバラのウリハル
その手がバイバイをしていた。
だからヤメロって・・・。
「は鋼の意志で見届けねば」
もう泣きそうなテーン先輩だ。
俺は「大丈夫」と手を握ってあげた。
「持って来ました。」
扉が開き聞き覚えのある声がそう言った。
振り返ればロクサーヌさん一児の母が
これまた、何とも表現のしようの無い
器具を抱えて入って来た。
「ご苦労様。」
受け取ったストレガは
使い方を熟知している様子で
テキパキとセットアップをしていく
そこ動くのか
あ
それ取れんの
もう、何だか分からん。
「あ、二人とも入学おめでとうございます」
俺とアリアに気が付いたロクサーヌさんは
丁寧に挨拶してきた。
「あ、あの時はごめんなさい。」
アリアも真っ赤になって謝罪した。
「いえいえ、いいのよ。」
目の前スプッラター
後ろで井戸端会議
さすが魔導院だ。
異空間だ。
その間にもストレガは
怪しい器具で切断面を何やら測定し
メモを取っていた。
そして右手をウリハルの
視覚外に持ってガラスの瓶を
触らせた。
「これは何だか分かりますか?」
「ガラス・・・の花瓶でしょうか」
触覚の検査か
成程、本当に繋がっているのか
気が付いていないだけで
切断されているモノがあるのか
確認しているのだ。
何となくそう思うでは無く
一つ一つ確認を取って行く
それも数値化して計っている。
うん、やはり俺とは違う。
ストレガを頼って正解だったようだ。
よし
俺も手伝える事は
手伝おうではないか
俺は左手を手に取り
ウリハルの視覚外から
自分の股間を握らせた。
「これは何だか分かるか」
「え?え?生き物ですか?
何だか段々固く大きく・・・え?
何ですかコレ?私の知っている物ですか?」
モノが何かを確認しようと
ウリハルの左手はワキワキと
俺の宝具を弄った。
おぉー中々上手じゃないか
うーんロイヤル。
「良く知っている物だ?言って見ろ」
女性陣全員から攻撃を食らい
強制退場になった。
特にテーンの盾
それも角の一撃は血を噴いた。
辞書でも痛いのに
金属製の盾は殺人級だ。
殺意も篭ってた。
「師匠!?どうしたんすか」
廊下で治療魔法を掛けていると
クフィールが現れ
俺の様子に驚いていた。
「赤い血が流れていたんすね~。」
驚いたのソコ?
我が弟子ながら良いボケをするな。
「丁度良い我が弟子よ。頼みがあるんだが」
「ええー今、所長に呼ばれて来たんすけど」
俺は偽勇者ラテラに変身して
同じセリフを繰り返した。
「くぅーお姉ちゃんが何でもしてあげるよ」
こいつは分かりやすい奴で助かる。
俺はクフィールに
とある作戦を伝えた。
「それ、間違っていたら洒落にならないっすよ」
珍しく真剣な表情のクフィールだ。
まぁ内容が内容なだけに
流石にこいつでも真剣にならざるを得ないか。
「気持ち的には間違っていて欲しい
俺が恥かくだけで済むしな。」
「分かったっす。マリオ呼んで来てから
所長の所へ行くっす・・・所長はこの事は?」
「知らんのでよろしく説明頼む
なんせ今思いついたばかりでな。」
「そうっすか・・・じゃあ当たりっすよ。」
「確証は全く無いんだぞ。」
やけに自信たっぷりに言うクフィールに
俺の方が二の足を踏みそうだ。
「師匠は考えない方が正解に辿り着く人っす」
確かに考えてもロクな事になってないが
あんまりだ。
「じゃあ俺は行く、後コレは
ウリハルが直ったら渡しておいてくれ」
俺はそう言ってストレージから
回収したウリハルの剣と鞘を取り出した。
時間経過しないので魔力のチャージもが
切れたままだったので
ここで魔力譲渡しておいた。
外に出た俺はMAP画面を開き
拡大していく
ダークはベレンにいた。
最近は俺の行動を先読みして
動いてくれるダークだが
今回もベストな対応をしていた様だ。
何体入り込んだのかは知らないが
どうみても被害が少なすぎだった。
人知れず影からバングを
間引いてくれていたのだろう
念のため命令を入れておく。
【ベレン防衛、バングを討伐せよ】
これでスピードも攻撃力も高い二人
ナリ君とダークが市内のバングを
片づけてくれるだろう。
教会近くにはダークは行けないが
今はヨハンが詰めている。
そっちは心配しなくても良いだろう。
むしろ心配なのはミカリンだ。
強さ的には問題無いが
燃料切れの心配はある。
まだ戻って来ないのも気になった。
俺は上昇し適当な高さで
悪魔男爵化した。
感じる不快感は無い
ミカリンは
かなり離れているのか
力尽きて人化しているのかだ。
流石に死んではいないと思う。
北と東の空に不自然な雲
撃墜された5型の煙が幾つも見えた。
西は綺麗な状態
そして南、遥か先で
赤い光が瞬間的に激しく不規則に
点滅と移動を繰り返しているのが
見て取れた。
距離が開き過ぎて
ステータスが更新されない。
ミカリンの状態を確認する為に
俺は南へと飛んだ。




