第三十四話 酒井ぃぃい
熟睡から揺すって起こされた。
ミカリンだ。
・・・寝る。
睡眠を続行しようとしたが
激しく揺すられた。
俺は大声にならない様に
注意しながら抗議した。
「なんだ、まだ暗いぞ」
時計が無いので深夜なのか
眠ったばかりなのか判断が付かない。
「いいから表で」
ミカリンの声から
真剣な様子が感じ取れた。
仕方が無い
俺は諦めてアルコとボーシスを
起こしてしまわない様に
そーっと起き上がり
ミカリンと共に表に出た。
相変わらず
こっちの月はマンガみたいにデカい
満月では無いが月明かりは
結構な明るさだ。
小屋から少し離れた所
適当な岩に座り込むミカリン。
俺は隣に座るとストレージから
竹に詰めた果実汁を薄めた飲み物を
取り出す。
「ずるい。自分だ・・・ありがとう」
取り出した二本の内の一本を
ミカリンに無言で渡してやる。
飲食物を不公平に分けた事は
無いハズなのだが
どうも、俺は信頼が無い
何故だろう。
「で、なんだ」
何か話が
それも天使と魔神での話が
あるに違いない。
秘密にしてはいないが
説明が面倒だし
理解してもらう必要も無い
頭がおかしくなったと思われる危険性
上記の理由から秘密になっている。
「アレはやっぱり魔界のモノなの?」
「分かってる様で分かって無いなミカリン
俺は魔界を知らないぞ」
「えーだって魔神でしょ」
本当に分かって無かった。
最初に説明したろうが
「魔神を乗っ取った別世界の人間だ。
だから人間の肉体で再スタートになったんだろう」
キョトンとするミカリン。
「あっ・・・そうだった」
思い出したか
つか、そんなに俺は悪魔っぽいのか
「いや、バングに対してやけに冷静だったからさ
知ってるモノだとばっかり・・・。」
そういえば
笑えるを通り越したレベルで
ミカリンは狼狽えていた。
自分よりレベルが上の相手でも
全く恐れる様子が無かったミカリンが
強さ関係無しにバングという
存在に恐怖していた。
理解の範疇から出た
正体不明の存在
その恐怖だ。
俺がお化けを怖がるのに近いか
強い・弱いは関係無いのだ。
「これは推論というより憶測なんだがな」
ミカリンには説明しておいた方がいいだろう
俺は自分なりの感想というか予想を
ミカリンに話す事にした。
俺という人間の理解にも
関わる話だ。
「アレは恐らく魔界にも居ない」
俺が全く恐怖を感じなかった理由。
それはアレが俺の世界由来のモノだと
思っているのだ。
シンアモンさんが俺の事を
「界外の力」と言っていた。
俺の元の世界は人間界だが
こことは異なる世界だ。
「俺と同じ世界、別の世界の力だ」
天・人・魔
天使も悪魔も形は変われど
行き来が出来る3つの世界だが
俺の世界は別だ。
こっちの魔王も神も干渉出来ない世界だ。
「アモンはあんなキモいのがウロウロしている
世界から来たの・・・」
俺の説明が下手なせいか
ミカリンが勘違いしているようだ。
「・・・そうだ。」
面倒くさいから
そのままでいいや
「で、あいつらは何が目的なの?」
そう
問題はそこだ。
そして現時点では分からない。
「知らん」
「えー無責任な」
俺の責任じゃないだろ。
「お前は全ての神の意向を把握しているのか?」
「知りません」
「そういう事だ」
「そうかー」
納得しやがった
やっぱりミカリンは馬鹿だ。
まぁ天使なんてのは
地上における神の端末的意味合いが強い
神の命令を遂行するだけだ。
自ら考え悩む事は無い
自分は何者なのかとか
哲学に分類されるのだろうか
自分探しの旅など
理解すら出来ないだろう。
「じゃ、あのキモいのがアモンの世界の神なの?」
支配運営する。
そう言う意味合いではゲームマスターは
神の如き振る舞いが出来る。
そう言っても過言では無いな。
「悔しいがそうだ。人並みに間違いを
犯す不出来な神だ」
アップデートで客のPCの
ハードディスクを消去という
とんでもないミスをやらかした
メーカーもある位だ。
耐えて見せよ破滅の一撃
そのゲーム内のボスキャラのセリフだが
まさかアップデートの事だとはと
掲示板で祭りになったらしい。
「神と言うのはちょっと違うな
どっちかと言うとミカリンと同じ
神の意向で行動するモノだ。バングは」
ムっとした顔になるミカリン。
「似てるのは外見じゃなく立場ね。」
すかさず追加説明をしておく
普通の顔に戻るミカリン
なんて分かりやすい奴だ。
・・・・俺が似ていると
言われた事があったが
俺もこんなに分かりやすく
すぐ表情に出ていたのか。
「天使と異なるのは意思疎通が
不可能、というか恐らく
意識そのものが無い完全な道具だ。」
初見でルンバを連想したが
あながち外れていないと
俺は確信していた。
「そうなると、そいつらを使役している
別世界の神の思惑は・・・。」
色々適当だが
良い感じのトコロに落ちてくれたようだ。
「バングの行動から逆に推測していくしかない」
マイザーから聞いた話と
今日、遭遇したバングの行動から
この少ない例の中で言えば
「知的生命体の抹殺かな」
言ってみて違うと思った。
ゲームマスターならもっと簡単に
一気に消去出来るハズだ。
とは言え
他に思いつかない。
「悪魔だけでも手を焼いていると言うのに」
ミカリンが天使長の顔になった。
懐かしいな
対決した時を思い出す。
「まぁ何にせよ。今の俺達じゃ
大した事は出来ないんだからさ」
二人ともチンチクリンだ。
「だねー」
緊張が解けるミカリン。
そっちの顔の方が女子っぽくてイイぞ。
俺はふとメニューを開く
思い出したのだ
後で確認しようと思って
忘れたまま寝ちまった。
俺はMなのか
どれどれ
・・・無い
そんな項目あるわけないか
良かった様な残念なような
俺は自分のステータスを
ミカリンと並べて見た。
レベルは俺が昼間の戦闘で30
ミカリンには行ってないので20のままか
差が気になるが
レベルが上昇するにつれ
要求経験値も上がるので
レベルの差は縮まるだろう。
ただ今現在この差はデカいな・・・。
うっかり
うっかりだ。
いじるつもりは無かった。
自分の項目
状態の欄をフリックしてしまったのだ。
「あ」
ミカリンが驚く
俺は悪魔になっていた。




