第三百三十八話 1から8は
道を移動する習性も手伝って
着地したバングは森から街道に
出てベレンを目指した。
その習性を知らない者達は皆
追って来ていると思い込んで
血相を変えて街道を爆走していた。
「ふぅむ大分コツがつかめて来たぞぅ」
「私もだクワンちゃん。これならイケる」
経験値が美味しい相手だ。
クワンもテーンのレベルの上昇がスゴイ。
ウリハルは頭部を台車の取っ手に
固定し体の方をその位置にあわせて
固定した。
包帯を隠す様にローブを被せて
包帯を隠し、首にはシャンソン歌手が
好むマフラーを巻いて誤魔化した。
その場の勢いとノリで購入してしまい
後で冷静になった時に
こんなもの使う機会は無いだろ
と後悔していたのだが
以外な所でヒタイングの
サンバダ衣装関連が役に立った。
俺達はバロード方面に進行し
逃げ惑う学園生を保護しては
情報を聞き、その生徒を逃がす為に
体を張ったバックアップの人々を
救出していった。
1期生は皆、バングに遭遇した瞬間
逃げるが勝ちだったので
思いのほか被害は少なかったが
バックアップの人達は重傷者が多数出ていた。
戻る道中で出くわすより
俺達の傍に居た方が安全だと
1期生もついて来て
すごい軍団になったが
回復の使い手も各パーティーに
いたので治療に回って貰った。
街道を歩いているのは
見かける度にスパイクで処理していく
連雷撃じゃなくさっきも
ソレにしてくれればとネチネチ言われた。
「リディ。まだ先に救済を待つ方がいるのですか」
ウリハルには
とにかく偉そうにしてろと頼んだ。
私も戦うとゴネるかと思ったが
俺の案にはどうも素直に聞いてくれる様で
3期生の嫉妬の視線が痛くも心地よくもあった。
「はっ姫様。今のパーティーが最前列だとの事
これより先は少なくとも学園関係者はおりません。」
俺は跪いて畏まり答えた。
アリアは不満そうだったが
生徒達に誰だか分からないだろうと
俺はチンチクリン状態に戻って
魔法攻撃と時に重傷者には治療にと
大忙しだった。
「頃合いですね。ベレンに引き返しましょう。
帰りの道中、まだやれますね。」
「はっお任せ下さい。」
不味い感情が溢れまくりだ。
俺の背後でテーンとクワンも
控えているのが絶大な効果だ。
1期生は噂程度だが
バックアップ組には
その強さを知名度は抜きんでた二人だ。
今しがたも、有り得ない大きさの盾が
腕鞭を物ともせず弾き
有り得ない大きさの剣が
一発で仮面を割って仕留めていた。
自分達が手も足も出なかった相手を
豪快に屠っていくその姿に
噂以上と囁いていた。
その二人が付き従っている
謎のチンチクリンがウリハルの
指示を皆に告げるのだ。
入学時にバイスとのやり取りを
見ていた者も多く
俺への畏怖もスゴイ事になっていた。
もう教師が丁寧語で伺いを立てて来る状態だ。
「引き上げだ。隊列このまま
我らが最後尾まで行ったら
そのまま付いてこい。」
列車の折り返しの如く
牽引車だけが移動し
隊列はそのまま回れ右だ。
最後尾まで行く間も
姫様ご一行に羨望の眼差し
敬礼、祈りの言葉など
もう不味くて叶わん。
帰りは行き程の数は無かったが
それでもバングは居た。
土壁で3型の砲撃を防ぎ
スパイクでじゃんじゃん屠っていく
しばらく進むと向かいから
騎兵団に囲まれた馬車が
こちら走ってくるのが見えた。
バルバリスの旗が揺らめいている。
「迎えを出した様だな。
珍しく腰が軽い」
クワンは皮肉っぽく笑い、そう言った。
俺達は停止し、騎士団と合流した。
「テーン。無事だったか!」
先頭の騎士が馬から下り
小走りにこちらにやって来た。
兜のバイザーを跳ね上げて顔を晒すと
テーンはいつもの低いトーンとは
違ったカワイイ声で答えた。
「兄上!来てくださったのですね。」
シキの跡取りでテーンの兄
名前はナインだそうだ。
・・・・1から8はどこだ。
「殿下もご無事か、良くやった
大義であったぞ。」
テーンから顛末を聞いたナインは
そう言って屈託の無い笑顔で
テーンを褒めた。
珍しく仲の良い兄妹なんだな。
ブラバムよく見とけ
・・・俺も人の事はいえないのかな。
「いえ、恐れながら私では
力不足でした。姫様の護衛の方々が
最大の功労者です。」
そう言って俺を紹介する様に
体を反転させ手を開いた。
「・・・むっ、何と?!!」
ナインは慌てて兜を脱ぎ
小脇に抱えると跪いた。
ウリハルに気が付いたのだ。
お仲間の騎士も遅れてそれに倣う。
・・・ウリハルも真似して
頭を小脇に抱えれば
面白いんだがな。
「これは気づきませんで大変失礼を致しました。
殿下、並びに魔勇者様
火急の事態故どうか無礼をお許し下さい。」
恐らくハンスだろう
俺を魔勇者と吹聴して広めたな。
前回もそうだが
悪魔の力を行使しやすくなる。
聖騎士が跪いたせいで
後ろが大混乱だ。
跪く音が重なりドタドタとうるさくなった。
「よく来てくださいました。礼を言います。」
それにしてもウリハルの
変な声で偉そうに言われると
ムカつかないか心配だ。
俺の心配は杞憂で
ベレンまでの撤退は
彼等が護衛すると言い出した。
もう城壁前ではバングとの
攻防戦が始まっていて
彼等は姫救出の為
強行突破で出て来た精鋭だそうだ。
「兄上、実は急ぎ魔導院まで
姫様をお連れせねばなりません。」
テーンがウリハルの体がバラバラな事を
上手く隠してそう訴えた。
信頼関係がしっかり構築されている様だ。
ナインの方も問いただす事無く
求められる事に最善に答えてくれた。
ウリハルの救出した人々を
放って先には行けないと言う意見を
酌んで、騎兵は集団を護衛
馬車だけ先行して魔導院に向かう事になった。
ナインは馬車に同乗を申し出たが
「兄上、リディ殿がおられれば
我らは心配無用です。」
言った事を証明する様に
脇の森からテクテク出て来たバングを
火球で吹き飛ばす俺。
ここまでの道中ですっかり慣れた
集団より騎士団の方が爆音に驚いていた。
訓練されている軍馬が嘶いて
前足を上げた。
「・・・そのようだな。
よし救出者は私に任せろ
テーンは姫様を引き続き頼むぞ。」
「命替えても!」
馬車に乗り込む俺達パーティ。
俺はビビビにここに残るか聞いた。
このままだと次に下りるのは魔導院だ。
行きたくないのではと気を使ったのだが
「リディ、ここまで来てそれ無いわよ。
私だってパーティーの一員なんだから
それに魔導院の噂が本当なのか
そうでないのか確かめる良い機会だわ。
もし噂がデマだったならば
魔導院の潔白を証明する証人として
月寮においては私が適任になると思うの」
調子が普通に戻って来たようだ。
皆が乗車すると
俺は御者席の横に陣取った。
ここから道中の敵を始末する為だ。
御者を受け持つ聖騎士は
緊張感タップリで「光栄であります」と
言っていた。
まるで英雄扱いだが
ウリハルの為にもここは偉そうに
振舞って置くか
進路を指示すると
聖騎士は二の足を踏んだ。
城壁前の数体が追って来たのを
振り切って来たそうで
このまま戻ると接敵確実だというのだ。
「だからだ。俺らで倒しておかないと
折角、救出したのが無駄になる。」
彼等はこのまま北門に向かうのだ。
俺は進路を
北門→外壁沿いにドーマと指示した。
これで距離的にも損はなく
かつ北の森から出現してきているバングと
既に取り付いているバングも掃除できるだろう。
「姫さま。」
俺はウリハルを促した。
「戦車前進」
ウリハルの掛け声に合わせ
御者は手綱を振るい
馬車は単独で出発した。
背後では
アレはバルバリスの国歌なのか
みんなで歌っていた。




