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ぞくデビ  作者: Tetra1031
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第三百三十七話 出来る出来ないやるやらない

俺は再び冒険者ゼータの姿に変化した。

この姿の方が3期生は指示に

従いやすいだろうと踏んだのだ。


チンチクリンの下級生に

顎で使われるのはやっぱり

面白くないだろうからな。


「アリアとビビビは殿下を運べ

テーンとクワンはその護衛だ。

俺が討ち漏らした奴を頼むぞ。」


そう言いながら

休憩セットをストレージに仕舞い込み

代わりに台車を出した。


「運ぶ?何処へ移動するのですか」


台車に固定されながら

ウリハルは、そう尋ねて来た。


「当面の敵を排除するに当たって

ここは攻撃魔法の邪魔になる遮蔽物が

多すぎる。街道まで戻るぞ。」


大き目の車輪だったのだが

流石に森の中ではうまく回ってくれなかった。

結局、4人で抱えて移動する恰好になった。


完全膝カックン耐性の反応を頼りに

デビルアイで視認する。

ノイズの場合は問答無用で

火球ファイアーボールを打ち込んだ。

ヒートアローと違って引火しないので

遠慮なく撃った。


余裕のある時は

瀕死にして片腕だけにし

テーンに防御、クワンに仮面に

止めの一撃をやってもらう。


0型の腕鞭を味わい恐怖冷めやらぬだろうに

流石は騎士、テーンは怖れに飲まれる事無く

冷静に腕鞭を掃って見せた。

これは拍手喝采ものだ。

普通

こんな短時間で克服出来るモノではない。


後で聞いたが診断の時

テーンに恐慌を感じ取った

ビビビは鎮静の他に鼓舞も

掛けていたそうだ。


変なのは話し方だけでビビビはやる。

優秀な聖道の家系は

伊達では無い様だ。


街道まで難なく出る事が出来た。


上空では例の爆裂音が連続で鳴っては

しばらく止むという事を繰り返していた。

ミカリンの孤軍奮闘は順調な様だ。


「これから、何処へ向かわれる。」


テーンがそう聞いて来た。


「殿下の安全を最優先で願いたいな。」


クワンが付け加えた。


「選択肢は・・・。」


移動せずに安全そうな隠れ場所を見つける。

街道を戻りベレンに帰る。

街道を進みバロードへ向かう。


こんなトコロか

俺はこの中から答えと理由を言った。


移動しないというのは解決に繋がらない。

バロードが疎開先にまっさき浮かぶ候補だが

ここはベレンに戻るべきだ。

敵の目的地ではあるが

ベレンの戦力

ヨハン、ストレガ、パウルにユークリッド

隣接するドーマにはナリ君率いる

魔族の軍、それもドルワルドで実戦経験を

積んだ遠征一期組が交代で戻って来ている。

襲われるが、十分に戦える状態だ。


比べてバロードは

城壁も無く際立った軍を持っていない

襲撃された際に不安だ。


それに、これは言わなかったのだが

ウリハルを狙って来る可能性が高い。

0型がウリハルを狙う必要が無くなった事を

部隊に上書き命令していない場合は

間違い無くウリハル確保の方向で動く


あの戦いの最中、上書き命令の

作業が出来たとは思えないのだ。


つまりウリハルを狙ってくるなら

最も強固な防御を誇る場所に

移動すべきなのだ。


「それに早く魔導院で何とかしてして

ウリハルを戻してやりたい。」


俺のこの言葉に3期生は納得した。

全員一致でベレンに向かうとなった時に

反対者が1人出た。


「私はここで遠足の方々を

救出してから戻ります。」


ウリハルだ。

クワンが何を言ってるんだコイツは

みたいな表情になった。


「恐れながら殿下、ここで

殿下が倒れられては学園関係者一同

並びにバルバリス全国民の損失になります。

殿下の危険を引き換えに我が身の

救助を望む者など居りません。

辛くともここは我らと撤退を」


それはそうだろうな。

自分を助けたせいで

姫が死んだなんて事になれば

そいつは命は助かっても

社会的生命が死ぬ。


「皇族であると同時に私は勇者です。

助けが必要と分かっていながら

逃げる事は出来ません。」


うわ

こうなると頑固だぞ。こいつは

ヤレヤレ、どうしたものかと思案していると

ズカズカとクワンはウリハルの前まで

歩み出て台車を蹴っ飛ばした。


「クワンちゃん!!」


悲鳴の様な大声を上げるテーン。


台車から転がり落ちたウリハルは

受け身を取るも

その衝撃で解けた包帯から

幾つかのパーツに分かれてしまい

部品と共に地面に転がった。


「その様で誰を助けるっていうんだい!

今の姫様には何にも出来やしないじゃないか」


這いつくばる様に零れたパーツを

拾い集めるウリハル。

思わず手伝おうとするビビビを

アリアが制した。


「クワン、出来る出来ないでは無いのです

やるかやらないかなのです

私にはやらないと言う選択肢は有りません」


片手と口を使って

解けた包帯を縛り

外れた腕を元に戻そうと

ウリハルは泥にまみれて奮闘していた。


「ご立派だよ。自分がそんな状態なのに

下々の人々の身の安全を思われて

将来さぞかし良い王様になってくれるだろうさ

だけどね、その輝かしい未来も

殿下が生き延びてこそだよ。

死んじまったら何もかもお終いなんだ。」


「勇者は死を恐れません!」


地べたに這いつくばり

泥にまみれようとも

ウリハルは変わらない。


「そうかい、じゃあ

好きなだけ助けに行けば良いよ。

私を倒してからの話だぁ。」


伝説の魔神が使ったと言われる

豪華な大剣がウリハルの眼前に

音を立てて突き立てられた。


「騎士として

王家に忠誠を誓った騎士として言う

どんなに恨まれようと

後でどんなバツを受けようと

殿下をお守りする。

我が命に代えてお守りする。

気絶させて縛り上げてでも

ベレンに向かう。

気に食わない魔導院の連中の

靴にキスをしてでも

殿下を元通りにする!!

それを阻むというなら立て

立って我を倒してみせぃ!!」


ウリハルは包帯の輪っかを

クワンの剣の柄に引っ掛け

クレーンの要領で剣伝いに

立ち上がろうとしていた。


立って戦う気なのだ。


しかし包帯は更に解け

最初より散らかった状態で

ウリハルは再び地面に転がった。


「これが現実なんだよ。

私1人に勝てない者が

あの仮面の化け物に勝てるハズが無い

理想だけじゃあ何も出来ないんだよ。」


ウリハルは再び

自分のパーツを拾い集めた初めた。


すごい

俺はちょっと感動した。

ここまでされてもウリハルから

美味しい感情が漏れてこない。

こいつは怒ってもいないし

恨んでもいない

本気で助けに行きたいだけなんだ。


「殿下・・・どうか・・・どうか!」


テーンはもう泣きそうだ。

ビビビは既にボロ泣きだ。

アリアはビビビを支えながらも

強い意志を持った瞳でウリハルを見ていた。


「確かに理想だけじゃあ何も出来やしないな」


俺はそう言ってウリハルの

前にしゃがみ込んだ。

ズレた顔面で真っ直ぐ俺を見るウリハル。


本当に真っ直ぐだな。


「でもな、理想無しには

何も始まらないとも俺は思う。」


俺は転がった腕のパーツ

その拳を重力操作で

飛ばした。


「力は付けて行けばいい

でも理想はちゃんと最初に持っていないとな

後で探すと取り返しの付かない事になってる

ケースが多いんだ。」


飛び出した腕がババンバンと

クワンの顎にHIT。

軽い脳震盪を引き起こし

クワンは膝を着いた。


「倒した。じゃあ行こうか。」


「共に来てくれるのですか。」


「そうだ。

つか、今までもそうだし

これからもだ。」


この我儘は死んでも直らんだろう。

ガバガバの行動に合わせて

動き回ったチャッキーやハンスの

苦労が身に染みて分かった。


以前、ガバガバに言った。

勇者には回りを動かす力があると

これもそうなのか

ちょっと違う気がするが

まぁいいか


俺はアリアを見る。

それだけでアリアはビビビを

促して、一緒にウリハルのパーツを

集め始めてくれた。


テーンも遅れてそれに倣った。

クワンは膝を着いたまま

神妙な面持ちだったが

やがて足元に転がったウリハルの拳を

拾い上げ、ハンカチで泥を拭いた。

その時、拳は開いてクワンの頬に触れた。


「ごめんなさい。クワン」


クワンは目を閉じ、しばらくの間

ウリハルの指にされるがままだった。

やがて意を決して立ち上がると

ウリハルの拳を持って来た。


「殿下にもしもの事があれば

貴様を殺して私も死ぬ。」


俺にそう言った。


「殿下にもしもの時か、その時

俺もクワンも生き残っているとは思えんがな」


「リディ!」


アリアが注意を促した。

見れば街道をこちらに向かって来る

2型と3型が数体見えた。


「それに、もしもの時なんて

これを見ても言えるかな!!」


距離がある。

俺は注錫を装備して

久々に暴走陣を引き

効果率優先の完全詠唱で

雷撃ボルトの上位呪文、連雷撃ヴォルテッカを放った。

しょぼいと恰好悪いので

超集中して丁寧に思いっきり撃った。


視界は強烈な光で白一色になった

その強すぎる光は痛みすら伴った。

大気は音速を超えて裂け

鼓膜は一瞬の大音量を脳に伝えた後すぐ破れた。


太すぎる雷撃は地面を削りながらも

所有している電気を消費しきれず

付近一帯の全ての物質に

襲い掛かった。

近くの木の実は次々と破裂し

枯れ木や乾燥した落ち葉は

たまらず火を噴き上げ始めた。

俺達も当然、全員感電した。


治療が終わった後

俺は正座させられ

全員からこっぴどく叱られ

連雷撃ヴォルテッカは禁呪になった。


・・・一日一回だけなら良いんじゃないか。


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