第三百三十三話 メーテルまたひとつ
悪魔光線は0型のどてっ腹を
直撃し大穴を開けた。
それでもエネルギー消費が終わらず
その向こうの隔壁をも貫通した。
開いた穴からそれが見えた。
同時にダメージが入っていない事も確認出来た。
0型は怯む様子も無く腕鞭を繰り出して来た。
「痛みも感じてなさそうだ。」
俺はテーンの真似をして
盾で攻撃を弾きながら
再び身を隠し後退した。
その最中、開いた穴が見る見る
塞がっていくのが確認出来た。
何にも効かない
ミカリンの言葉が再び脳裏をよぎった。
こう言う事か
しばらくは、仮面以外の場所を
撃っては隠れるを繰り返した。
メニュー画面開きっぱなしで
MPの残量に注意しながらだ。
この繰り返しの中で
ふと思った。
終わる世界。
救えないと分かった世界で
こいつは誰の為に何の為に
ここまで必死になっているのか
そして
この無様な醜態が
どうしても他人を思えない
俺も同じなんじゃないかと思った。
そんな時、変化が起きた。
刺さっていた鞘が落ちた。
抜けたのではなく
氷の中に閉じ込められていたモノが
溶けることで露出したような感じ
間違いない
こいつ縮んでいる。
俺が金属粒子で構成されているのと
同様に
0型はやはり魔力が物質化して
構成されていて
稼働の度に消費し、被弾の度に
失われているのだ。
効かないのではなく
効いているのが分かりにくかったのだ。
このまま防ぎきっても
勝利は確定だ。
その前に気が変わって交渉に乗って欲しい所だ。
しかし、そうはならなかった。
0型は攻撃を止めた。
見れば隔壁に手を伸ばしていた。
掃除機のCMでも見ているかのように
0型の手が触れた場所の隔壁が消えて行く
ミカリンの言った通り
隔壁の素材も魔力だとしたら
嫌な予感は往々にして当たる。
見る見る0型は巨大化していく
これはマズイ
質量差で圧倒されれば
この盾も俺の腕力も負けるかも知れない。
腕を切断すべく悪魔光線を
放とうとした瞬間
0型の仮面が上を向き
口に当たる場所から
筒状の物体が伸びた。
砲身だ。
瞬間に閃いた。
これは3型の砲撃だ。
0型の能力が2型限定のはずがない
やはりこいつも飛び道具を温存していたのだ。
間一髪で盾が間に合った。
ただ衝撃は腕鞭の比では無かった。
爆風も相まって俺は派手に後方に
吹き飛ばされた。
連続で打ち込んで来る気じゃ無いだろうな。
俺は翼を展開しストレガの8の字飛行を
即興で真似した。
正確無比なあの砲撃を
ストレガは鼻くそほじりながら余裕で
躱していたのだ。
ほじってないよねゴメン。
8の字飛行をキープしながら
外れ玉が無事な隔壁を壊す様に
上下左右に移動しながら回避を繰り返した。
奴の材料を少しでも減らさないと
圧倒的に不利だ。
当たらないと分かったのか
砲撃を止めた0型は四つん這いに
低い姿勢を取った。
コタツの串刺し
4型のボディプレスをする気だ。
でも俺飛んでるんだぞ。
俺の心配をヨソに0型は
余裕のジャンプ力だった。
天井を突き破り見えなくなった。
デビルアイで透視が出来ない。
天井もノイズが走っているだけだった。
ハンスは大気の乱れで
見えない相手の場所を特定していた。
リリアン師は気と機について
徹底的に語っていた。
見えなくても焦る事は無いのだ。
俺は冷静になって目を閉じ五感を
研ぎ澄ました。
ここで思い出す。
0型が俺に被って見えた。
俺が0型なら、ここでどうする?
俺はペルナに何をしたっけ?
「まさか!!」
そのまさかだった。
天井全体から無数の棘が伸びて来た。
大きさを変えられる。
こんな所まで俺に似ている。
死角に入ってから巨大化し
避けようのない規模で
プレスしに来たのだ。
ここはしょうがない。
俺は頭上に悪魔光線を全開出力で放出し
一気に上昇した。
コタツとの初戦闘の経験が生きた。
俺は0型にトンネルを開ける事に成功した。
閉じる速度は分かっていたが
もっと速く閉じる事も可能かもしれない。
俺はストレガバーナーを併用し
瞬間的超音速加速
空気が破裂する爆発音が響き
俺は
0型の体内を一瞬で通過した。
俺を捕えるべく
無数の手が伸びて来た。
ウリハルを品定めしていたあの手だ。
しかも、速い。
音速出て無いかコレ?
逃げ切れるか?
恐怖に無いハズの心臓が
喉元にせり上がってくる錯覚を覚えた。
そしてどちらも錯覚だった。
悪魔男爵に心臓は無いし
伸びて来たのも無数の手では無かった。
俺の超音速通過
そのソニックブームに抉り取られた
0型のボディの残骸だった。
破壊された隔壁と同様に
瞬間的に解像度が落ち
モザイク状に消えて行く
俺に届く事は無かった。
咄嗟にMPの残量をチェックした。
減るには減ったが
気にするレベルじゃない
温存が仇になった
コレもっと打ちまくっても平気だ。
そうと分かれば
俺は悪魔光線で0型の首を切断した。
首から細い手が伸び
離れた胴体を掴もうとしているのが見えた。
なので追加の悪魔光線で
届きそうな場所から
その手ごと薙ぎ払った。
もう機嫌の悪い日直が
黒板消しているかのように
バンバン消していく。
そして砂漠に0型の仮面だけが落ちた。
四角い建物はもう元の形を保っていない。
床に散らばったカプセルも無事なのを
探す方が難しいだろう。
空はもうかなり大雑把なモザイクで
地面も砂が確認出来ない解像度だ。
90年代のポリゴンの様に
起伏を表す灰色の平面だ。
0型は俺の攻撃でこの世界に残った
僅かな魔力をほぼ使い果たしたようだ。
あれだけ悪魔光線を撃っても
俺のMPは10分の1も減っていなかった。
チンチクリン状態の俺が
俺は0型の仮面の元まで
舞い降りると言った。
「最後のチャンスだ。ウリハルを元に戻せ」
「・・・・。」
最後まで会話らしい会話が成り立たなかった。
勝利したというのに何やら虚しい。
「・・・・ォ。」
0型が何か言った。
か細い声だ。
聞き取れないな。
もっと近づくか・・・。
「駄目ーーー!!アモーン!!」
12枚の翼を展開して
こちらに飛行して来るミカリンが
そう叫んだ。
背中には中身の詰まった袋を
背負っている。
昭和の泥棒みたいだ。
仮面の目が光った。
近づけた顔面目掛け
0型の仮面は一瞬ではじけ飛ぶ様に
襲い掛かりチンチクリン状態の俺の
顔面にへばりついた。
「いやぁあああああ!!」
悔しそうに表情を歪めるミカリン。
しかし、直ぐに戦士の表情になると
レフバーンを抜刀し構えた。
仮面の目、その光は徐々に消えて行き
それに合わせて顔面からずり落ちそうになった。
チンチクリンな俺は落ちない様に
バレない様に手で押させえると
・・・何て言おうかな。
「フハハハ コノ カラダは えっと」
ミカリンは直ぐに気が付き顔を上げ
俺の滞空している遥か上空を見た。
バレた。
俺はヘッドギアを外し
ダミー俺の鉄巨人制御戦闘を中止した。
謹慎中の身代わりに作った
チンチクリン俺のダミー人形は
膝から崩れ落ちて0型の仮面は
外れてコインの様に縦に転がり
直ぐ倒れた。
その間に俺はミカリンの高度まで
下降して言った。
「バレたか。」
「どうせいつもの悪い冗談だと
それに呪いの効果で乗っ取られるのは
僕の方だと思うよ・・・。」
初めてバングと遭遇した時に
やった冗談、3人とも
本気で怒ってたからなぁ
ボーシスさんの蹴りは痛かった。
「仮面が襲ってくるって知ってたの?」
0型は2~4型の特徴を再現していた。
1型の特徴も再現出来ると考えるのは当然だ。
1型の特徴は他人を乗っ取る事と時空系だ。
感情があったのかは最後まで分からなかったが
0型は状況の変化に対応する。
最後の悪魔光線乱射
それに対して0型は行動を変化させる事は無く
切断された本体を取り戻す事に終始した。
そうしないと始まらないのかも知れないが
それにしては無駄な足掻きを繰り返していた。
そして焦る様子も無い。
その事から、俺を乗っ取るつもりだと予想したのだ。
デビルアイで0型の仮面を走査した。
ノイズは綺麗サッパリ消えて
エネルギーを所有していない物体と分かった。
俺は0型の仮面を拾い上げた。
「え?持っていくのソレ」
ミカリンは嫌そうな顔した。
俺は0型、鬼を連想させた
二本の角を残った手で指さして言った。
「ミカリンのゲットした1本と
コレを合わせれば3本になる。
これで課題クリアだ。」
遠足は終わる。
「いや、兎じゃないでしょ」
「・・・駄目かな」
「駄目だよ。」
俺は0型の仮面をストレージに収納した。
出来た。
つまり0型はもう
生き物でも無ければ
誰かが所有権を有している物でも無いと言う事だ。
「そうか、戻って罠見て見るか。
何か疲れた。
さっさと終わりにしたい。」
「・・・終わりにしたいのは
僕たちだけじゃ無いみたいだよ。」
ミカリンの言葉の意味は
俺にもすぐ分かった。
モザイクの空はとうとう割れ
破片は消滅空間に飲まれていった。
地面も同様だ。
「だだだ脱出するぞ。」
「どうやって?」
「人化しろ!俺が運ぶ」
即座にミカリンは人化した。
入れ替わりで悪魔男爵になった俺は
落下に移ろうとしているミカリンを
しっかり抱えると翼を展開した。
「取り合えず、あの一本道に戻る」
クリシアの時と同じなら
俺達は帰る事が可能なはずだ。
やるにしてもココでは無く
より安定している回廊の方が望ましい。
俺は入って来た渦巻目掛け飛んだ。
背後から消滅していく世界は
俺達をも飲み込もうと
壊れながら迫った。
「ア・・・アモン!!あのさ」
ミカリンが何か言いたそうだったが
今は話をしている余裕は無い。
俺はちょっと怒って言った。
「今言わないといけない事か?!」
ミカリンは首を横に振った。
俺は元の世界に帰ってからなと
念を押し先を急いだ。
こういう脱出シーン
よく見かけるけど
やるのはゴメンだ。
生きた心地がしない。
映画なら間一髪で助かるパターンだが
俺はすんごい余裕で渦巻に飛び込んだ。
マージンはあるに越したことないよね。




