第三百三十一話 霊廟
MAP画面とミカリンのステータスをガン見だ。
ああは言ったがミカリンを殺らせる気は無い
即座に俺も参戦出来る構えだ。
ミカリンのカーソルが壁の向こうに行き
暗い部分がマッピングされていく
パーティーメンンバーの進行でも
MAP化される事に今更ながら気が付いた。
ミカリンのステータス画面
HPが減る気配は無い
近くに敵の反応も無い
そして極めつけが
状態が人になった。
安全のようだ。
俺は安堵し渦巻に飛び込んだ。
下り立った場所は砂漠だ。
ただ空は黒く足元の砂は灰色で
大昔の映画の中にでも入ってしまった様だった。
数少ないカラーの物体
金髪と碧い瞳を持つミカリンが
まるで合成写真の様に見えた。
「何も無いね。」
「ああ。」
俺も一通り見回し
少し驚く
無限に広がっていた壁
背後に無ければいけないハズの
あの壁は存在せず
目の前と同様の砂漠が広がっているだけで
何も無い空間に使用した渦巻だけが
今も浮いていた。
俺は翼を展開し重力操作を試した。
使用可能だった。
感触も変化無いが妙な違和感を覚えた。
メニュー画面を開いていたので
すぐ気が付き
俺は滞空を中止して着地した。
「どうかした?」
「力は出来るだけ温存した方がイイな。」
少し上昇しただけでMPが減っていた。
大した数字では無かったが
ちょっと飛んだだけでコレだ。
悪魔光線など打とうものなら
どれだけ持っていかれるか分からない。
「だろうね、ここには人間がいないよ。」
ミカリンは既に分かっていた様だ。
悪魔である俺のエネルギー
天使であるミカリンのエネルギー
どちらも人の感情が根源だ。
ミカリンが即、人化した理由は
安全であっただけでは無く
消耗を抑える意味合いもあったのだ。
俺も直ぐに人化した。
「ウリハルちゃんは」
ミカリンがそう聞いて来た。
俺はMAPを確認して
方向を指さした。
「2キロ程ってトコロだな。」
ミカリンはMAPが見えないので
俺が先頭で走った。
走り出してすぐ足元の違和感に気が付いた。
足が潜らない。
固い地面と同じように走ることが出来た。
俺は気になって砂を手に取ろうして
出来なかった。
何か固い地盤に砂を接着剤で塗ったような感じだ。
走る電車模型のジオラマを思い出す。
あれに似ていた。
なので砂も舞い上がる事は無く
余計な体力の消耗も無いので助かった。
「アモン伏せて!!」
ミカリンの声に反射的に伏せた。
その際に半魔化し
完全久カックン耐性を起動させるが
何も検知しない。
からかったのかと思ってミカリンを見たが
ミカリンは直ぐ左側の砂丘
それを山越えするようなジェスチャーをした。
この向こうに何か見つけたのだ。
反応は何も無いが
一応警戒してそっとー丘の向こうを見た。
バングだ。
手前に2型、その向こうに3型が
ズラーッと整列していた。
不規則な隆起の砂漠だったが
その場所だけは不自然に平だった。
列の後方にはパイプが伸びていて
そのパイプの元は
恐らくウリハルが連れ込まれたであろう
工場を思わせる四角い建造物が見えた。
「あれ、何してるの?」
「何もしていない、一時置き場だと思う」
何か輸出の為に船に乗せる前の
新車の置き場を連想した。
「どうする?」
ミカリンが聞いて来た。
どうするとは破壊するか
隠れてやり過ごすかだ。
「数が数だ。ここで使い切って
ウリハルを救出出来ないのでは
本末転倒だ。やり過ごそう」
やり過ごした事で
こいつらが回れ右して
乗り込んで来る危険も考えられたが
それはもうその時だ。
倒さず撤退を最優先して
逃げ切っても良いのだ。
俺とミカリンは起伏に隠れる様に
先に急いだ。
「それにしてもここって何にも無いねぇ
誰も居ないし・・・魔力も無いっぽくない」
消滅空間を間に挟んでここに来た。
これはあのクリシアの引っ掛かった世界と
同じパターンだ。
「ああ、もうじき消えるんだ。」
俺は何となく納得した。
何も無いハズだ。
もうすぐこの世界は消えるのだ。
引っ掛かった世界と異なるのは
零れて引っ掛かったのでは無く
氷の塊が解けて小さくなって行くように
端から消えて行って
ここだけ残っているのだ。
「精霊も居ない。魔法も使えない
モノが多そうだ。」
地面を見て俺はそう言った。
死んだ大地、バクテリアすらおらず
生命活動の無い土地をそう呼んだりするが
ここは土ですらない。
精霊自体が居ない。
元から居ないのか
かつては存在し滅んだのかは
分からないが
今この場に何の精霊も
存在しない事は間違いないのだ。
外から魔力を集めなければならない。
この世界の主
恐らくあの鬼バング
予想していた0型だろう
彼等、もしかしたら彼だけかもしれない
は
消えるのを延命する為に魔力集めたい
スライド先で主権を取るに先住種族を減らしたい
その両方の目的でバングを送り込んでいたのだ。
俺はミカリンにそう説明した。
「じゃあウリハルちゃんを
攫ったのは・・・。」
「俺なら特別強力な力を持つ勇者
その力を解析し複製出来ればと
考えるだろうな。」
送り込んだバングで
どの位の魔力を収穫出来たか知らないが
この世界の有様を見る限り
焼石に水だったのだろう。
時折空が、大地がモザイク状に解像度が落ちたり
また垂直同期が取れていないかのようにズレては
戻ったりしていた。
もしかしたらこの世界は
デジタルを突き詰めてた世界の
成れの果てなのかもしれない。
建物まで到着した。
遠目では工場然としているかと思ったのだが
近くに来るとどうも違う感じだ。
そう感じたのは
砂漠にドンとこの四角い物体だけしか
置いていないからだ。
工場なら材料の入庫
製品の出庫など大きな搬出口があるが
ここにはそれが無いのだ。
「入り口・・・が無いねぇ」
ミカリンが見回してそう言った。
扉も窓すらも無かった。
巨大な四角だ。
横一辺100m
高さも5階建てのビルに相当する高さだ。
「回り込んで探してみる?」
「そうしたいが、もう時間の
余裕がなさそうだ。」
俺は開きっぱなしの
メニュー画面、ウリハルの表示は
常に気にして見ていた。
HPは減っていないが
状態が発狂になっていたのだ。
俺は悪魔男爵化し
デビルアイで壁を走査するが
バングを見た時と同様
ノイズが走るばかりだった。
素材も固さも厚さも分からないが
もう、やるしかない。
ウリハルはこの建物の中央だ。
「俺の背後に隠れとけ」
俺の意図を読み取ったミカリンは
素早く背後に隠れた。
それを確認してから
俺は渾身の蹴りを放った。
「悪魔蹴撃は破壊力ぅー!!」
俺の叫びに続いてミカリンも吠えた。
「ナガブチィイイイイ!!」
いや
確かに素人だけど
もうっちょっとカッコ良い蹴りになってないかい。
重力操作が使用可能なのは
確認済みだ。
思いっきり重さ盛り盛りで
壁に蹴りを放った。
伝えた衝撃が戻って来ない。
蹴りは壁を破壊したのだ。
破片が飛ぶかと思っていたのだが
それは無く、俺の蹴りが入った場所を
中心に解像度がスゴイ速さで劣り
一瞬モザイク化すると
巨大な穴が開いた。
「この世界で壊れるということは
細かい破片になると言う事ではなく
存在が出来なくなる事の様だな。」
「んー僅かだけど魔力が散ったね」
バングのボディ同様
魔力が形を持ったモノと
ミカリンは判断した様だ。
あ
多分ソレ正解っぽい。
「行くぞ!!」
俺は誤魔化しついでに
建物の中にダッシュで侵入した。
続いてミカリンも入って来るが
施設内に陳列されている物体に
俺達は思わず足が止まった。
1.5m程の数えるのも馬鹿らしい数
カプセルが全面に整列していた。
カプセルは半透明で
1m程度の小人が入っている事が
確認出来た。
起き上がり襲い掛かって来るのではと
警戒したのだろう
ミカリンはレフバーンを抜き
思わず構えていた。
しかし、侵入してきた俺達に反応する事は無く
施設も警報が響く事も無かった。
音を立てているのは俺達だけだった。
取り合えず危険が無いと判断したミカリンは
納刀してカプセルの中の物体を凝視して言った。
「何・・・コレ?こんな小人知らないよ。」
だろうな
しかし、俺は知っている。
元の世界、宮本たけしが育った世界で
宇宙人、グレイと呼ばれている
お馴染みの奴らだ。
瞬間的に理解した。
この世界の主はこいつらだ。
いや、だったのだ。
滅んだ。
悪あがきの復活を目論んで
バングを作り託した。
0型もこいつらの製品なのだろう
目的はこのグレイ共の蘇生というか
再起動だったのだろう。
終わる世界からシフト先の覇権
その為の存在の力回復だったのだが
時間切れだ。
世界が消える方が速い。
引っ掛かった世界の方が
規模は小さいがまだ力があった。
ここは直に消える。
「飛ぶぞ!」
今は説明している時間が惜しい
足の踏み場も無いので
俺はそう言った。
頭上には碁の目の様に
橋が展開されているが
どうせなら、もう飛んだ方が速い。
「OK、あたしは温存でいいの?」
俺の背にしがみつき
ミカリンはそう聞いて来た。
魔力の保有量は俺の方が上だ
俺はそれで良いと言って
ウリハルのいるポイントを目指し
施設内を飛行した。




