第三百二十八話 その辺遠足
「やだっ私ったら、どうしよう!!」
アリアが突然大声を上げた。
俺が何事だと尋ねると
「えーっとええと・・・マウチさんです。
置いて来ちゃいました。」
え?今更
マウチが居なくなった事に
完全スルーだったから
退場を知っているのかと思って居たが
本当に忘れていたのか
進撃のマウチ君終了のお知らせ時
アリアは連絡を受けに
別の場所だった。
受けたクエストを皆に説明し
出発して
すぐ
いや、結構経ってから
アリアは1人足りない事に気が付いた。
しかもアリアにしては
名前がすぐ出てこないと言う
珍しい現象まで披露してだ。
俺は下を向いて沈痛な面持ちで言った。
「マウチは俺達を先に進ませる為に・・・」
ウリハルも俺を見て真似してくれた。
「彼の犠牲を無駄にしてはいけません。」
「ちょっとぉ死んでないでしょ!
もぅ二人とも」
真面目なビビビが俺とウリハルに
突っ込んで来た。
俺のは悪ノリだが
ウルハルのはどうなんだろう。
ビビビがアリアに事の顛末を
説明してくれた。
相変わらずの解説の上手さだ。
「そう・・・だったんですか。
私、全然気づかなくて
おっかしいなぁこんな事初めて」
人名ごと頭からスッポリ抜けた事に
動揺を隠し切れないアリア。
いや
それでいい
忘れた方が幸せな生き物だ。アレは
ただ、解説から気が付いたようで
アリアの俺を見る視線に
「やったんですか」という言葉が乗っていた。
俺もアリアを見る視線に
「邪魔者は消す」と言葉を乗せて返した。
さて整理しておこう
俺達パーティーだ。
リーダー:ウリハル 剣士LV2
参 謀 :俺 魔法LV6(偽装)
ミカリン 剣士LV6(偽装)
アリア 盗賊LV6(ジョブもレベルも偽装)
ビビビ 僧侶LV2
退 場 :マウチ 騎士LV1
でクエストが
ホーンドラビットの角3本納品
ベレン北口スタートでゴールでもある。
期限は3日
ゴール以外で市内に入る事は失格になってしまう。
ホーンドラビット
名前の通り角が生えた兎だ。
角があるのは成体のオスのみ
生息場所はアリシア大陸の森の中なら
非常によく見かけるモンスターだ。
俺とミカリンもリスタート地点で
腰巻だけで良く狩っていた
お馴染みのモンスターだ。
アレ経験値入らないんだよなぁ
まぁ角有りは強いので
最初の頃は避けていたんだけどね。
普段着でボーッと立っていない限りは
間違っても命を失う相手では無い。
最低限の装備でも大丈夫だ。
というか逃げまくるので
戦闘になるのは余程追い詰めないと
掛かってこない。
なので参謀の俺は
バロードへの街道沿いを進み
適当な所で森に入り
罠を仕掛ける作戦を提案した。
「良いでしょう全面的に任せました。」
とリーダーのありがたいお言葉で出発した。
もうすぐ森という所まで進んで
冒頭のアリアちゃんビックリだ。
「ここで休憩しまーす。」
俺は進行を止めてそう言った。
「私ならまだ大丈夫ですよ。」
額に薄っすらと汗を浮かべた
ビビビがそう言って来た。
鎖帷子を着込んでいるので
当然、重いし普段から着こんで
長距離を歩くなんて事はしていないだろう
細目に休憩を入れて行かないと駄目だ。
一度限界に達してしまうと
もう小休止では回復しない
そこでお泊りコースだ。
俺は上記を説明した。
「私が疲れたのです。」
ウリハルが元気にそう言った。
ビビビはウリハルの嘘を
追及する事無く甘える事にした様だ。
「はい、ではここで小休止で」
ウリハルは疲れてなどいない
あれからも度々夜中に
特訓を行っているので
ウリハルの体力は承知している。
レベルこそビビビと同じ2だが
体力は段違いにウリハルが優れていた。
ビビビが心苦しくない様に
気を回したのだ。
俺は背負っているリュックと
装備していた杖も置き
ナイフだけ持ってミカリンに
声を掛けた。
「罠の材料取りに行こう。」
「OK。紐?篭?」
ミカリンは背負っている荷物は無い。
毎度毎度、便利な俺倉庫で
慣れ切ってしまっていた。
今回は授業の一環だから
ストレージは封印すると
前もって言っておいたのだが
良く分かっていない様だ。
「篭だ。狙うのは兎だけだからな」
ミカリンが返して来た質問の意味は
仕掛ける罠の種類だ。
紐は映画でもお馴染みの
踏んだら逆さづりになるアレだ。
猪サイズを狙うならそっちだが
お題は兎なので
紐だと
他の獲物が掛かってしまい
空振りになってしまう事が避けられない
小さいサイズの篭で
兎好みの餌で釣った方が
結果的に早いと思ったのだ。
3人を街道沿いに残し
低木が連なるブッシュに
ミカリンと入って
篭の材料となる蔓などを
集めていった。
「何か懐かしいねー。」
リスタート当初は
良く二人でこうしていた。
始めは生きるのに精一杯で
冒険どころじゃなかったよな。
ついでに食える木の実や果実なども
取ってから戻った。
お土産は予想外だったようで
居残り3人はとても喜んだ。
休んでいる間に篭を編む
迷いなく腕を動かし
見る見る組み上げていく様を
ウリハルは興味津々で見ていた。
「魔法のようです。」
と、俺の魔法を見た時より
驚いていた。
再出発して一時間ほど進むと
周囲の景色は森になっていった。
「この辺りで良いか。」
準備していた罠を仕掛けに
俺とミカリンは左右に分かれ
森の奥に入っていった。
足跡などを観察し
お目当ての兎の生息を確認してから
俺は罠を仕掛け
その上の枝に標として
紐を結んでおく
そうしてから入って来る時に
要所要所に同じ紐の目印を仕掛けたので
それを頼りに街道まで戻った。
街道まで戻るとミカリンは既に
戻っていて、何と既に
目的の角を一本入手していた。
「丁度見かけたからさ」
無益な殺生を好まない
ウリハルに気を使ってか
殺さない様にわざわざ
飛び掛かって捕獲し
角だけを頂いて持ち帰っていた。
これで後2本だ。
罠がそれぞれ成功すれば
もう終了だが
ミカリンだけ森に入って
駆けずり回っていれば
それで終わる気もしたが
それだとウリハルとビビビの
訓練にならない。
このまま続けよう。
「幸先良いな。宿泊しないで済みそうだ」
冒険の野宿も訓練の一環だが
大量に隠れて護衛してくれている人々の
事を考えると、今回は
早期に終了させるべきだと思った。
出来るに越した事は無いだろうが
お姫様が野宿しなければならない事態なんて
もう学園は愚か国自体が滅んでいる時だろう。
ウリハルには必要無い技術だ。
罠から離れた場所で狩りを行うので
もう少し街道を進んだ。
その最中、アリアがさり気無く
俺の横に並んで小声で話しかけて来た。
「実はですね・・・」
そう言ってアリアは隠し持っていた
袋を取り出し、口を開けて
袋の中を俺にだけ見せてくれた。
中身はホーンドラビットの角が3本だった。
「上手く行かなかった時はコレをと」
なんという忖度だ。
クエストごとの支給品配布の際
俺達にだけこっそり渡されたそうだ。
「それとですね。」
後方にワイン組が目視しにくい距離で
ピッタリ付いて来ているそうだ。
何か起きればすぐ飛んでくる構えだ。
そういえばテーンとクワンも
バックアップと言っていた。
袋の中身から察するに
既にクエストを知っていたとすれば
事前にこの付近に潜んでいるかも知れない。
スタート地点から最も近い狩場だ。
どう考えても
ここ以外に向かうメリットは無い
必ず俺達はここに来るのだ。
そうなるとあんまり奥に行くのも悪いな。
ここらで始めるか。
さて陣形だが、どうするか。
ウリハル的には討伐対象にならない
野生動物だ。
後ろで見ていてもらおうかと
提案したのだが
「角だけを狙えば良いのですよね。」
そう言って前衛やる気満々だ。
出来るのか?
あのサイズの生き物の角だけを
狙った玉砕剣。
ちょっと見て見たい気がしたので
前衛左右でミカリン、ウリハル
その背後に俺とビビビで援護。
アリアは単独先行して
前衛を誘導してもらう事にした。
「今、思うとマウチ君はあれで良かったのかも
どのみち具合が悪くなっていたかも知れないわね。
今まで歩いた距離とこれからの森の散策
あの鎧じゃとっくにへばってしまっていたに
違いないわ。第一、歩く度に
ガッシャンガッシャン音を立てていたら
兎だって逃げてしまうもの」
「静かにしろー!!兎が逃げるだろうが」
ここまでの行軍でかなり疲労しているハズなのに
脳の調子は良さそうなビビビを
俺は恫喝した。
「・・・ごめんなさい。」
小声で謝罪してきたビビビ。
「アリアを見習え、音一つ立てずに
移動する素晴らしい技能だぞ。」
俺は自慢げにアリアの先行しているであろう
場所を指さして言った。
ガサガサガサガサッガササ!!
言ったソバからアリアが
すんごい音を立てながら戻って来た。
おいおい
頼むよ。
アリアらしくない。
必要で無い時も
もう音を立てないのがクセというか
体質というか自然に無音なのだ。
その彼女がこんなに音を立てて移動とは
理由は直ぐに分かった。
ブッシュから青い顔を出して
アリアは言った。
「バングです。逃げましょう!!」
その瞬間、アリアの頭上を
人影が飛んだ。
フルアーマーにタワーシルド
肉厚のショートソード
テーン先輩だ。
受け身もロクに取れず
俺とビビビの間に
転がって落ちた。
「グゥ」
盛大に凹んだタワーシールドが
有り得ない方向を向いていた。
「腕が折れている!」
訓練とか言ってる場合じゃない
俺はレベル偽装解除を3人共に
強制施行し叫んだ。
「アリア!
ウリハルとビビビを連れて街道まで戻れ!
ミカリン頼む
俺は先輩を治療してから行く!」
腰に差しておいた短杖を装備
「ちょっとだけガマンして下さい。
3.2.1で腕の向きを戻します!」
このままでは呪文を唱えても
くっつかないのだ。
「行きますよ・・3!!」
俺は
テーンの腕の方向を正しい方向に
強引に向けた。
「グアッ」
俺は素早く治療呪文を詠唱した。
その間にアリアは飛び出し
呆然となったビビビに活を入れていた。
「参ります!うおおおおおお」
そしてウリハルはそう言って
抜刀し今しがたテーンが飛び出して来た
茂みに飛び込んで行った。
ビックリして
呪文失敗しそうになったじゃねーか。
「えええええ?!」
振り返り慌てるアリア。
「あたしに任っせて。」
軽い調子と笑顔でミカリンはそう言ってから
ウリハルを追って茂みに飛び込んで行った。
「ウリハルはミカリンに任せろ。
アリアはビビビを連れて脱出しろ」
「分かりました!!」
アリアはそう返事して
事態が飲み込めずオロオロとしているビビビを
引きずる様に撤退して行った。
俺はテーンに向き直った。
「どうですか?!」
そう言いながら俺は半魔化し
デビルアイでテーンを走査した。
上手く行ったようだ。
テーンは手を握ったり開いたりしながら言った。
「動く、これなら行ける。」
「駄目だ。逃げろ
ご自慢のシールドがあのザマなんだぞ!!」
@Tetra1031
ツイ垢って言うんですか、呟いても何の反応も無く寂しいです。誰か構って下さい。




