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ぞくデビ  作者: Tetra1031
328/524

第三百二十七話 進撃のマウチ君いけいけ 

「授業で使う訓練用じゃない、本物の

武器や防具、これが実戦である事を

否応にも認識させてくるわね。

私ったら緊張して失敗したら

どうしよう~って思って居るのに

みんな馴れているのかしら

随分とリラックスしているように

見えるわ~。」


いや

ビビビも緊張している様には見えないぞ。


遠足の朝だ。

1期生は講堂で説明を受けた後

装備を整えて大型の馬車に乗り込んだ。


座席の無い荷馬車

皆、俺達の様にパーティーで

一塊になって揺られていた。


見回してみると

花寮と月寮の貴族は

自分専用の武器防具を身に着けているが

ほとんどの者は学園貸し出しの武装だ。

E~Sの低いランクの冒険者が

愛用している青銅の武具で

決して性能は高いとは言えないが

これでも「本物」である。

初めて身に着けた者もいるのであろう

1期生はみんな神妙な面持ちだった。


「緊張いたしますわ。」


間の抜けた変な声でそう言うウリハル。

馬車の中でひと際輝いていた。

物理的にもな。


ガバガバの使っていた勇者の剣は

まだ受け継がれておらず

剣は俺が作成した得物だ。

鎧も本来なら他の1期生と同様に

貸出の予定だったのだが

セドリックがガバガバに内緒で

送りつけて来ていた。

もう、すごい親ばか炸裂

プラチナの鎧だ。

眩しくてしょうがない。


フルアーマーだったのだが

ウリハルは玉砕剣時に

動きづらいと言って

胸当て、肩、腰、脛

それと肘から指先までの

パーツを使用し実用的な軽装に変えた。

その際の加工を頼まれたのだが

俺は穴を開けないと出来ないと断った。

しかし、ウリハルは


「はい開けて下さい。」


と恐ろしい事を言った。

目を奪われる芸術品の様な

鎧に後から穴を開けるのは

非常に気が引けたが

本人の強い希望だ。

俺は鎧の製作者に心で謝りながら

加工した。


「キレイな鎧だよね~」

「ええ、羨ましいです」


元のフルアーマー状態なら

玄関に飾れるのだが

届いて開いて即、加工の流れで

ミカリンとアリアはそれを

見ていないので

真面目にそう言った。


元の状態を知らないで見れば

これはコレでこういうモノだと

思えるのだろう。


アリアは皮をメインの素材にした

動きやすい装備だ。

斥候を主に担当してもらうので

重かったり

光を反射する素材はアウトだ。

ミカリンが冗談で

ミニスカートを追加したのだが

良い感じにマッチして

アリア本人も気に入った様だ。

本番の今日もつけて来ていた。

因みにズボンを穿いているので

パンツは拝むことが出来ない。

残念だ。


「ミカリンは装備しないのですか」


ウリハルはそう聞いて来た。


「え?もう装備済みだけど」


なんと制服のままだ。

授業中と異なるのは

足は野戦用のブーツ

手は指だしの手袋

背中にはレフバーンだ。

って

おいおい

全てを焼き払う気か・・・。


「冒険を舐めるんじゃない」


俺は語気を荒げてそう言ったが

ミカリンとほとんど同じだ。

違うのは獲物が注錫で

ローブのお陰で下が制服だと

パっと見分からない事位だ。


「自分だってあたしと変わんないじゃん」


ミカリンはそう言って

俺のローブのフードを

強引に下ろし、下が制服な事を

さらけ出した。


「でも魔法組後衛は重装備に

あまり意味がないわ。

リディが言いたいのは

前衛の剣士としてはと

そういう意味なんじゃないかしら」


ビビビが真面目に俺を庇うべく

助け船を出して来た。

ミカリンをまだ良く知らないか

まぁ今回の冒険で馴れてくれ。


そう言うビビビだが

自分は後衛だけに

徹する気は無い様だ

法衣の下に鎖帷子くさりかたびらを着込み

教会の紋章の入った縦も持って来ている。

身体を張って前に出る気満々だ。


「お前ら・・・遊びじゃねーんだぞ。

浮かれてると死ぬぜ!!」


先程から輪の中で

仏頂面していた騎士が

不機嫌丸出しで言った。


クワン先輩をして

ヒヨッ子すぎてなぁと言わせしめた

一応は騎士の家のマウチ君だ。

相変わらず顔がでかい

物理的にも


「お前らハッキリ言って

これから実戦ってレベルじゃねーぞ

一応は守ってやるけどよぉ

責任は持たないからな。」


「まぁまぁ。今から緊張して

イタズラに気力体力を消耗しても

しょうがない」


俺はなだめた。

俺にはレベルが見えている。

実戦てレベルじゃないのは

レベル1のマウチ君だけなんだが。


因みに俺とミカリン、アリアが6(偽装)

ウリハルとビビビが2だ。


顔の体積ではぶっちぎりで

マウチ君が一番だ。

顔がでかい!

ヘルムを被ると更にデカイ

何か鎧も中途半端だ。

装飾を排して実用に拘ったのか

職人が途中で嫌になっちゃったのか

中途半端だ。

それでも体型が良いひとなら

カッコよく見えるデザインなのに

顔がデカいわ足短いわで

もう少しでSDキャラだ。


そんな時に馬車が減速し

停車する気配だ。


全然遠くに来ていないぞ。


号令が掛かり外へと出る事になった。

ふと見れば隣にいたパーティーに

ワインとリキュールの姿があった。


近くで護衛してくれるのであろう

クエストも多分、不思議な力で

同じルートを辿る事になるんだろうな。


馬車の外に出て見て

俺はびっくりだ。

ベレンの北門だ。

すぐそこに冒険者協会がある。


パーティの代表者が集まる様に

声が掛かった。


俺はアリアに目くばせした。

アリアはそれだけで

呼び出しに応じて輪から離れて行った。


「おい、代表者誰なんだよ。」


その頃になって

マウチ君がガシャガシャ音を立てながら

やっと馬車から降りて来て吠えた。


「痛ってぇ、何だコレ

膝曲げると肉挟まるぞコレ」


馴れて無さすぎだ。


「そりゃウリハルでしょ。」


ミカリンがあっさりそう答えた。


「ハァ?何勝手に決めてんの」


ガシャガシャ音を立てながら

やっと輪に合流だ。


「勝手も何も、位が一番上なんだから

当然そうなるわよ。話合いとかしてないわよ」


代表者を決める話し合いに

マウチ君を省いた。

そう思い込んで不機嫌だと

ビビビは思った様だ。


いやビビビ

こいつこの口の聞き方が

デフォだから

後、一切気を遣わなくて良いよ。

虚しくなるだけだから。


「何?代表者やりたいの」


俺は軽く聞いて見た。

こいつを代表にしても面白いかも知れない。


「ハァ?何でそうなんの

誰もそんな事言ってねーし」


「私は特に代表に拘りませんよ。

能力で言えばリディが相応しいかと」


ウリハルまで気を使い始めて

代表下りてもいいですよ宣言だ。

だが、その後の言葉は逆効果だった。

マウチに薪をくべる結果になった。

更に不機嫌ヒートアップした

マウチ君は早口になる。


「それこそ認めねーよ

何でこんなの代表とか

依怙贔屓してんじゃねーよ。

何様だよ。」


「お姫様だろ。」


ウケを取って場を和ます

つもりだったが俺のも逆効果だったようだ。


マウチ君は俺を睨んで凄んだ。


「何、お前さぁ代表とか

責任取れんの?あ?」


はぁ

お前、本当に騎士の家の者なのか

チンピラみたいだぞ。


「お前、何なの?

自分がやるワケでもない

ウリハル反対リディ反対

一体何がしたい訳?」


ミカリンが呆れてそう言った。


「クロンボは黙ってろよ。

俺は冷静に事実を言っているだけ」


「謝罪しなさい。」


ウリハルが低いトーンで

そう言った。


あーあ

怒っちゃった。

こいつは自分の扱いには鈍感だが

信頼を置いた相手への侮辱には

スゴク敏感だ。


ミカリンが俺を見た。

はいはい、分かったよ。


「あー大変ですー。パーティーの

マウチ君が急病でーっす!!」


俺は代表者が集まっている辺りに

向かって大声を出した。

さり気無くマウチ君の鎧に

振れてオーラをダイレクトに注いだ。


バックアップ班の上級生が

こちら向かって掛けて来た。

良いタイミングで

膝から崩れ落ちるマウチ君。


「どうしたの?」


月寮の2期生、真面目そうな女子だった。


「馴れない鎧と馬車に揺らされたせいで

具合が悪くなったようです。」


俺がそう言うと

上級生は兜を外すのを手伝うよう

俺に頼んで来た。

二人で兜を外すと出て来たのは


まぁ醜い

真っ青な顔色

涙、鼻水、よだれ、脂汗と

血液以外の体液をダラダラと

現在進行形で


出血以外大サービスだ。


「あーっっ・・・あっ・・ぁあ」


器用だなマウチ君

眼球の動きが左右で異なっていた。

どうやってやるのそれ

ワナワナと震えるから

鎧がうるさいぞ。


「いやぁ待ってて!!」


一見しただけで

自分の手に余ると判断した

上級生は聖道の教師を呼びに走った。

・・・キモチワルイ生き物から

離れたかっただけかもしれない。


「何だコレは?!」


マウチ君です。


呼ばれて駆けつけた聖道の教師も

この症状に該当する怪我、病気を

特定出来ない様子だ。


聖道の教師が懸命に話しかけるも

反応すらしない。

マウチ君、先生にその態度は

どうかと思うぞ。


聖道の教師が

取り合えず治療の魔法に掛かるが

一向に改善される気配は見られなかった。

無理だと思う

物理でも魔法でも無いダメージだ。

最弱オーラだったんだが

レベル1にはキツかったかな。


結局、マウチ君は担架で運ばれていった。

マウチ君の進撃は終わった。



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