第三百二十三話 毎度の結末
接近してくる集団を感知した。
一応気配を忍ばせてはいる様だが
アリア、増してやダークの
それを知っている俺にとっては
チンドン屋並みに騒々しかった。
この茶番もクライマックスを迎え
そしてあっという間に終わるという事だ。
エロい吐息でもたれ掛かって来る
フレアに俺は言った。
「事情は分かった。いい加減に
本題に入って欲しいんだが」
「え?」
「え?じゃねぇ。俺を呼び出して
どうしようって言うんだ。
俺には全く関わりの無い事だろ。」
こいつには色仕掛けが通じない。
俺の言葉に瞬間でフレアの表情が変わった。
ほう、初めて心と体が一致したようだ。
不機嫌極まった表情だ。
しかし、その表情も一瞬だけだった。
フレアは突然自らシャツを破り
悲鳴を上げて座り込んだ。
間髪を入れずに接近してきた
集団が突入してきた。
「何をしているんだ!」
「フレアちゃん!大丈夫?!」
ありゃ
ほとんど美人局だよ。
二重の作戦だったのか
色仕掛けで落とせればソレで良し
効かなかったり
効き過ぎて
俺がピンクな暴走に及んだ場合の
奥の手を用意していたのだ。
フレアは両手で体を隠す様に
立ち上がると集団の方に走った。
「助けて」とか言っていた。
「お前・・・なんて事してくれんの」
「あ?退学とかじゃもう済まないよコレ」
「どうすんの?どう責任取るのお前?あ?あ?」
集団は背にフレアを庇うように
横一列になり俺に迫って来た。
洋画などでよく見る肩を突き飛ばす行動をしてきた。
俺は突き飛ばされるまま受け身も取らず
地面に仰向けに倒れた。
「何とか言えよ。テメェ」
「おい婦女暴行犯!!」
今日も星がキレイだ。
このまま退学でもいいかな。
何をしているんだ俺は
集団は倒れた俺を取り囲み
何か恫喝しているが
もう聞いていない
最初の方の質問にだけ答えるか。
俺は死なない程度の静電気を
一番下っ端そうな奴に
数秒間照射した。
脳が伝えるより遥かに強い電気信号だ。
横隔膜はあらん限りの筋力で引き絞られ
肺に有った空気は一瞬で体外に排気され
壊れた楽器のような
または中型の哺乳類の泣き声の様にも聞こえた。
飛び上がり大の字に硬直し
先程の俺の様に受け身を取る事無く
仰向けに倒れた。
それでも照射を止めない
そのままエビ反りながら
顔面を校庭のドロに埋めても
まだブリッジを続けた。
この秒数だと
心臓が停止する可能性もあるが
幸い止まってはいなかった。
先程までの勢いはどこへやら
残った集団は助けるでも逃げるでもなく
呆然と突っ立ったままで
起きている出来事を
口を開けて傍観しているだけだった。
俺は重力操作を使用して
見えない巨人に起こされている
人形の様に起き上がった。
その頃に良い感情が溢れてきている。
遅いな。
「あー俺が暴力振るうのは女子だけじゃないから」
「このバケモンが!!」
リーダーっぽい魔族の上級生が
隠し持っていた小刀
これはダガーっぽいな
を俺の腹部に突き立てて来た。
解析の結果
防御も回避も要らなかったので
体重だけ10倍にして待った。
ダガーは俺の体に刺さる事は無く止まった。
上級生は握りが甘かったのか
すっぽぬけ、自分の手の平を
盛大に切ってしまった。
致命傷を避けるためにわざと・・・
いや握力が無いだけだろうな。
尻もちを着き
怪我をしたか確認する為に
自らの手の平を見た。
見るのに合わせるかのように
パックリ開いた両手の大きな傷から
ダラダラと血が溢れた。
「うわあああああああ」
押さえたいが
その両手がその様だ。
悲鳴を上げながら溢れる血を見ていた。
仲間が回復に入る様子は無いので
すかさず人化して治療魔法を唱えてやった。
青い光に照らされ傷は見る見る塞がって行く
「・・・おおお。」
初体験なのか上級生は
その様子を驚きの表情で見ていた。
治療が終わると再び半魔化して
俺は言った。
「直ったな、じゃ続きだ。」
治療したそいつの眼球に
静電気を直撃させた。
視神経はダイレクトに脳に繋がっている。
痛みを遥かに超えた電気信号が脳を襲った。
その上級生はどんな映像を音をみたのだろう。
後で聞いて見たいが
記憶自体がかなり消えると予想された。
目も魔法で治療しなければ
最低でも一日は見えないだろう。
落ちたダガーを拾い上げ
パッキンパッキン音を立てながら
俺は食った。
鋳造の安物だ。
まぁ学生が持っている得物だ。
当たり前か
「待ってくれ。何か勘違いしてない?」
俺は思わず噴いた。
ここまで来てすっとぼける気だ。
万能なのソレ?
「うるさい」
俺は笑いながら
そいつの下の奥歯
上だと気絶するので
下の奥歯に静電気を一瞬打ち込む。
虫歯が発覚した瞬間のあの痛み
それの数倍だ。
「はーーーーーーーーー!
はーーーーーーーーーああ!」
そいつは膝から崩れ落ち
両手で外から口の中から
痛みが走った歯を押さえて
変わった悲鳴を上げていた。
そこで1人走って逃亡している者を
感知したのでMAP画面だけを頼りに
石壁で行く手を塞いだ。
派手な激突音に続いて
地面に転がる音が続いた。
上手く行ったようだ。
「あ、逃げるともっとヒドイから」
ただ茫然とする者
膝を着き許しを請う者
あの女に頼まれただけとか言ってる者
皆、気絶させた。
二階から跳躍し
校庭に綺麗に着地する人影を見た。
着地の衝撃を前転で逃がして
制動と移動を行うという
高度な技だ。
確認するまでも無く
テーンとクワンだろう
見るに見かねて飛び出した。
「邪魔が入った。続きは空で聞こう」
青冷めた顔で惨劇を目撃していた
フレアは完全に腰が抜けていた様だ。
返事も出来ない。
まぁ許可も否定も関係無いんだけどね。
俺は翼を展開して短く滑空すると
足の指を延長しヘタりこむフレアを
鷲掴みにすると一気に上昇した。
ウリハルの様な大気の保護はいいや
頭を冷やしてもらおう。
見る見る小さくなっていく
足元の死屍累々と先輩二人。
テーンは何か俺に向かって叫んでいた様だが
俺は気にしないで上昇を続けた。
足の指に掛かる体重から
3G程で止めて置く
この位ならジェットコースター以下なので
健康に影響しないだろう。
フレアは暴れたり悲鳴を上げたりはしなかった。
何の感情も漏れてこないトコロを見ると
どうもこれは
もう理解が追いつかず脳が働いていない様子だ。
なので落とす振りとか止めて
「メタ・めた」に直行する事にした。
夜なので人目はそこまで
気にしなくても良いだろう。
高度はそんなに取らず
ドーマまで飛んだ。
裏の勝手口に下り
ぐったりしているフレアを
お姫様抱っこした。
もう目は虚ろで
青紫色になった唇は震え
奥歯をカチカチと小刻みに鳴らしていた。
特に話しかけずにそのまま
勝手口から入った。
「・・・・。」
ただいまを言うべきだったんだろうが
何か全てにおいて面倒な気分な俺は
無言で中へ入っていった。
「え?え?」
料理中だったブリッペは
手を離せない状態だったのか
フライパンと俺を交互に見つめ
オタオタしていた。
俺はキッチンの先
食事後にくつろぐソファにフレアを
横たえるとストレージから毛布を
取り出し掛けた。
フレアの目は小刻みに周囲を見回しているが
何かしばらく話せそうに無い気がした。
ショック状態というのだろうか
デビルアイで走査したが
治療が必要な外傷は無い
ただ血圧が偉い下がっていた。
「ちょっと・・・その子どうしたの?」
また突然夕飯時にと
怒りたかったブリッペだったろうが
抱えて連れて来たフレアのただならぬ様子に
怒る所では無く困惑していた。
「グレアいるか?」
「あ、うん。お店の片づけを」
「呼んで来い。火は俺が見てるから」
ブリッペは珍しく口答えせずに
言う事に従った。
普段からそうして欲しい。
俺は先程までブリッペが
炒めていたモノを見て
もう少し火を通した方が良いと思い
一旦、横に避難させたフライパンを
再び火の溢れる場所に移し
調理を再開した。
そんな時、眩い光と
強烈な嫌悪感を感じた。
これは天使の波動だ。
体感でミカリンが追って来たのだと理解した。
俺は人化して調理を続行した。




