第三百二十一話 待ち合わせ
痛みをこらえて立ち上がり
椅子を起こした。
ここには山瀬が居ないので
自分で起こすしかないのだ。
椅子ごといったせいで
すごい大きい音になってしまった。
クラスメートの注目が集まってしまい
ちょっと恥ずかしい。
しかし、鋼の精神で二度目の
ずっこけの準備だ。
「なぁーんてね」という二段式の場合も
多々あり得るのだ。
「な・・・。」
ホラな。
「名前が書いて無いね。」
あれ
声に出して読まさせる場合では無さそうだ。
俺はミカリンから中身を返してもらい
自分で読んだ。
場所と時間を指定してあり
1人で来る様に念押しされていた。
差出人の名前は中身にも
封筒にも無かった。
「いや、果たし状かも知れんだろ」
恋の告白と断定出来る文脈は無い
俺はそう言ったが二人とも
果たし状では無いと言い切った。
どうして分かるのか
説明を求めたが
「わかるよねー」以外の
説明はなされなかった。
ミカリンは完全に面白がっていた。
ウリハルは興味津々のようだ。
アリアは何か快く思って居ない気がした。
「まぁ、取り合えず行ってみるか」
指定された場所は学舎の裏って
ここは裏三半機関の秘密基地の近くじゃないか
時間も各寮の夕食開始時だ。
全く持ってイジメ集金と同じシチュエーションだ。
これは警戒した方がいいな。
乗っ取りを快く思わない連中が
俺をどうこうしようって寸法かも知れん
まぁ恋愛よりも
正直そっちの方が手段に迷わなくてイイ
ふふ、やってやるぜ
俺は
待ち合わせ場所に
時間前から待機した。
さぁ!来い!!
そして
一時間が経過し
誰も来なかった。
俺はお腹を鳴らして
トボトボとその場を後にした。
「これはヒドいです!」
「うわっ」
暗がりから声を掛けられ
俺はビックリしてしまった。
声の主はアリアだった。
お前・・・工作員スキル使ってまで
覗き見してたのか
でも、俺が逆の立場でも
面白そうなら見るんだろうな
責めなくていいか
何か俺に同情してくれている様だしな。
見ればアリアは涙ぐんで怒っていた。
「まぁこんなモンだよ」
入学初日から色々やらかしている
俺の事を快く思って居ない人間が
大勢いても当然だ。
なんか嫌がらせやイタズラも
したくなるってもんだ。
俺は優しくアリアにそう説明した。
「そんな、だからって許すんですか」
「許す?誰がそんな事言った。」
許すワケ無いだろ
俺は悪魔男爵化して超低音で唸った。
「ひっ・・・こ殺すのはどうかと」
青ざめて強張るアリア。
本気にしている。
どうもミカリン相手とは勝手が違うな
俺はチンチクリンに戻って
冗談だと告げメシを食いに行こうと
アリアを誘った。
案の定、見張りの為に
アリアも食事を摂っていなかったようだ。
ミカリンとウリハルは
覗きに参加しておらず
普通に夕飯を取ったようで
俺とアリアが食堂に到着した時は
もう食事を終え、部屋に戻った後だった。
開始から一時間以上も経過しているので
食堂は人がまばらになっていた。
幸いにも定食は残っていて
少し冷めてはいたが有り付く事が出来た。
まぁ駄目でもフレアに教わった
パンと飲み物でも良かったのだが
日替わりを逃した時の手段でいい
アリアと雑談しながら頂いた。
部屋に戻り、顛末を説明した。
俺はミカリンに「笑うなあ」と
いつでも突っ込む準備をしていたのだが
予想外にミカリンもウリハルも表情が固い。
「それは無いよね。」
「・・・ヒドイと思います。」
あれ
止めろよ。
大天使と皇族が「許さない」って
本当に危険だから
俺は話しを流すべく笑いながら
「まぁこんなもんだろ」とお茶を濁し
風呂に逃げた。
話はこれで終わるかと思って居たのだが
終わらなかった。
次の日の体術の授業の後
俺の机の中に再び封筒が入っていたのだ。
何だよ恐怖新聞かよコレ
隠せば良かったのだが
普通に取り出してしまい
3人に目撃された。
「アハハハ・・・。」
俺は取り合えず力無く笑ったが
3人とも眼力がスゴイ
「アモン!見せて」
おいミカリン、アモン言うな。
俺の返事を待たずに読み出すミカリン
ウリハルもアリアもミカリンの
背後に回って眼球を左右に
動かしていた。
ウリハル読むの速いな。
「「「うーん・・・・。」」」
読み終えた者共が
皆、腕を組んで唸った。
「何て書いてあったんだ。」
当人が読んでいないぞ。
「昨日はアクシデントに見舞われたんだって」
そう言いながら
ミカリンは手紙を戻して来た。
俺はやっと読むことが出来た。
内容は謝罪からスタート
それも何度も何度も真剣に謝っていた。
その後、また今日、同じ時間
同じ場所で待っていると言う内容だ。
「絶対、からかってるよ。」
ミカリンが少し怒った口調でそう言うが
ウリハルは反対意見だ。
「そうでしょうか、謝罪の文章には
心が籠っていたと感じます。
本当にアクシデントだったのでは」
ミカリンは引き下がらなかった。
「肝心のアクシデントの内容が
これっぽっちも書いてない。
嘘だからじゃないのかな」
これにはアリアが同意した。
「ですね。アクシデントの内容が
書いてあれば少なくとも昨日
そのような事が起こっていたのか
調べられます。真実を検証出来ます。」
ウリハルはそれでも意見を変えなかった。
「匿名です。事件を書けば
事前に特定されてしまいます。
それを恐れたのでは」
ミカリン→嘘。からかわれている。
アリア→情報が少なすぎて検証できない。
ウリハル→内容は本当。
見事に分かれた。
「ま・・・リディは信じますか。」
三者平行線のまま
ついに
ウリハルが真剣な目で
俺にそう聞いて来た。
「嘘でも真実でも、どっちでもいい
行くだけだよ。」
「馬鹿を見るだけだと思うよー」
ミカリンの口調には
俺を心配しているニュアンスが含まれてた。
ちょっと意外だ。
俺の馬鹿にされている様を
一番喜んで見たがるかと思っていた。
「はは、何も失いはしないさ。
からかってる方も、その内飽きるよ。」
俺はアリアの方を見て続けた。
「どのみち行かない事には
何も進展しないさ。」
その後、ウリハルを見て
ちょっと真面目に言った。
「俺にとって信じるってのは
積み重ねの結果、確率の希望的観測だ。
何も情報も無いのに信じたりはしない。」
ウリハルの瞳に影が走った。
「私は・・・信じたいです。」
「そこは同じだよ。だから行くんだ
何でもそうだが始めない事には
何も始まらないんだ。」
ミカリンは俺の意見を聞くと
自分の主張は一切前面に出さなくなった。
「分かった。で、付き合うの?」
アリアとウリハルが興味深々になった。
その様子を知ってか知らずか
ミカリンは続けた。
「それともハーレムに入れるの?」
俺は真剣な面持ちをキープして答えた。
「俺にとってハーレムとは希望の場所だ。
会ってもいない相手をそこに入れ」
まだ言いたかったが
もう誰も聞いていないようなので
そこで静かにした。
そんなこんなで
24時間前と全く同じ状況になった。
いや、状況は少し
うーん、かなり違う。
ぱっと見、一緒だが
今回は隠れているのは
アリアだけじゃないぞコレ
俺は半魔化してMAP画面と
完全膝カックン耐性
それに悪魔耳の感度を上げて
周囲を探った。
アリアは前回と同じ場所でスキルを使用していた。
そこにウリハルとミカリンも潜んでいた。
で
それだけじゃないぞ。
集金の空き教室にファーがいる。
そして二階の教室には
体格から照合するとクワンとテーンだ。
それぞれどんな思惑があるのか知らんが
ヒマだな
お前ら。
完全膝カックン耐性が
急速接近してくる物体を補足した。
その物体は廊下を小走りしていた。
不自然な感じがしたのは
出来るだけ足音を立てない様に
しているせいだろう。
しかし
本人の努力の割に結構音が響いていた。
工作員スキルは保有していないのは
間違い無かった。
「嘘ー誰か来たよー。」
「ミカリン声が大きいです。」
悪魔耳が捉えたミカリンとアリアだ。
「・・・信じられません。」
おいウリハル
ちょっとショックだぞソレ
「確実に・・・殺す」
ファー!!!
もうキャディみたいに叫びたい
ファーーーって
「ほぅ泥棒猫がノコノコと」
「我ら二人を相手に勝てるかな」
騎士ー!
いや暗黒騎士でしょこれじゃ
俺はドキドキしていたが
一瞬にして違う方向のドキドキに変わった。
逃げて
手紙の人
逃げてー。
俺の心の叫びは虚しくも
届く事は無く
接近者は廊下の扉から
出て来てしまった。
俺は迎え撃つようにそっちに
体を向けて正面に捉えた。
「ハァ・・・ハァ
良かったぁー来てくれたんだ。」
太陽の下なら
きっと眩しい笑顔だったに違いない
しかし、月明かりは少女を
妖しく艶やかに照らした。
頭部をガードする様に湾曲した角
尻尾は見えない
有ってもスカートより短いと言う事だ。
羽は無い
折りたたんでも背中は
あそこまでスッキリとしないだろう。
高くも無く低くも無い身長。
太っても痩せてもいない体格。
ヒロインを張れる美少女が
走ったせいで乱れた呼吸をしていた。
前年度ガルド学園マドンナ選手権第3位
フレア・ハイラインだ。
「嘘」
「そんな」
「信じられません」
突っ込みたいが
俺も同意だ。
ルームメイト達よ。
「くっそビッチがぁ
テメェにゃあ取り巻きの〇ンポが
ダースであるだろうがよぉ」
聞かなかった事にしようファー。
「テーン」
「クワンちゃん」
「おいテーーン!!」
「クワンちゃん!!」
パニくってる。
剣の勝負ならこうはならないんだろうが
青春フィールド上では
腕力は出番が無い。
このケダモノの集団の中で
一番カワイイ反応が3期生というね。
なんか和んだ。




