第三百二十話 謹慎開けて
酸も種類によってはガラスを
溶かすらしいが
メタボの出す酸はそれでは無かった様だ。
ガラスにへばりつき
分泌を始めるが効果が無いとわかると
へばりつくのを止め
分泌も停止した。
常に帯びているワケでは無いようだ。
まぁ、そうで無ければ木が解けるか
あくまで攻撃時のみの様だ。
俺が倒したメタボは燃えて炭に
なってしまったが
残りの面子が倒した分は
死体が残っていた。
風魔法の切断と剣の物理での切断
並べて比較してみたが
目に見えた差は無い
魔法にも物理にも
特に耐性が見られない。
死体の周囲にも溶けた様子は見られない。
切断面を木の棒で突いても
棒が溶解する事は無かった。
体液そのものが酸ではなく
分泌の際に複数種類の体液を化合して
酸化させていると思われる。
それにしても気持ち悪い生き物だ。
探索はここまででサンプルを土産に
ブンドンに引き返す事になった。
後はブンドン在住の学者とやらの
分析を期待しよう。
弓に風魔法どちらも有効だ。
プルが単独で挟撃に出たのも
彼女なりに手ごたえを
感じての事だったのだろう。
とにかくエルフには有利な相手だ。
「そうだね。森の中での討伐は
エルフに任せてもらおう。」
以上を支部長室でギルバートに報告した。
その最後にプラプリが付け加えてそう言った。
ギルバートはバツが悪そうにも
頭を下げてエルフの申し出に
甘えると言った。
「そこまで、恐縮しないでください。
人族と共生の為に我々だって
何か役に立たねばいけませんので」
そう言うプラプリにも
ギルバートはなんか恥ずかしそうだ。
「どうした。何かマズいのか?」
些細な事でも積み重なれば
馬鹿にならない事態に及ぶ事もある。
イジメもそうだが
始めは些細でも加速し
麻痺して度を越すのだ。
俺はギルバートにそう聞いた。
「いや、ブンドンの存在そのものがだね。」
防衛に困ったエルフの要請と
対バング用に建設された村だ。
それが結局、エルフに助けられている。
これが恥ずかしいと
ギルバートはもじもじしながら告白した。
なんだろう今の俺には
ギルバートの苦しみがよく分かった。
「いえいえ、我々がここまで
力を身に着ける事が出来たのも
ブンドンあっての事です。
これは恩返しだと思ってください。」
プラプリはイケメン笑顔で
嫌味なくそう言った。
いいなぁイケメンは
仮に俺がエルフで
同じセリフを言っても
きっと嫌味にしか見えない。
そうだ。
丁度良い、昨日はそれどころでなく
聞けなかった事を聞いてしまおう。
「ボーシスさんが見当たらないようだけど」
これにはギルバートとプラプリが
答えてくれた。
今はエルフ里に居るそうだ。
風魔法の高速移動が出来ないボーシスは
選抜隊には加わらず
里の防衛のお手伝いをお願いしているそうだ。
良かった。
とっくに溶かされて死にましたとか
言われたらどうしようと思って居た。
まぁ雰囲気で
そんな事態で無い事は感じてはいたのだが
実際に聞くとやはり安堵した。
時間も差し迫っていたので
俺とウリハルはブンドンを後にした
まだ陽があるので高高度で超音速飛行だ。
1時間も掛からずドーマ郊外の
射出口のある小高い丘まで来た。
もう授業が終わっている頃なので
寄り道はしないで地下道を
一気にガルド学園まで進んだ。
俺の部屋の隠し扉から入った。
部屋は無人だったが共用スペースには
人のいる気配がした。
「二人とも戻って来ている様だな。」
「早く顔を見せて安心させましょう。」
ウリハルの意見に頷いて同意した。
人化すると一気に来そうな気がしたので
半魔化のまま外観だけチンチクリンに戻した。
「ただいまー。」
そう言ってドアを開けると
共用スペースにはアリアとミカリン以外に
二人学生がいた。
来客中だった。
俺はここで焦った。
何で自分の部屋から「ただいま」なんだよ。
迂闊だったデビルアイで見てから
出れば良かった。
そんな俺の内心を知らずに
ミカリンは返事をしてくれた。
「おーっ帰って来た。おかえりー」
「ご心配をお掛けいたしました。」
ウリハルも何の疑問も持たず
丁寧にお辞儀をした。
何て誤魔化すか考えていたが
ウリハルに気が付いた来客二人が跪いた。
「あ・・・あの、こちら」
アリアが気を利かせて紹介してくれた。
男子の方が1期生・月寮のワイン
女子の方が1期生・星寮のリキュール
どっちも外見は至って普通だが
アリアが俺に耳打ちで追加情報を
教えてくれた。
初日の自宅夕飯外出時に
後を付けて来た二人だそうだ。
バルバリスに仕える騎士で無い家の出身で
今回、陰ながらウリハルを護衛する任務を
受けているそうだ。
「影が出て来ちゃっていいのか。」
耳打ちしてくれたのに
普通に声に出してしまった。
アリアは微妙な表情になった。
スマン。
「今回・・・いえ、初日から
もう我らの手に余る事態ばかり」
ワインの言葉にリキュールが続けた。
「このお部屋の方々には
もう知っておいて頂き
情報を回して頂けないものかと
お願いに参りました。」
「無論、我らが護衛というのは
外には内密に願います。」
そう言って畏まったまま
頭を下げるワイン、リキュールも
遅れて倣った。
「・・・・お見掛けした
記憶はございませんが。」
ワインとリキュールの顔を
見ながらウリハルは申し訳なさそうに言った。
「影ながらだから面識の無い人を選んだんだろ」
本来ならウリハルにも内緒のハズだったのだろう
それをこうして出て来たのは
二人共、悩んだ末の結論なのだろう。
保護対象の動向を何時間も把握出来ない。
これはきっと生きた心地がしなかったに違いない
これは申し訳ない気持ちになった。
「最初は部屋に入れるつもりは
無かったんだけど、話を聞いて見て
今後の事を考えた場合
早目にアモンに話を通した方がイイと
アリアとそう決めてね。」
ミカリンが腕を組んでそう言った。
ナイス判断だ。
「そうだな、いや色々勝手して
済まなかったな。生きた心地が
しなかったんじゃないか」
俺はそう言って自分も腰掛けながら
椅子に座るように二人に促した。
二人は顔を見合わせ戸惑うも
ウリハルが促すと、深く礼をした後
元の席に戻った
見れば二人ともやつれている。
うわ
悪い事したなぁ。
俺は改めてそう思った。
「で、どこまで特訓に行ってたの?
あたしも行きたかったな」
ミカリンが至って普通にそう言った。
俺はあっさりと理由を言った。
「絶対起きないクセに良く言う」
「だね。ははは」
屈託無く笑うミカリン。
寝起きの悪さの自覚はある様だ。
「ブンブンの砦まで行きました。
メタボを討伐したんですよ。」
ウルハルの言葉に俺以外の
全員が首を傾げた。
「ブンドンな。」
「そうでした。」
アリアとミカリンが驚いた。
「そんなトコまで行ってたの?」
俺は理由を説明した。
「確かにこの周辺よりは強い敵が出ますが
すぐ北の森でも良かったのでは」
ごもっともなアリアの突っ込みだ。
そこだと超音速飛行の楽しみが
無かったからなのだが
ベレンの者に見られたくなかったと
適当な嘘を言って返した。
護衛二人はキョトンとしていた。
まぁ常識で言えばブンドンは
ここからだと馬車で数日必要な距離だ。
同じ名称の知らない別の場所を
想像している様だ。
「で、メタボって何?」
ミカリンも知らない様だ。
これは天使全般知らないと見ていいだろう。
完全な新種だ。
俺はメタボの説明した。
俺とウリハルを除く4人は
腕を組んで考え込んでしまった。
皆、聞いたことも無い敵だと言っていた。
俺はサンプルをブンドンの学者に
渡して来た事を告げ
何か分かれば、いずれパウル経由で
ハンスにも伝わる予想を言って置いた。
その後は雑談になり
アリアは今日の授業ノートを
俺とウリハルのわざわざ二つ分を
作ってくれていた。
ウリハルが入浴を希望した所で
護衛のワインとリキュールは退室した。
去り際に秘密保持を再度お願いされた。
夕食も普通に寮で摂り
疲れもあって俺は早めに就寝した。
目覚めると
部屋には俺1人だった。
「あ、今日まで謹慎か。」
何か色々あり過ぎて日にちの感覚が狂っていた。
二度寝をして昼頃目覚め
特に何もしないという日を送った。
良い休みの日になった。
謹慎三日が開け久々の登校だ。
教室がどこだか覚えていなかった。
皆に笑われたが、しょうがないだろ
だって初日しか行ってないもん。
元の世界で言う体育
ここでは体術の授業と呼ばれ
基礎の体幹を鍛える事と
基本的な武術を教わったが
本格的に打ち合う事は無かった。
ウリハルに防御を教えていなくて
ちょっと焦ったが
乱取りの際は必ず俺達同室の誰かが
教師から指名され
周囲にバレずに済んだ。
これも忖度だろうな。
因みにリキュールもワインも
同じクラスだった。
普通の学生生活を何日か過ごしたある日。
「まただ。」
体術の授業から教室に戻ると
ミカリンがウンザリした様子で
自分の机から封筒を取り出して
そう呟いた。
何事かと尋ねると
封も切らずに俺に渡して来た。
俺は遠慮く封を開けて
中身を確認したら
はい
ラブレターですね。
下駄箱が無いので
手紙作戦だと居ない間に
机に仕込むのがガルド学園流だそうだ。
「困りますよね。」
アリアがミカリンに同情して
そう言った。
「ん、アリアも経験あるのか」
聞いて見ると二人とも
一日に一回、多い時は複数入ってるそうだ。
「断る時間も手間も大変です。」
アリアもウンザリした様子でそう言った。
「え?アリアちゃんいちいち断ってるの?」
驚くミカリン。
「え?ミカリンさんはどうしてるんですか」
「無視だよ。向こうが勝手にやっている事に
なんであたしがわざわざ動かなきゃいけないの
あたしだって忙しいのに」
忙しい?
何にだ。
「おい俺には無いぞ!」
ある訳無いが驚いた振りして言った。
突っ込んで突っ込んで
「私にもありません!」
ウリハルが続いた。
ある訳無いだろ、打ち首だぞ。
突っ込め突っ込め
「ウリハルちゃんは、家柄の問題だね」
「ですね。」
「俺は?!」
すかさず食いつくが
二人とも笑顔が強張った感じで
言葉を濁した。
いいんだよ
バッサリ言ってくれて
と思ったら
机の中に見慣れぬ封筒があった。
それに気が付いた俺は不敵な笑みを浮かべた。
「ふふふふふっ」
「ゴメン。そんな傷つくとは」
「わ私で良ければ書いて入れておきますよ」
何を言っているんだ二人とも
見るがイイ
「コレの事かーっ」
得意気に引っ張り出して
二人にかざして見せた。
「果たし状とか・・・。」
「決闘状とかですかね」
良い読みするね。
ここはそのオチでOKだ。
俺はずっこける準備をしてから
得意気に
この得意気のハードルは
高ければ高いほど良い
得意気にミカリンにそのまま渡し
読んでくれとお願いした。
後は全盛期のマチャアキ並み
もう柔道の受け身かってぐらいの
ズコーっを披露するだけだ。
さぁ!来い!!
「嘘・・・ラブレターだよ」
本気でずっこけた
痛かった。




