第三百三話 <ヽ`∀´>
負ける要因を全て排除すれば
勝利は絶対だ。
バングバトルでの敗北は転倒だ。
なので
絶対転ばない機体で挑めばイイのだ。
内緒にしていたが実は俺は
物凄く負けず嫌いなので
誰も知らない秘密の機体を所有していた。
仲間内バトルの時でも
ここは絶対に勝ちたいという場面で
さり気無くスリ替えては
卑怯極まりない勝利を手にしていた。
俺専用超合金バング・開発コード「V」
Vはヴィクトリーの意味だ。
V計画は大戦初期の圧倒的勝率を誇った
ミカリン軍に対抗するべく
極秘にサイド7(ガレージの地下)で開発が進められた。
転倒を避けるべくボディ及び
脚部には希少金属だった
タングステンカーバイド鋼を使用
とにかく固く重くした。
ノーマルバングが中空構造の脚部に対し
Vバングは下半身のあらゆるデッドスペースに
そいつを封入し
ノーマルバングの重心が腰の位置なのに対し
Vバングは足首近くなのだ。
起き上がりこぼし並みの重量配分だ。
素手で殴っても一瞬L字に折れるだけで
不自然な程の回復力で立つのだ。
玩具バングなど束で掛かって来ても
絶対に倒せないのだ。
夜店の射的のプレイステーションぐらい
倒せないのだーっ。
更に攻撃の腕鞭も
ノーマルはアルミ素材だが
Vバングは表面こそアルミだが
その薄い皮膜の下にはチタン装甲だ。
更に指先には微妙に前出の
タングテンカーバイド鋼が仕込んであり
絶大なインパクトと貫通力を秘めていた。
試しにダークに当てて見たら
ダークにしては珍しく怒った程威力がある。
こいつに攻撃された物体は
貫通すれば良し
下手に弾き飛ばされようものなら
どこに飛ぶか分かったモンじゃない
凄く危険なのだ。
ACなら間違い無く違反機体で
ツール無しでは出撃出来ないが
ストレージを応用した
俺のすり替えの前には
どんな前チェックも無意味だ。
ははは
待っていろよチャンピオン。
貴様に敗北の味を教えてやる。
そんなこんなで昼飯を終了すると
会場は教室だと言うので
A組に直行だ。
ご丁寧にノアは机を対面に二つ並べて
フィールドを作り終えて待っていた。
ミカリンが慌てた。
「あれ?もしかして遅れちゃった」
「否、我が早いのだ。」
ノアは椅子からゆっくりと立ち上がり
そう言った。
「挑戦者はどなたかな」
「俺だ。よろしくな」
一歩前で出て俺はそう言った。
「悪いが全力で戦わせてもらう
そう言う主義だ。」
そう言って握手の手を差し出して来るノア。
「いいのかチャンピオン
負けた時の言い訳に困るぞ」
俺達は試合前の握手を交わした。
半魔化なので慎重に握った。
俺の挑発にニヤリと笑うノア。
「我とアルホンスに敗北は無い」
何だアルホンスって・・・。
答えは直ぐに分かった。
専用なんだろうな
アタッシュケースみたいなのから
超合金バングを取り出すと
両手で持ち、自分の額に
バングの顔が来るように持っていくと
ノアは呟いた。
「行くぞ・・・アルホンス」
名前付けてんのか・・・。
歴戦を思わせる傷だらけの機体だが
関節などはしっかり整備されている事が窺われた。
これがチャンピオンの機体か。
「そなたの機体の名は」
定位置にアルホンスを置きながら
ノアは俺に聞いて来た。
無ぇよ
名前なんか付けるか普通。
でも何か
そう言いづらい雰囲気だ。
今、適当に付けるか。
「えっと、じゃあチャンドン号で」
すかさずミカリンが呟いた。
「何か光ったよ。チャンドン号」
「ええ、私にもそう見えました。」
アリアもビックリしていた。
久々の名付効果だ。
更に強くなったのか・・・。
「そう言う物では無いのですか」
ウリハルはキョトンとしていた。
逆にそう言う物がどこにあるのか聞きたい。
俺がチャンドン号を定位置にセットすると
ノアはおもむろに手袋を外した。
「出た。ファイブリングだ」
既に集まっていた観客(クラスメート主に男子)から
そんな声が聞こえた。
ノアの左腕には全ての指に
コントロール用のリングがハマっていた。
通常の玩具バングはリングにはめられている
クリスタルを前になぞると前進
左右方向で左右回転
後ろになぞると後退
押し込むと攻撃
この五つの行動を取れるが
行動未登録の別売りリングを使って
更に細かい動きを追加登録出来る仕様だ。
ノアは25種類の動きを命令出来る事になる。
それだけでなく命令を重複
例えばしゃがむと攻撃など組あわせて
命令すれば、それこそ何通りの行動を取るのか
考えるのもイヤになる種類だ。
チャンピオンを真似しようとした者も
当然居たそうだが、扱い切れないか
間違った組み合わせで命令して
自滅するのが殆どで
使いこなせるのはノアのみだそうだ。
「・・・なんだアイツは?」
俺のコントローラー装着に
観衆から動揺の声が上がった。
俺のはヘッドギアタイプだ。
いちいち登録された動きなどではなく
自身の肉体と同様に動かせる
ノンコマンドダイレクトコントロールだ。
「・・・コントローラーなのか?」
ノアが俺に初めて興味を示した。
あげないよ。
「何を身に着けようがフィールドには
コイツしかいないさ。気にするな」
俺はそう言ってフィールド上の
玩具バングを指さした。
ミカリンが審判を買って出てくれた。
「準備はいいかな」
そう言ったミカリンにノアは言った。
「待った」
「あ、アレやるのね。はいはい」
ミカリンはノアが開始前に何をするのか
分かっている様子だ。
ノアを見て見ると何やらノアは
斜めに構え見えない壁にでも
寄りかかっているかのようなポーズだ。
「あ、アレか」
何だか分かった俺も同じ姿勢を取った。
俺達は袖を引っ張り
左腕を天に掲げる様に上げた。
「「神の摂理に反旗を翻す。
罪深き人類の業
今こそ我が腕が運命の糸を手繰らん!!」」
ピッタリシンクロする俺とノア。
ノアは動揺しながらも続けた。
俺が知っているとは思っていなかった様だ。
「「心を持たぬ鋼の巨人よ!
今こそ我が魂を乗せ、その力を見せよ」」
ここでミカリンが試合開始を宣言した。
タイミングを分かっているね。
「「鉄巨人制御戦闘!!」」
ノアのバングは前傾姿勢になり
ダッシュをした。
俺はかなりビックリだ。
走る設計はしていないのだ。
歩く際の体重移動など
一度命令してキャンセルすると
揺り戻しみたいな動作が入るが
それを応用して走るプログラムを
自分で組んだというのかノアは
「流石チャンピオンやるな」
設計者の意図しない行動を
実働から利用して行っているのだ。
「感心してる場合じゃないよ!!
雪山下ろしが来る」
ミカリンが叫んだ。
いや
そもそも雪山下ろしが
どんな技なのか知らないんだが
「助言も本来反則なんだがな
ふっどうせ、もう遅いわ。貰った!
うぉおお雪山下ろしぃいい」
ノアは左手にハマった五つのリングを
右手の五本の指でウネウネ操作しながら
そう叫んだ。
それに合わせてノアのバングは
回転しながら両方の腕鞭を放った。
この両腕鞭は威力は倍だが
本来なら自殺技だ。
戻りの加重が強すぎて戻って来た
腕の勢いを本体が支え切れずに
後ろに転んでしまうのだ。
しかしそれは五つの行動しか取れない
ノーマルバングの話だ。
見て見ればノアのバングは片足を
後ろに引いていて戻りの衝撃に備えていた。
更に回転しながら放った事で
まるでDNA図の様にキレイな
二重らせんで飛んで来た。
回転を加えた事で貫通力も上げているか
スゴイな、しかしコレでは
「幅が開き過ぎだ。倒せないぞ」
俺は少し前傾させて衝撃に備えた。
「あー馬鹿!!」
その行動にミカリンが悲鳴を上げた。
「倒す技では無いのさ!!」
ノアはそう言って右手の指を
更にウネウネと動かすと
ビタぁ!!
そんな擬音が聞こえて来そうな状態だ。
綱の様に編まれた両腕の先
ノアのバングは俺のバングを
ガッチリホールドしていた。
投げ技だ!!
雪山下ろしは投げ技だったのだ。
俺は叫んだ。
「嘘だろ!開始直後で気力130なのかよ」
「食らえぃ!!」
ツルン
そんな感じでノアのバングの両手は
俺のバングから離れ
物凄い勢いで解れながら
戻って行った。
すっぽ抜けたのだ。
「ぐぅ?!」
流石はチャンピオン
上手なモンだ。
遠心力でプロペラの様に
回転する両腕の戻り
そのバランス変化を見事に
足で制御して転倒を逃れていた。
そんな中でノアは叫んだ。
「すっごい滑るよ!」
そうだよ。
俺のバングボディには
お肌に優しい秋山クリーム(ただのオイル)が
塗りたくってあるからね。
投げ技は効かないよ。
さぁ反撃だ。
行くぞチャンドン号
どんなに卑怯でも勝てばいいニダ。
審判買収すればWCで4位にだってなれるニダ。
出展
雪山下ろし ゲッター3の技、大雪山おろしです。
すっごい滑るよ! 秋山事件ですね。




