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ぞくデビ  作者: Tetra1031
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第二百九十九話 決戦お食事会

「出身が異国では、この国の

習わしを知らないのも道理だ。

私の人を見る目が間違って無かった事に

ホッとしたよ。」


誤解を解く事に成功した。

ガチ泣きから復活し

通常営業に戻ったテーンが

そう言った。


「しかしなぁリディ、世の中には

知らなかったでは済まされない事もある。

無知とは罪だぞ。私とテーンの首が

飛びかけたんだからなぁ」


自分の喉元にチョップをするような仕草で

クワンはそう言った。

口調は愛嬌混じりで怒っている様子は無い

単純に指導だろう。


「いえ悪いのは私ですね。

その慣例を知っていながらリディを

止める事を思いつきませんでした。

慣例に習うなら私がお二人を招待すべき

・・・でもここでは下級生なんですよね。

困りました。」


顎に人差し指を当てウリハルはそう言った。

今考えてやがる。

完全に遅いぞ。


でもこれもお姫様なら仕方が無いのか

自らが考え提案など普段しない事なのだろう

回りが全てお膳立てしてくれて

ウリハル自身は「よろしくてよ」と

その誘導に従うだけだったに違いない。


「いえ、この場合ですと私が貢ぎ物を持って

お伺いを立てる。これが筋です。

全ては私の対応の遅さが原因です。」


すかさず言うテーン。

偉いぞ臣下

変化球を駆使して

姫様に責任など一切掛からない気配り

論理を咄嗟に構築したようだ。


「まぁ間が悪すぎたなぁ

曲者騒ぎでこちらも身動きが取れなかったのだ」


腕を組んでそう言うクワン。

話ぶりから

一応はお迎えの準備などはしていた様子だ。


「ねぇ、ずっと廊下にいるの?」


ズケズケと、そう言ってのけるミカリン。


「おっと、これは失礼した。」


テーンは自分の部屋に俺達を案内した。


部屋の作りはイライザの部屋と同様だ。

部屋の位置が違うせいで

備え付けの家具の位置などが異なったが

基本的に同じだ。


「え?これ個人の部屋なの」


ミカリンが俺達の部屋との差に声を上げた。


「花寮の中でも恐らく

最上級ランクの部屋かと思われます。」


アリアもついキョロキョロを

見回してしまう。

俺らの部屋でも豪華だと感じていたのだが

ここは更に上を行っていた。


そう感じる原因の一つは

生活感がまるで無いのだ。

なんか高いホテルのロビーを連想した。

掃除用具とか出しっぱなしとか

脱ぎ散らかした服が椅子に掛かって居たりとか

要するに生活態度というか

俺達は行動が庶民なんだな。


俺達の入室に合わせて

メイドその他が一礼した。

このメイド達も部屋の備品なのか

聞いたらテーンは笑って

この夕飯の為に

実家から呼んだそうだ。


戒厳令で出入りは基本禁止なハズだが

やはり貴族となると対応は

特別なのだろう。


本来ならお誕生日席が

部屋主のテーンなのだろうが

テーンはウリハルをそこへ座らせた

またウリハルも何の疑問も持たずに

堂々と座る。


もうこういう体なんだろうな。

物心つく前から

特別最上級扱いなのだ。

これがウリハルの自然なのだ。


そう言うワケでお誕生日席に

近い位置からテーン、クワンと座り

向かい側に俺、ミカリン、アリアと

並ぶ恰好になった。


「本日はこのような形になってしまった事を

まず改めてお詫びしたい。」


落ち着いた様子でテーンが挨拶を始めた。


「殿下のご厚意に感謝し

ささやかながら宴を開かせて頂ける運びになった。

まだ学徒ゆえ至らぬ所も多く

ご参加された皆々様におかれましては

不愉快な思いをさせてしまう事があるかも知れませんが

どうかご容赦願いたい。」


ここでグラスを持つテーン。


それに合わせる様にクワンもグラスを持った。

俺達もそれに習う

メイド達が椅子を引いてくれるタイミングで起立だ。


最後の最後にウリハルの椅子を引き

グラスもメイドが持ち上げ

ウリハルの手に添える恰好だ。

やりすぎじゃね。


「姫様、並びに皆さまのご入学をお祝いして」


ここでようやく乾杯だ。


声のトーンが落ち着いているし

見た目も麗しい。

テーンはこういうの向いているなぁ。

同じ時間の挨拶でも

元の世界のハゲ上司の挨拶が

如何に苦痛だったかのかを思い出した。

ハゲが何か言っているが誰も聞いていなく

笑顔のまま「長ぇよハゲ」と

みんな呟いていたっけな。


「お酒じゃ無いんですね。」


乾杯で一口飲んで俺はそう言った。


「まだ未成年だからね」


テーンはそう答えた。

法で規制されてはいないが

この国の常識として禁止事項だ。

破る者がおらず、問題が起きていないので

法律化されていないが

問題になれば法で決めるのだろう

不躾者が増えれば増える程

法も増えていくのだ。


「じゃあクワン先輩だけかぁ」


「こらぁ私も未成年だぁ

テーンと同い年だぞぅ」


イイ感じのタイミングで突っ込んでくれるクワン。


「そうですか。何か飲みそうに見えます。」


「・・・・皆そう言う。何故だ」


なんでだろうね。


スープ、サラダと配膳されていく

星寮の学食より数段上だが

ブリッペには及ばないな。


味よりも音を立てない様に

アリアは緊張していた。

ミカリンはお構いなしだ。


ありゃあ

スープをスプーンじゃなく

ダイレクトに飲んでいる!!


しまったテーブルマナーなんて

教えて無かった。


ヤバいんじゃね


そう思って対面の二人を見ると

クワン先輩は・・・怒ってるな

「この山猿め」みたいな表情だ。


テーンは信じられない光景を

見てしまったショックの方が

怒りよりも大きかったようで

ポカーンと口を空けていた。


何て言い訳しよう。

良いアイデアが思いつかない。

クワンがたまらず口を開こうとした

その瞬間、それは起こった。


ズズズズズズッ


すんごい啜る音が上座から聞こえた。

反射的に音源を確認する俺達は見た。


お誕生日席でスープを皿ごと手に持ち

思いっきり吸引しているウリハルだ。


感情が停止した。

みんな頭が真っ白になった様だ。


そんな中、最悪の原因であるミカリンが

空気読まず口を開いた。


「ウリハルちゃん。音を立てるのは

みっともないよ。」


「そうですね。ふふ失礼しました」


と二人だけ異次元だ。


「流石は殿下。これこそもてなすと

そう言う事だ。」


何をどう理解したのか

テーンは微笑み、自らもスプーンを

置くと同じように皿を持ち

スープを啜り始めた。


「ふふっはっはははぁ!!」


そして突如高笑いを始めるクワン。

ひとしきり笑った後、言葉を続けた。


「型破りなつもりでいたが

存外に自分が小物だと思い知らされたよ。

これが器の違いという奴か

いや、今日はなんて日だ。

剣も頭も小さくまとまっていた自分が

ことごとく吹き飛ばされていく。

実に気持ちイイ。これが痛快というモノか」


そう言い終わると覚悟を決め

自らも皿を手に取った。


そこからは何と言うか

常識のガマン大会みたいになってきた。

パンもダイレクトにかじりつくわ

ソースの二度付け(これは流石に俺が止めた)をしようとするわ

平気な顔でミカリンをトレース出来たのは

ウリハルのみで

テーンとクワンは息も絶え絶え

何とか食らいついて行った感じだ。

「無理に真似しなくても良いじゃないか」と

俺が言えば良かったのだが

俺はこの言葉を言い出すタイミングを完全に逸していた。

と言うか漏れて来る感情が珍味すぎて

たまらない。


二人とも、時には自分のする事に

嫌悪が表情に隠し切れなくなりながらも

鉄の意志で実行していく

やりたくないのに

やらねばならない


本当に王様ゲームだ。コレ


もう

何て言うの

元の世界で例えるなら

服着たまま風呂入り

シャンプーしたまま流さず布団に横になる

みたいな鳥肌行為

その時の脳内パニックだ。

これがたまらない珍味で

肉体の栄養補給より

悪魔エネルギーの補給の方が

美味すぎて満足な俺だ。


こんな宴なら毎日でも

お呼ばれしたいが

二人が廃人になってしまいそうで心配だ。


デザートが終了し

お茶が出て来る頃には

二人共、アホ毛だらけになって

クタクタになってしまっていた。


奥歯を噛み締めながら

音を立てず涙を溢す周囲のメイド達。


お茶をいれながら

「ご立派でしたよ。お嬢様」と

やけに真剣な声でテーンを労う爺とか


よく分からんが

何か大変な事が

今、成し遂げられたのだ。


辿り着いたゴールに

解放される苦難

ホッとしているテーンとクワンに

大天使の悪魔の声が聞こえて来た。


「美味しいねぇ。お替りある?」


立ち向かう勇者。


「良いですね。ありますか」


テーンとクワンの口から

また

エクトプラズムが出て行こうとしていた。


出展 

スープ啜りは「ヴィクトリア女王のフィンガーボウル」が元ネタです。

美談なんでしょうけど付き合わされた人は災難だったんじゃないかと


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