第二十九話 天は我々を見放した
「ドワーフの・・く・・に」
「ああ、本当の話だ」
深くゆっくり頷く支部長に
俺は申し訳なさそうに言った。
「なんて、あったんですか?」
ずっこける支部長とクロード。
態勢を立て直し、説明してくれた。
今いる大陸
エラシア大陸の中央に陣取る山脈
そこから西がバルバリス
東が炎で滅んだデスデバレイズ
で
その中央の山脈に連なって
南側を横に広い国土で
バルバリスとデスデバレイズを
フタをする様に存在した国。
それがドワーフの国「ドルワルド」だ。
バルバリスは現在進行形で
首都バリエアを復興中
その間、首都機能を代行しているのが
新たに聖都となったベレンだ。
冒険者協会本部も教会本部も
それと俺達の目指す学園も
ここにある。
国教を広めたいバルバリス帝国だったが
ドルワルドは無宗教のドワーフの国
人が侵略にくるなら迎え討つ構えを取り
長年膠着状態だったそうだ。
そんな理由で
ドルワルドと接する国境沿いの街
「ネルド」は半ば要塞と化し
聖騎士も多く滞在していた。
敵対ほどではないが
友好国とはいいがたく
細々と鉱石や美術品
それにまつわる職人などの
交流がある程度だったのだ。
確かに今ここブンドンの村にも
大勢ドワーフ族を見かけた。
前回はベレンでの冒険者協会で
だけしか見かけなっかった。
東の詳細は不明、
中央の山脈、あるいは東からなのか
バングが増えるそうだ。
山脈伝いにドルワルドになだれ込み
ドワーフ側が迎え討つも
一年程度で放棄せざるを得ない状況まで
追い詰められてしまう。
降臨後に結んだ不可侵条約が仇になり
逃げ場を失うドワーフだが
ネルドの独断で要塞を開放
ドワーフ達を受け入れる。
ここまで聞いて感心した。
そのネルドを取り仕切っている人物は
是非スカウトしたい。
条約は尊寿されるべきだが
ハンコ押すまでの何か月で
一体
どれだけ被害が出るのか
超法規的措置
権力はこういう時に
こういう事に使うモノだ。
だから偉いのだ。
法律がーとか言って何もしないなら
居ないのと同じだ。
人じゃなくて
法律を書いた紙キレと同じだ。
「そのネルドを仕切っていた人は
罰せられたりしてないですよね」
思わず聞いてしまった。
もし罰している様なら
俺が
・・・・
何も出来ん
今はちんちくりんだ。
・・・・
パウルに言いつけてやる。
「どう・・・だったかな
処罰されたとは聞いていない
今もネルドで指揮を執っている」
自信なさ気な支部長。
ほっとする俺。
処罰するようなら
今度は敵に回るからな
しかしベレン大丈夫なのか
バリエアの難民だっているのに
ドワーフの民
何人だかしらないが
相当数に違いない。
その辺を支部長に聞いて見ると
意外な返事だった。
非戦闘員のドワーフは
頼りがいのある建設要員だった
バリエアの再興に多大な貢献を
してくれているそうだ。
それ以外にも優秀な鍛冶師であったり
細工師であったり
むしろ引っ張りだこになっているらしい
ここに常駐してるドワーフは
主に鍛冶師関係だそうだ。
戦士系は今もネルドで
共同の防衛戦に当たっている者が
殆どだそうだ。
「じゃあ森より、そのネルドに
戦力を集中すべきでは・・・。」
「ネルドがどんな場所だか知っているかね」
知らん。
前回はベレンより南には行っていないのだ。
支部長は丁寧に教えてくれた。
雪と氷の高山地帯だそうだ
裸で寝過ごしても風邪をひかない
この辺りの気候になれた者が
行っても凍死するだけらしい
剣を研ごうとして
刀身に手の皮がへばりつき
無理やり剥がして大量出血する者。
刀身と鞘の金属の材質の違いから
熱膨張の差が出来
研ぐは愚か剣が抜けなくなってしまう者
金属の鋲つきブーツで行って
足の指が壊死してしまった者
天は我々を見放したと
セリフの内容の割には元気一杯
叫ぶ者
などなど
問題だらけだったそうだ
山を舐めるな
そんな声が聞こえてきそうだ。
雪上戦は専用の訓練を
積んだ者でないとな
「なるほどですね」
「そのせいで今はネルドの手前に
訓練所を兼ねた町が出来たよ。」
そうなると当初の疑問
ここの過剰戦力だが
それは支部長が続けて説明をしてくれた。
「ネルドほどの規模で無いのだがね・・・。」
この森でも発見報告が多数寄せられていたのだ。
現にベーマンパトロールが倒している。
山沿いに移動するバングが多いが
平地に下りて来るバングも少数いるようだ。
マイザーははぐれと呼んでいた。
南側と東側の二面方向から
バングの侵攻を想定しているのだ。
その時、扉がノックされた。
「準備出来たか・・・入りたまえ」
支部長の声に反応して
扉が開く、現れたのは
小柄だがしっかりと装備を整えた
女性冒険者だ。
「失礼いたします。」
表情は硬い、無表情だ。
「このお姉さんは?」
支部長は椅子から立ち上がり
彼女を紹介した。
「エルフの里へ彼女の同行を
お願いしたい。道案内も戦闘も出来る」
俺達も立ち上がり挨拶した。
ミカリンも慌てて起きる。
「ボーシスと申します。
よろしくお願いいたします」
ボーシスはアルコに向かって
丁寧に頭を下げた。
オロオロするアルコ。
まぁ
パッと見
アルコが保護者に見えるよね。
出展
天は我々を見放した 映画「八甲田山」のセリフ




