第二百八十五話 物の価値
御者達の食事が終わった様で
グレアとブリッペがワゴンを
押してキッチンまで戻って来た。
俺とマリオは話をそこで切り上げ
ガレージまで戻った。
ガレージ入り口から見える
引き出し付きの棚が目に入り思い出した。
ダークに頼んでいた内職
その進捗具合だ。
ダークに頼んだ内職は
ズバリ腕時計だ。
クリシアの時計職人コメエライが
作成したネジ巻き式の懐中時計。
丸々コピーして構造を解析し
各パーツを小型化、特に薄さに拘った。
改良点もいくつかある
隣り合う歯車の硬度が同じなのは
宜しくないのだ。
同じだと均等にすり減って行き
一斉に寿命が来てしまう。
敢えて柔らかい金属の歯車を
交換しやすい位置に配置し
その身を削る事で他の重要な
歯車の摩耗を防ぐのだ。
定期的、この柔らかい歯車だけ
交換していけば機械の寿命は
飛躍的に伸びる。
動力であるゼンマイ
その巻き上げも自動を導入した。
ワザとバランスを偏らせた
歯車を設置し、腕に着けていれば
日常生活の動作だけで
勝手に巻き上げてくれる。
男性用の大きいタイプと
女性用の小さいタイプの二種類用意し
ベルトは
男性用はしっかりホールドの平べったいタイプ
女性用はお洒落重視のゆったりしたブレスレットタイプだ。
設計が終了し
部品を並べて見て
取り掛かる以前にギブアップした。
こんなの組み立てていられない。
くしゃみしたらその時点で終了だ。
かと言ってこのまま渡しても
組み立てられるはずも無いので
考えあぐねた末
10倍の大きさで一個組み立て
分かりやすい見本として
ダークに渡し暇な時でいいから
組み立てて完成したら
この棚に入れて置けと言って置いたのだ。
10倍見本を手に取り
あちこちの方向から見るダーク。
流石に怒るかと思ったんだが
口から出た言葉は全くの逆だった。
「この振り子部品の速度を
上げた方がもっと精度が上がるで
御座るよ。」
以前にも説明した
テンプとガンギ車だ。
俺は舌を巻いた。
俺の元の世界の技術を知らない悪魔が
機械式腕時計の構造を理解したのだ。
「いや、寿命と整備を考慮した時
今の設定で十分だ。」
可動が増えれば当然負荷も増え
寿命も短くなっていく
今の振り幅でも日差±3分で収まる想定だ。
「了解下でござる。この背面の
硝子パネルは良いでござるなぁ
わざわざ開かなくても中の具合が
先に見て取れるとは。」
スメルトン構造にした。
見た目も考えて歯車もピッカピカだ。
ダークの言った理由も最もだが。
本当の理由は
なんかカッコイイ
これだけだ。
「さて、何個出来ているでしょうか。」
俺はワクワクしながら引き出しを
開け中を確認して驚愕した。
恐らく
渡した部品を使い切っているだろう
引き出しは完成品がズラリと整列していた。
左右で男女に分かれた腕時計
薄気味悪い程、皆同じタイミングで
秒針が一糸乱れる事無く
動いている。
「やりすぎだろ・・・。」
ゼンマイの稼働時間
完全に巻いた状態で24時間程だ
つまりダークは夜な夜な
完成品をここに収める度に
それまでの時計のネジを巻き
さらにテンプ速度の調整まで
行っていたと言う事だ。
でなければこうはならない。
通し番号が入れてある。
男性用も女性用も100まで完成していた。
やっぱり渡した部品全部完成させていた。
記念の001は
そうだな敬意を表してコメエライに進呈しよう。
ダーク用に010、序列10位に合わせよう。
そんなんで
014から適当数もって
まだ皆の歓談するテーブルに運んだ。
今日の記念だと言って配った。
グレアには今後の新商品だと言って
細かい説明もした。
「槍に比べればなんと平和な魔法利用ですね」
ユークリッドが笑顔でそう言った。
「いや、これ魔法関係無いぞ。
動力はゼンマイだ。」
「魔法・・・じゃないんですか?!」
そう言ったろう
回りも俺の言葉よりも
ユーの言葉に驚いていた。
みんな魔法だと思っていた様だ。
「親切設計で裏蓋がガラスだ
とくと見るがよい」
俺の言葉に各自、確認しはじめた。
「こんな小さな歯車が・・・」など
皆驚いている様子だ。
「この一番外側の歯車、なんですかね
これだけ自由にプラプラしているようですが」
俺は自動巻きの説明をした。
「つまり、身に着けている限り
巻く必要が無いということですね。」
頷く俺。
自動って言ったろ
「オーナー値段はいくらで出すんですか」
グレアはもう腕に巻いて
シャラシャラさせながら聞いて来た。
気に入った様だ。
俺は思いついた数字を言うと
ユーがすかさず割り込んで来た。
「最低でも、その10倍・・・いえ30倍の
値段でお願い出来ませんか。」
咄嗟に元の世界の値段に換算し
俺は返事をした。
「それじゃあ金持ちしか買えない。
高級品になってしまう」
「高級品ですよ!!」
ユーはとうとうと説明してくれた。
ベレンでも政府主導で時計機械には
開発を進めているそうだ。
大聖堂とか学園でも
一番高い建物には巨大な時計が埋め込まれていた。
ベレンではまだタンスのサイズ程度までしか
小型化できていないそうで
クリシアのコメエライの懐中時計でも
充分先進技術なのだそうだ。
最初の値段で出せば
転売屋を肥やすだけになってしまうだけでなく
この店自体にも危険が及ぶ可能性が高くなってしまう
付けて外を歩こうモノなら
腕を切り落としてでも強奪する輩が
絶対出て来るそうだ。
青い顔になって腕から時計を外すグレア。
「呆れる程行き渡れば価値も下がってくれるでしょうが
億に迫る数を用意出来ますか」
無理だ。
ダークが100人いれば可能かも知れないが
物に溢れた俺の元の世界
その悪い常識が出た。
ここでは百均で買える物ですら
とんでもない価値になってしまう物がある。
結局、時計は襲われる可能性の少ない
ナリ君、ルークス、パウル、ユークリッド、ストレガ
付けて外を歩き回らない約束で
残りの面々に配る事になり
販売はひとまず中止だ。
せめて懐中時計が普及するまで
世には出さない方が良い。
ごめんダーク。




