第二百八十四話 ストレガ替え玉計画
気が付くとブリッペとグレアの姿が見えない。
確かキッチンに戻ったキリか
何となく気になったので
俺はキッチンに向かった。
キッチンでは二人が
料理をしていた。
もう食わないだろうと言おうとしたが
テーブルに並んでいる食器は
まるで給食の様に一つのプレートに
1人分が纏められている。
なんだこれは
素直に聞いてみた。
「御者さん達の分だよー。」
「食事にも行かずに待機していらっしゃる様子でしたので」
各馬車の御者や護衛は
馬車で待機だったな。
彼女らは彼等を気遣っての行動だ。
こう言う気の使える女性には
マジで頭下がるわ。
コレ超嬉しいだろう。
そこまで気が回らなかった事を詫び
彼女らの行動に感謝の意を伝えた。
運ぶのは俺も手伝った。
ワゴンがあるから二人で
大丈夫だと言われたが
俺が本当に手伝うメインの意味は
運搬そのものでは無いのだ。
「いいから、いいから」と言って
半ば強引に手伝った。
運んで見ると
彼女たちの気遣いに
御者達はサプライズな喜びに
満ち溢れるが
ご相伴に与かる事を遠慮した。
「これでも任務の最中ですので」
「お気持ちだけ有難く頂戴したします」
さて、ここで俺の出番だ。
「お前らの主には了解済みだ」
そう言って偉そうに前に出た。
俺の存在に気が付いて
空気が緊張へと一変した。
魔族の御者などは馬車から
飛び降りて跪いた。
「これは救世主さま」
一番俺の言う事を聞きそうな
魔族組から陥落させるか
「それともウチのメシは食いたく無いか」
脅しだよ。
飲み会の嫌な上司か俺は
でもこうでもしないと食わないだろ
この人達は
「滅相もございません!」
「身に余る光栄にございます」
「俺も手伝ったんだ。是非食ってくれよ」
これでもう断れないだろ。
一部隊が陥落すれば
残りも糸が解れる様に連動する。
食わない方が失礼。
こうしてしまえば
責任感の強い者程食ってくれるハズだ。
教会側も魔導院側も
顔を見合わせてから
プレートを受け取ってくれた。
ワゴンの車輪にロックを掛け
終わったら食器はここに乗せろと言って
俺は踵を返した。
グレアとブリッペは配膳や
お茶など、まだその場で対応を
続けているが
緊張したままでは味が分からんだろうし
俺だけは早目に撤退した方が良い。
背後で舌鼓を打ち
お世辞でなく料理を賞賛する声が聞こえた。
そうそう
それが作った人への一番のお礼だからな。
すっかり不味い感情に溢れた
その場を後にした。
キッチンまで戻ると
今度はマリオが一人でウロウロしていた。
片手には空のジョッキを持っていた。
「何だ。酒でも足りないか」
「えへへ、この黄金の色を持つ
シュワシュワしたの最高だよ。」
ユーと違ってこっちは
本当に漁りに来ていた。
ビール
好きな人は本当に好きだからなぁ
麦っぽい植物はあるし
芋も穀物もあった。
ミガウィン族地方で以前見かけた野草に
ホップっぽいものがあったので
試しに作ってみた
味が分かる子供ボディで味わってみたが
かなりビールっぽい
子供の体では苦いだけで
美味しくは感じなかったが
マリオの様子を見る限り大成功の様だ。
俺は機嫌良くなり
マリオからジョッキを奪うと
キッチン備え付けのビール樽から
目の前で注いでやる。
泡を3の比率するのと
冷却を使用し温度を2度位まで下げてやった。
これでもっと美味いハズだ。
「プハー」
マリオは喉を鳴らして飲んだ。
くそ、羨ましいぞ。
そんなに酒が好きな方では無かったが
この喜びようを目の前で見ると
飲みたくなってくる。
そうだ丁度マリオと一対一だ。
依頼しておくか。
「そうだマリオ。ストレガ人形の事なんだが」
「ぶーーーーーーーーーーっ!!
噴水の様にビールを噴射した後
派手に咳き込むマリオ。
俺は顔を拭いた。
少しのたうち回った後
マリオは再起動し言った。
「何の事だい?」
「お前が隠し部屋で製作している
ストレガそっくりの人形の事だ。」
「・・・・。」
やっぱり知っているのか
そんな表情だ。
すんごい珍味が目まぐるしく味を
変化させ流れ込んで来る。
脳みそフル回転で色々考えている様だ。
意地悪しても仕方が無い
早目に要件を伝えてしまおう。
「今、どんな感じだ。」
「・・・さ、最高だけど。」
ビール飲んでなくて良かった。
俺が噴き出す。
「いや、そう言う事じゃなくてさ」
最高って何
具合ですか。
そんな事を白状させるイジメが目的じゃないんだが
方向を正そう。
「正式に依頼したい、その人形で
ストレガの事故死を装いたいんだ。」
かなり驚くマリオ。
「なっ何だって?!」
「ついては素人目には
見分けが付かないレベルで
ある程度自動・・・いやメカバングの
コントロールでもいいのか」
身を乗り出して詰め寄って来るマリオ。
「ストレガの死を装うって
何故、何の為に」
すっかり酔いが抜けたようだ。
一から説明した方がイイな。
「マリオ。もう既に気が付いていると思うが
ストレガは普通じゃない。
ストレガだけじゃない兄のヨハンも
そして当然この俺もだ。
マリオは魔導院に勤めて何年位になるんだ」
「・・・9年目かな。」
「ストレガは老けたか。」
ショックを受けた様な表情では無い
何となくおかしいと
心のどこかでは感じていたようだ。
「俺達は老いないんだ。人間じゃない」
「・・・。」
予想はしていても
ハッキリ面と向かって言われると
来るモノがあるのだろう。
心のどこかで自分の勘違いで会ってくれ
老けにくい魔法か何かだと
言って欲しかったのかも知れない。
マリオは力が抜けた様に
椅子に座り直した。
と言うよりは
椅子の上に落下した。
そして気の抜けた声で呟いた。
「・・・・そんな。」
「仮に魔法で老けないなどと嘘を公言してみろ
それこそストレガに対する注目は増え
その秘法を目当てにスパイは倍増する。
正体がバレるのが早まるだけだ。
分かるだろ、公の場からはもうそろそろ
引いた方がイイんだよ。」
「死を偽装、そこまでしなきゃ・・・。」
話を遮るように俺は被せた。
「しなきゃ、引退後も付け回される。
それ程の魔法の使い手だ。
それとも、売る側に回るか?
差し出して大金を得るか?
アイツの解剖に立ち会いたいのか?」
瞬間的に怒りがマリオを支配した。
怒りの感情の割にはあまり美味しくない。
出発地点が純粋なせいだ。
怒りは直ぐに消え失せ
マリオの瞳に色が戻る。
思考が再スタートしてくれた様だ。
俺はホッとした。
こうなれば安心だ。
マリオは元々頭の良い奴だ。
ようし
畳みかけるぞ。
「丹精込めて作ったモノが破壊されるなんて
俺だって嫌だ。気分悪いさ
でも、それで大事な掛け替えの無いモノが守れるなら
考えるまでも無いだろう。
人形は何体だって作れる。
けどストレガ本人はそうはいかない。」
頷く動作も普段のマリオだ。
もう大丈夫だな
止めといくか
「それに俺の依頼って事になれば
人形を製作した理由が
かなり正当なモノになるんじゃないか。
何でこんなモノを作ったのですか
その問いに胸張って答えられるんじゃあないか」
「僕の技術を捧げよう。」
俺は席から腰を浮かせ
見を乗り出して握手を求めた。
「協力に感謝する。」
「ストレガを超える美しさの人形を
完成させて見せるよ。」
「いや、それは趣味用にしとけ
替え玉なんだから超えるな
同じだ。同じを目指してくれ。」




