第二百八十三話 元神と元悪魔の処遇
アルコも今日初登校だった。
心配していたコミュケーションだが
三人で旅を始めた頃とは違い
人化出来る事も手伝って
今のアルコはだいぶ社交的になっていた。
問題無く楽しめた様子で安心だ。
小学校みたいなトコロに
大人のアルコは目立つかとも思ったが
生徒は子供が半分位で
教育を受けられなかった大人達が
残りの半分というカオスな教室だそうだが
これをカオスと思うのは
元の世界の常識で生きている俺の感覚だ。
ただ、このまま教育が進めば
順じ元の世界の小学校に酷似していくだろう。
国語に当たる授業では
教会の経典
いわゆる聖書が引用されていて
ピーンと来た。
いつだったかユーとの雑談の中で
「文字が読めない者には無意味ですからねぇ」
そう言って自前の聖書を眺めながら
ボヤいていた事があった。
読み書きの普及も
布教の一環という寸法だ。
教会の惜しみない全面バックアップは
廃人のネトゲのように
遊びでやってるワケではない
という事だ。
一通り食事が済むとカシオが
ヨレヨレで訴えて来た。
「眠いのじゃ、アモンくん。」
この年より本能だけで生きてやがる。
しょうがねーな。
俺は冒険者ゼータにチェンジすると
カシオをおんぶして部屋まで運んだ。
「そうだ、カシオ。」
階段を上りながら
俺は気になった事を
尋ねてみる事にした。
「ウリハルはどうだ。」
「はは、もうそんな年ではないわい」
アホか
なんでお前に女をあてがうんだよ俺が
「いや、そうじゃなくてさ。
あいつ勇者なんだぜ。」
「・・・・。」
何か嫌な沈黙だ。
カシオはこういう間が多い。
長く感じたのは俺の焦りなのかもしれない
やがて、カシオは言葉選ぶように話した。
「事情は一切知らんがの、アモン君
あの場に勇者はおらんぞ。」
まぁまだレベル1だしな
あの凶悪な神聖属性もまだだ
おたまじゃくしを見せて
カエルはどれだと言っても
始まらないか。
俺はウリハルのレベルの話を
説明したがカシオは再び沈黙だ。
部屋の前まで来てしまった。
流石に長い沈黙だと思ったら
カシオは寝ていた。
扉を開ける為に片手を自由にしたい
前傾姿勢を強化したトコロで
後ろから声が掛かる。
「ブリッペが開けるよー」
そう言って素早く俺の前に
回り扉を開けてくれた。
「おぉ助かる。手伝いに追ってきてくれたのか」
「うん。普段もブリッペがおじいちゃんの
面倒見てるんだよ。」
そう言いながら
ブリッペはベッドの準備を
手早く済ませてくれた。
そっと寝かしつけて、体を締め付けている
衣装は緩めておいた。
掛け布団を掛けて忍び足で退室だ。
世話している姿も甲斐甲斐しい
愛を司る天使は人化しても
そういうトコロは変わらないんだな。
「なんか好きなんだよねカシオじいちゃん」
照れくさそうにブリッペは言った。
世話のスタート地点
それが仕方なくや使命感で無い事を
嬉しく思う。
「俺もだ」
そう言ってガレーシに戻ろうとしたが
途中で俺は尿意に襲われ
ブリッペだけ先に戻った。
用を足し終え
二階のトイレからキッチンに下りると
ユークリッドが佇んでいた。
「夜にキッチンに現れる
・・・食い足りないのか」
「人をゴキブリみたいに言わないでください」
わざわざ待っていたのだ
何かあるのだろう。
俺は何事か聞いた。
「クリシアの賢者
あのカシオと言う、ご老人
あの人は一体何者なんですか。」
初めは教会にでも保護を頼もうかとも
お思っていたが、天使二人が
喜んで迎えている。
本人もここがお気に入りの様子だ。
カシオの居場所はここでいいだろう。
そうなると隠すというより
変に嗅ぎ回られたくない。
「アモンさんはバングが魔力収集装置という事を
カシオから聞いたと仰っていましたが
当の本人はバングがなんだかも分かっていない様子でしたよ。」
カシオには適当にボケておけとだけ
打合せしただけだった。
それだけだったのに
彼のユークリッド相手に
これだけ見事にはぐらかすとは
俺の想像以上の切れ者かもしれない。
「一応聞いておくが
カシオ本人は何て自己紹介を」
「雲をつかむ様で、一見聞いた事に
キチンと答えている様で巧みに
ボカすんですよねぇ。
かなり話したんですが何一つ
得られていないんですよ。」
はぐらかされているのか
それとも老人のボケなのか
ユー自身も判断が付きかねている様だ。
「うーん、ハッキリ受け答えする日も
あるんだけどね~。」
俺はわざと真剣な表情を作って唸った。
「・・・そうですか~ぁ。んんん」
意外にも信じた様子で
ユークリッドは困っていた。
余程ボケ老人の演技が堂に入っていたのだろう。
・・・・演技だよね、カシオ。
早々の撤退もユークリッドからの
逃走だったのかも知れない。
俺はそう決めてユークリッドの肩を
叩きながら、聞きたい事は
この家に常駐している誰かに頼もうと
言ってガレージに一緒に戻った。
戻った俺を見て
パウルが話があると申し出て来た。
神サイドのテーブルに移動してから
アルコに頼んで
俺は茶、パウルには酒をさり気無く出させ
話を聞いた。
パウルの話はクリシアの新政府との会談。
その実務者協議の話だった。
本番で大喧嘩にならない様にする為に
事前に内容を詰めてしまうのが
この実務者協議だ。
ここで決まった事を公式に
決定するのが会談という寸法だ。
その協議に向かったのがバイスなワケだが
その協議前にもお互い探りを入れ合っている状態が
俺の入学直前までの状態だったハズだ。
「もはや別の国と言えます・・・。」
鉄のカーテンとも呼ばれるほど
情報が取れなかったクリシア。
その情報がご丁寧に向こうから送られ
大事な判断もバルバリスに一部委ねようと
までなっているそうだ。
「罠では無いですよね。」
上手く行きすぎで
逆に怖いと言っていた。
俺はかつての首脳陣を俺が皆殺しにしたので
舵を取れる者が少ない状態なんだと
笑って言っておいた。
ユーもスゴイ表情で聞いていた。
「何のお話しですか?」
白い衣装が眩い
ウリハルが神サイドのテーブルに
やって来て無邪気な笑顔でそう言って来た。
「せ政治のお話しですので!」
「姫様のお耳をお汚ししてしまいますので」
慌てて遠ざけようとする司教二人がおかしい。
俺はそんなに邪悪なのか
・・・・邪悪か。
そのタイミングで今度は
魔サイドからお呼びが掛かった。
「パウルの裁量に任せるよ。」
俺はそう言って魔サイドに移動した。
「モナ殿とアンナ殿なんですがな」
ルークスがわざわざ神サイドに
背を向ける形に座り直し
真顔で言って来た。
魔導院での感動の対面
お互いの状態と安全を確認した後は
知識・情報の裏取りになり
これも齟齬が無い事を確認した二人は
召喚魔法についての更なる発展が
魔界からの脱出、最善は帰還に繋がると確信。
元々アンナは仲間の待つクリシアに戻るのだが
遺物などの事もありモナも同行したいと言い出した。
ストレガは判断を俺に任せた。
ベルタ宛てに「こいつに何かあったらお前ら滅ぼす」と
書いた親書と金貨などを持たせ
出発を快諾した。
出発の日取りと護衛の魔族の面子を
ルークスは俺に連絡してきた。
「そうか、ラングとロゥなら安心だ。」
暗殺者グレアを見事捕縛した衛兵コンビだ。
要人警護の為にドルワルド遠征組からは
外れていた事が幸いした。
「学園の休日に合わせましたので
救世主様も出発にお顔をお見せ頂ければと」
是非もない。
いくいく
「ミカリーン!」
こう言うスケジュール的な事は苦手なので
俺はミカリンに頼んで日時場所などを
聞いて置いてもらった。




