第二百七十三話 捜索中断
「ケイシオンを神に戻す方法ってあるのか」
俺はそう聞いてからしまったと思った。
敵である悪魔連中、知っていても
教えてくれるハズは無いだろう。
「魔界側にはそんな技は無いのぅ
堕落なら戻せるが人になってしまってはのぉ」
意外にも即答してくれるビルジバイツ。
声の感じからも嘘は言っていない様子だ。
それに新しい単語も出て来た。
それも聞いてしまおう。
「えーっと堕落って?」
堕天使
に代表される神側から悪魔側に
存在そのものが反転してしまう現象だそうだ。
これはもう一度裏返せば元に戻るそうだ。
同様の理屈で悪魔も反転すると
神になれるのだが
試す者も居ないし
論じる事も禁忌だそうだ。
過去に堕落した例も
その逆の例も無く
あくまで理論上の話だそうだ。
「魔界の創世は一人の堕落した神という話じゃが
昔すぎて検証のしようが無い
ワシは疑って掛かっておる。」
オーベルもそう言っていた。
もし俺の変身の様に
自在にその変換が可能なら
天界でも魔界でも
いかんなく力を発揮出来るのに
その研究自体は勧めてもいい様な気がした。
そのままその疑問をぶつけたが
一笑に付された。
悪魔が天界で神化すれば
それは新たな敵の神が
誕生してしまうだけだそうだ。
逆も同様だ。
どうも人格を含めた存在が反転してしまうらしい。
人格の変化しない俺の変身とは
根本的に異なるようだ。
反転はもう一度反転出来るが
人化の場合は不可能と言うのが
魔界サイドの常識の様だ。
だから義体を使用しているとも言えた。
その後は一番大事な話だ。
ババァルは消滅世界から行ける
いずれの三界にも存在しない。
地上での捜索は無駄になる可能性が高い。
脱出に関しての絆の鎖
この説明を交えながら
俺はこの仮定を話した。
ケイシオンが
意図的に俺を誤誘導しているか
別の大事な何かを隠しているならば
ここでオーベルに指摘して
もらえるのでは無いか
そんな期待も実は含めていた。
神が嘘をつくとは思えないが
何しろ俺は純粋では無いにしろ悪魔だ。
助けようとしているのは純粋な魔王だ。
敵側なのだから有利に働きかけはしないのでは
ないかと思っていたのだ。
「ふむ、残念ながらケイシオンと同意見じゃ」
真に残念なオーベルの返事だった。
しかし、悪魔軍団は落胆とは逆で
気合が入っている。
どうした?
俺は疑問をそのまま尋ねた。
「ふふ、不思議な事はあるまい
こうなればもうババァル様の居場所は」
幼い顔に似合わない悪い笑顔のビルジバイツ。
「ビルジバイツ様の仰る通りですぞ。
敵がハッキリしましたな。」
フクロウは相変わらず鳥なので表情は読めない。
「しかも、その相手ならば神側の邪魔も入るまいて」
ナナイそう言えば
お前は何か着ろ。
「またしても地上のアモン殿が
全ての鍵でござる。身命を賭して仕える事を
ここに新たに誓うでござるよ。
どうか、我が君をお救い下さる事を」
そうか
時空系とやらで強大な魔力だもんな
俺かぁ。
その後はミガウィン側の報告を聞いて
今後の方針に話が移った。
意外なこと・・・でもないのか
魔族の民族大移動にビルジバイツは
食いついて来た。
人化したとはいえ悪魔平民が気になるのだろう
これでも魔王だ。
合流もしくは同盟
その橋渡し役を命ぜられた。
うーん、純粋な悪魔じゃないので
聞く必要はないのだが
魔族的には勢力として歓迎かもしれないし
断る理由も無い。
俺は了承した。
それまでは建築は勿論
文字や数学など
ミガウィン族のアップデートと
周辺の蛮族の吸収に努めるそうだ。
捜索の任を解かれたナナイが
対蛮族を指揮するそうだ。
こんな所か・・・そうだ最後に
俺はストレージからビルジバイツと
ナナイ用のお土産を取り出して言った。
「此度の遠征の成果を献上いたしまする。」
「おぉお、気の利く奴じゃのぅ」
嬉しそうだ。
貢がれ馴れてないのか。
「因みになんじゃ」
「水着にござりまする。」
嘘です。
サンバダ衣装セットです。
かつては王国だった海辺の町
ヒタイングの水遊び時に着る
衣装と説明した。
「え?わ・・・私にもあるのか」
ああ
お前には絶対着てもらう。
この衣装を見た時にそう思ったんだ。
予想外にナナイは嬉しそうだ。
早速、着ると言って
ビルジバイツはナナイを連れて
湯殿の方に一旦出て行った。
「前が見えぬぞ!!」
戻って来たビルジバイツを見て
噴き出しそうになった。
パンツが前後、逆で
巨大な尾羽の飾りが正面に来ているのだ。
「ダーク、完成図を描け」
そう言って紙とペンを渡す。
「はっ」
サラサラと素早く完成図を書き上げるダーク。
おお
モデルはミカリンだ。
なんで、よりによってミカリンを選んだって・・・
そうか
ヒタイングでは別行動だったな。
ダークが知っているのは
ミカリンの姿だけか
俺は完成図を手渡す
す
す
のもやりづらい
尾羽の隙間から縦にして入れようと
するのだが必ず引っ掛かって
紙が折れて上手く行かない。
シワだらけの千円札で
ジュース買おうと四苦八苦しているような
気分になる。
あれムカつくよ。
折角、入ったのに
エラーで速攻戻って来たりして
裏返したりして再度トライして
また返ってきたりとか
なんで人間様が機械のご機嫌を
伺いながら苦労せにゃあならんのか
こっち客なのにさぁ
そんな事を思い出しながらも
なんとか紙を渡し
再び退出していくビルジバイツ。
そして悪魔軍団だけでなく
ミガウィン族にまで
大好評のビルジバイツだった。
「もうこれからコレでいこうかのぅ」
ご機嫌だ。
買って良かった。
「ねぇ・・・普通の服って無い?」
騒ぎの中
ナナイは恥ずかしそうにそう言った。
同じ衣装なのに
注目が全てビルジバイツに向かうの何故だろう。
お陰で見られていないのだが
それはそれでショックなのかもしれない。
そう、からかおうと思ったが
本気で泣きそうだったので
普通の衣装も渡した。
ナリ君と体型が近かったので
不必要になった白系の衣装を
一通りプレゼントした。
こいつは義体に変な拘りがあって
金属粒子を人体を模した状態で配列していて
衣装は別で用意しないといけないのだ。
そういえば召喚した時から
ボロボロでさっきの炎で止めだった。
回りが踊り狂うビルジバイツで
大盛り上がりになる中
ひっそりとナナイ夏のコレクションが
スタートした。
客、総勢俺一名だ。
「お前もか・・・・」
白系統の服を着たナナイ
何か調子が悪いというので
メニューを見ると
レベルが下がっていた。
仕方が無いので
思い出せる限り忠実に元の衣装
あの宇宙海賊みたいな恰好を再現した。
「おぉ以前のより良いぞ!!」
前の服の素材を知らないので
ストレガのローブと同じ素材で作成したのだが
好評だった。
うーん
ナナイでも笑顔は良いもんだな。
やっぱり女子の笑顔っていいわ。




