第二百七十二話 宮殿中のテント
死体は見慣れているつもりだったが
切断後に燃焼した奴は初めてだ。
バリエアで見たのは水死体が主だった。
まぁどっちも気持ちのいいもんじゃない。
ショック状態は直ぐに治まり
その後すぐに抑えきれない憤怒だ。
怒りの理由が分からないが
怒ってる事だけ分かっていれば
その時はそれでいい。
ナナイが続けてからかってくる様なら
悪魔光線をぶち込んでやる。
そう思って体内圧を限界まで
上げて置く、このレベルだと
東の山脈まで届いて穴が開きそうだ。
途中に人里があるとアレなんで
射角を上目で打つか
準備OKだ。
さぁ早くからかって来い。
俺の気配に気が付いたのか
ナナイは口を開いたが
出て来たセリフは
俺をからかう言葉では無かった。
「乗っ取ると知っていれば
初めから連れまわさなかったのだがな。」
「その事実を掴んだのも先の遠征中でござる。
忙しさの合間を縫って駆けつけたのでござるが
何とも上手くいかぬものよ。」
二人とも俺の怒りに気が付いているのか
ナナイはからかう事は愚か質問もしてこない
ダークは俺より先回りしてナナイに
色々と遠征の報告をし始めた。
撃つ機会を失った。
俺は体内圧を通常に戻した。
「続きはビルジバイツを交えて話そう。
ダーク、ナナイを連れて影に入れ」
俺は低空飛行のまま
建設途中の宮殿に向かった。
集落近くまで来ると
逃げ延びた連中の報告を聞いたのだろう
モヒカンが大集合し出発の準備中だ。
俺は停止する事無く「終わった解散しろ」と
声を掛け、そのまま宮殿まで低空飛行した。
ミカリンも良くやっていたが
この直立低空移動は非常に楽だ。
歩かなくなるのも道理だ。
デメリットは目立つくらいしかない。
宮殿内は
まぁ雑な作りだが
ミガウィン族が作ったと言えば
よく頑張ったと褒めてくれるレベルだ。
テントで生きて来た種族が初めて作ったのだ。
ここは褒めて然るべきだろうが
ベレンやヒタイング、そしてクリシアの
建造物を見慣れた者には
太古の宮殿を発掘したのかと
見紛う感じだ。
最奥の大きな部屋に
ビルジバイツは居るとの事で
例の布面積が多い割に
切れ目がイイ感じに入った衣装の
お姉さんが案内してくれた。
扉が無い。
作るつもりなのだろう
そんな感じで準備はしてあるのだが
荒野なので木材の入手に
手間取っているのかも知れない。
なのでノックも無理だ。
お声掛けしてもらい
入室して
俺は空中でこけた。
あのデッカイテントが部屋に
そのままあったのだ。
吊り下げは天井や壁を利用しているので
高い杭を打ち込まなくていいので
張るのは各段に楽なはずだが
そう言う事じゃない。
「埃が酷くてのぅ・・・。」
テントの中に入って
俺は開口一番に何で屋内で
テントを張っているのだと訴えた。
そのビルジバイツの返事だった。
なるほど
こうしている今もドスンバタン
すごい音だ。
空気も乾燥しているし埃はスゴイ。
悪魔男爵だと呼吸していないので
気が付かなかったが
もう少し、埃の密度が増せば
そろそろ粉塵爆発の心配が必要なレベルだ。
「よぅ来た。久しぶりじゃのぅ」
肩にフクロウを乗せた幼女が
歓迎してくれた。
ビルジバイツは問題無く過ごせている様だ。
お姉さん達が飲み物やフルーツを
運び込んで来た。
折角なのでチンチンクリンになって
御馳走に与かる事にした。
俺はヒタイングでの戦闘について
体を乗っ取られた下級悪魔について話した。
「今回はうちの手下がやられた」
ここでナナイが割って入った。
先ほどの出来事についてだ。
何でも手下がいきなり何も無いトコロから
延びて来た手に捕らえられ消えた。
俺のバングの説明を知っていたナナイは
「これか」と驚く事無く対処に移れた。
この情報自体には感謝された。
知らなければ被害はもっと増えていただろう。
この時点でナナイは手下を足手まといと判断
全員に撤退を指示したそうだ。
撤退中に襲われてしまう可能性があるが
それはもう対処のしようがない
ナナイは抜刀し名乗りを上げ
自身に注目を集めようとしたそうだ。
名乗りが功を奏したのか
出現可能な場所も限られているのか
1型はナナイに狙いを定めて来た。
その頑丈さゆえ
持ちこたえていたが
ジリジリとHPを削られながら
こちらにはこれと言った切り札の無い状態だったそうだ。
その後は俺達が合流した。
乗っ取られているのが分かったのは
ナナイも死体が変化してからだったそうだ。
「人族だけでなく悪魔も乗っ取り可能とは
それは忌々しき事態じゃの」
ビルジバイツはこの事実に戦慄していた。
俺は先に悪魔の方を見ていたので
逆に何で人間などという脆い生き物を
今回はベースに選んだのかが気になっていた。
事、戦闘に関しては
下級悪魔より
人が優れている点は対神聖属性のみだ。
勧んで選ぶ理由は無い。
俺はそう疑問を投げかけて見たが
答えを持つ者が居るはずも無かった。
辛うじてダークは自身の予想を言った。
「先の遠征で下級悪魔の数が激減したせいでござろうか」
そういえばサンマも
その内1000円を超えるなどと言う予想もあった。
有り得ない、一匹100円じゃなきゃ嫌だ。
サンマにそんな額出せない。
ここでバングが魔法収集器の疑いがある事を
告げたが、ここの面子ではオーベル位しか
関係しないそうだ。
そのオーベルも前線に出る事はあるまい。
まぁ知識として覚えておいてくれ。
「まぁ自分よりレベルが上の者を
乗っ取れるかどうかはまだ分からないがな。」
試したくないし
しない方がいい。
俺はそう言ってその話はそこまでにした。
その後は遠征の後半
特に魔界に関係しそうなクリシアに
ついて細かく説明した。
悪魔教に関しては
魔王以下、魔神3名も同様の反応だった。
鼻で笑った。
本物の悪魔達も
崇められても特に何の感傷も湧かない様だ。
ただ人間牧場に関しては
興味を持った。
俺は内圧を上げて「それは止めとけよ」と
釘を刺して置いた。
「勘違いなさるな、地上のアモンよ
恐怖による支配、短期的には効果ありじゃが
長期的に見れば宜しくない。
ワシにやらせてくれれば
人間どもに快楽を与えつつ
より効果的に人を繁栄させてみせるぞ。」
オーベルはそう言った。
そういえば前回の時もベネットが
同じ様な事を言っていたな。
産めよ増えよ。
奇妙な感じだが
何もかもが正反対の神と悪魔だが
その一点に関しては
意見が同じなのだ。
「ミガウィン族の成果次第では
そうだな、将来は国のひとつもやろう」
俺はそう言て置いた。
フクロウの姿なので表情が読めないが
何となくニヤリとした感じのオーベルだ。
現に上手く行っているのだ。
あの略奪しか興味が無かった種族が
この短期間に建築を始めているのだ。
これは驚異的と言っていい変化なんじゃないか。
「その引っ掛かった世界とやらの
平民を救い出してくれた事に
魔王の一人として褒めて遣わすぞや。
今は見ての通りの状態ゆえ
褒美は貸しじゃ、すまんの」
ビルジイバイツはそう言って
これは・・・礼だと思っていいのかな。
まぁそう思っておこう
そう礼を言った。
しかし、俺は気になる事を聞いておいた。
「振動数とやらで人化しちまっているんだが
これで良かったのかな」
「ふむ、消滅してしまうよりは
遥かにマシじゃな」
ビルジバイツはそう答えた。
オーベルも同意見だ。
ダークが気を使って嘘を
俺に言ったのでは無いようでほっとした。
そして話は続きケイシオンのトコロでは
ビックリする程オーベルとビルジバイツは反応した。
「なななななんじゃとぉ!!」
「誠か???」
ビックリして固まった俺に代わり
ダークが補足した。
「拙者も会ったでござる。その老人は
間違い無く消滅空間に滞在していたでござるよ。
平民同様に人化してしまっていたが故
今となっては確認の取りようが無いでござるが」
フクロウは首を傾げて言った。
「ふむ、ケイシオンと特定は出来ぬが
12柱である事は間違い無いようじゃな。」
ビルジバイツは別の事も気になった様で
俺に聞いて来た。
「それにしても地上のアモン。
12柱に辿り着くまでに良く
消滅せんかったな。」
ケイシオンも似たような事を言っていた。
ここで抗えるのは12柱か魔王だけみたいな。
引っ掛かった世界は
世界ごと落ちたので世界の外に
出ない限りは消滅をしない。
まぁ世界の欠片そのものが
どんどん消えて行っていたのだが
それでも中にいる限りはひとまず安全だ。
ケイシオンの場合は初めは世界ごと
だったのかは分からないが
俺と会った時は神単独で引っ掛かっていた。
ビルジバイツが疑問に思っているのは
そこに行くまでの間は
俺は単独で消滅空間を移動したという事だ。
「さぁ、そう言われてもなぁ」
消える様な感覚は無かった。
ただ何をやっても効果が無く
無力感には苛まれていた。
「とにかく危険な行為じゃ
いかに12柱という手柄があっても
次はやってくれるなよ。」
ん?何だ
ビルジバイツは俺を心配してくれているのか。




