第二百六十九話 正を決めれば非も決まる
アリアの面接に何故か
俺は邪魔だそうだ。
まぁいいけど。
そんなんで俺だけで出発だ。
魔族の迎賓館に単独で向かった。
すっかり顔パスで中に入れてもらえる状態だ。
挨拶をしながらアモン2000をゆっくり
中へ進めると、中庭でリリアン師とナリ君が
朝の稽古中だった。
「遅くなりましたー!」
練習用の関祭を取り出し
俺はそう声を掛けて近づいて行く
「呼んでない」の突っ込みを期待したのだが
二人とも笑顔で歓迎してくれた。
そのまま稽古に参加だ。
「救世主様、どこでその技を?!」
「マスター太刀筋が変わってますよ。」
少し打ち合っただけで
二人から指摘された。
休憩に入った所で
俺は昨夜のバロードでの出来事を
二人に話て聞かせた。
「予想は出来たハズ・・・我もバロードで
下りるべきでした。申し訳ありませんマスター。」
何で謝るんだ。
「いや、それなら俺も同罪だ。」
こう言って置いた方がいいかな。
リリアン師が話題を変えて来た。
「その剣士・・・名は何というのですか」
何て言うんだろう
そう言えば聞いて無いや。
素直に聞いていない事を謝罪した。
「いえ、結構な腕前なら名乗り口上を
上げたのではと思いまして」
俺は剣士との戦闘を細かに説明したが
居合を主とする流派は沢山あるそうだ。
それよりも人族で刀を使っている事に
リリアン師は驚いていた様子だ。
そいつに指導した魔族が裏にいる。
それを警戒しているのかも知れない。
「まぁ今度バロードに行った時にでも聞いておくよ。」
さて今日はアンナをモナと対面させる予定だ。
昨日は魔族にアンナの身柄を預けて
様子を見てもらった。
まだ言ってないが悪魔平民は
新生ドーマの市民になってもらおうかと思っている。
バイスの様子を見る限り
バルバリスで共存は無理だ。
アンナ一人であのプレッシャーだ。
100人以上いたら発狂するだろう。
そんなんで魔族は本当に平気か
ここで見てもらうつもりだったのだ。
俺はそれとなく昨日のアンナの様子を聞いた。
「・・・特に問題は発生しなかったかと」
ナリ君は王だもんな。
もう帰還したら取り囲まれて
あれやこれやで自由には動けないだろう。
リリアンにも聞いて見たら
案の定リリアンがアンナの説明と
もてなしの指示を出していた。
「はい、遠征帰還の祝賀会でも
これと言ったトラブルも無く
楽しまれていた様子でした。」
一番気になっていた外見での差別や恐怖も
魔族的な常識の範疇らしい
むしろ角も翼も無いのかと
蔑むまではいかないが
期待外れ的な感じだったらしい。
やはり魔族は悪魔に対して抵抗力が強い
むしろ親和性があるのではないだろうか。
「そうか、安心した。今日アンナを
連れ出しても大丈夫かな。」
魔導院に赴きお待ちかねのモナとの対面を
予定していたのだ。
「こちら方は問題ありませんが
アンナさんの体調はまだ確認しておりません」
朝っぱらから稽古していたもんな。
「マスター我も同行したいのですが」
「若、なりません。今日は分刻みの
スケジュールでございます。」
いけませんと告げようとしていたのに
同行の辺りでリリアンはピシャリと
話を遮った。
うーん、イイ感じじゃないか何か。
勝手に探して連れて行くと告げ
俺は迎賓館の中へと入った。
ルークスにも一応挨拶しておくか
そう思いルークスの執務室まで足を運ぶ。
ノックをするとルークスの返事だ。
俺は挨拶をしながら扉を開けた。
中にはデスクから立ち上がろうとするルークスと
その進行を邪魔しない様に身を引くシャリーの姿が見えた。
「おぉお帰りなさいませ
この度の遠征、英雄譚に
また新たなページを刻みましたな。」
迎えに出てこれなかった事も
深々と詫びるルークスだが
それはナリ君にだけで良いと言って置いた。
そうだ英雄譚といえばシャーリーにお土産があるのだ。
パンツの君
俺のストレージの大事な物フォルダに
唯一収納されたアイテム
その元の持ち主
読書好きで前回の感想文から
何となく好みを推測して
本を買って来てあったのだ。
「そうだ、シャーリー。」
俺はルークスのデスクの上に
クリシアで入手した本
クリシア大全集、全12巻
もう百科事典セット並みの量だ。
それをルークスのデスクの上に
ドカンと
ホントにそんな音がした。
ドカンと置いた。
「い・・・頂けません!!そんな・・・。」
まぁ確かに金額的にはスゴイ
印刷技術が未発達なこの世界では
手書きの本もまだまだ多く
モノによっては本は高価なものもある。
現にクリシア大全集は
金貨とちょっとオーラで脅して
強引に買い付けたのだ。
シャーリーは大全集の凄さに圧倒され
全力で遠慮していた。
だが駄目だ。
どうしてもこれは納めさせてもらうぞ。
それ程に貴重な物をもらっているんだ。
対価としても、まだ足りないぐらいだ。
「勘違いするな。これは依頼だ」
俺は威厳たっぷりに言った。
シャーリーみたいな手合いには
腰を低くして当たると
いえいえ
どうぞどうぞ
いえいえ
の
エンドレス地獄が待っているのだ。
強引に行った方が速い。
「文字を読むだけなら
それこそ出来る奴はごまんといるだろう
だが書かれていない事を
読み取れる者、これはそう多くない。」
多少、演劇掛かった調子で俺は続けた。
「記録物といえど人である以上
どうしても書き手の主観、及び誘導先が
透けて見えるものだ。
この者はクリシアにどうなって欲しかったのか。」
マリオっぽくなってしまったが
これはこれで面白いな。
「更に俺にはコレに
隠された暗号が仕込んであると踏んでいる。
大っぴらには言えないが後世に
残してくべき事柄など
一部の者には伝わるようにとな。
シャーリー。感想文などから
俺はお前の読み手としての能力を
高く買っているのだ。」
嘘っで~す。
記録物には違いないが
滅んだ王家の悲恋とかもてんこ盛り
創作も混じっていると思われ
でもシャーリーの壺だと思ったのだ。
「急ぐ必要も無いので
期限は区切らない
最初の一回目ぐらいは
純粋に読んで楽しむといい」
こう言って置かないと
いきなり解析から入りそうな真面目さんだからな。
ルークスが突っ込んで来ないか心配だったが
逆だった。
「その解析結果、ドーマも
共有させていただいても宜しいでしょうかな」
ノリで言っているのではなく
ルークス真顔だ。
「ああ、ただし7元老辺りまでで止めておけよ。
内容によっては、やはり隠しておくべきモノだった。
ということもザラだ。」
ルークスは真顔のまま頷いた。
当のシャーリーはお土産では無いと言う事に
気が付き、両の拳を握りしめて答えた。
「はい。私にどこまで出来るか
分かりませんが、ご期待に応えたいと思います。」
「気負うな。さっきも言ったが
最初一回目は普通に楽しめ
そこから見えてくるモノもあろう。」
楽しんでね
お土産なんだから。
「しかし・・・これは持ち運ぶのは
大変そうですね・・・。」
安心しろ
創刊号の初回特典は全巻収録可能な
特製キャリアがついていたのだ。
(嘘。俺が作った)
俺はストレージから
4巻ごと三段ケース
ストッパー付き専用台車を出して
次々と本を入れていく
シャーリーにストッパーの使い方も
説明しておいた。
深々を頭を下げ
シャーリーはいそいそと退室していく
読みたくてしょうがない様子だ。
買って来て良かった。
「彼の者にそのような能力があったとは
他人の秘めた力を見抜く
そんな術でもお持ちですか」
出ていくシャーリーの後ろ姿を
眺めながらルークスは
そう俺に聞いて来たが
どこまで演技なのか
まさか本気なのか
俺はオチを付けずに流した。
「伝授出来る技では無い。」
そうだ挨拶ついでだ
昨日の水着会議でドーマに関する
事柄は根回ししてしまおう。
俺は大陸の東側
死地と化したかつてのドーマ。
そこに新生ドーマ復興の折には
バルバリスの協力がある事を
ルークスに伝えた。
「・・・・バルバリスは我らが悲願を
既に知っていたというワケですか。」
「想像はつくだろう。」
そんな突拍子も無い発想でもあるまい。
「ふむ、素直に我らを解放しますかな・・・。」
「それがだな、むしろ出て行ってくれだ。」
俺は亜魔族と教会の共存不可能な実態と
クリシアにまだアンナの仲間が
百名ほど難民状態でいる現状を伝えた。
「成程、アンナを王に預けたのには
そんな思惑があったのですな。」
「で、どうだ共存出来そうか。
無理なら根本から考え直さんといかんのだ。」
ルークスの感想では
アンナに何ら特別な嫌悪感は無く
外見からの差別はまず無いとの事だった。
世話役その他にも
それとなく調べてみてくれるとの事だ。
今後、増えるかも知れない
悪魔平民の受け入れ先
その大きな希望にほっと胸を撫でおろす。
最後にルークスは皮肉っぽく閉めた。
「しかし、平和と平等を謳う教会が自らの
差別と弾圧に悩むとは
何とも宗教とは不自由なものですな。」




