第二百六十七話 侍とプラナリア
アリアは椅子から立ち上がった。
フラつく様子が無いので
身体的にはもう大丈夫なようだ。
「あの、ありがとうございます。」
マントの隙間から
チラチラと俺を誘惑する柔肌。
それを隠すより
頭部を優先して庇い
不自然に俺に対して体を横に向けた。
ああ
髪の毛と眉毛か
治療は終わったものの
顔の半分、まだちゃんと生えていない。
帰りの道中でもずっとニットを被っていたっけ。
女子的には裸より
そっちの方が見られたくないのね。
「えーっと、帽子だよな・・・。」
俺はそう言いながらストレージを
探るがニット帽子なぞ買った覚えは無い
この際、頭を隠すなら何でもいいだろう。
「コレしかないけど・・・。」
そう言って俺はサンバダ衣装の
頭飾りを取り出した。
「あ・・・ありがとうございます。」
普通の帽子は無いのに
踊り子の頭飾りは持っているのですね。
そう言いたいのをガマンした様子で
それでも文句も言わずに被ってくれた。
部屋の壁に鏡があり、それに姿が映っている。
アリアはそれを見ながら位置を調整した。
深めに被ると眉毛も隠れてくれた。
が
すごい変だ。
黄色を基調とした極彩色の頭と
黒いハーフマント
その下のボロボロの衣服
頭だけが幸せ全開だ。
「・・・う。」
流石に嫌そうだ。
俺も変だと思う。
「頭だけだからだ。
どうせ下ももう使い物にならないんだから」
俺はそう言って先程まで縛り付けられていた
椅子に残りの衣装を置くと
着替えやすい様に板で囲ってやった。
「・・・あ、はい」
察したアリアは素直に着替え始めた様だ。
衣服がこすれる音だけが響く
しかし、なんで俺が緊張するんだ。
「あの、ピッタリなんですけど」
それはそうだろう
デビルアイで女子軍団の体型は
ミリ単位で記録済みなのだ。
言えないけどね。
「終わりました。」
そう言って南国のオウムみたいなのが
板の横から顔を出した。
ヤバいエロい。
なんだろう
今回の本体の肉体年齢
そのせいなのか
同世代に反応するのは生き物の本能なのか
成熟したブットバスより
ペッタンコなオコルデより
この青い果実は今の俺に来る。
「ハァ・・・ハァ・・・似合っているよ。」
「ハァハア言わないでください!」
「ハァ・・・ハァ・・・言って無いよ」
イカンな
今は絶対にチンチクリンに変化出来ない。
半魔化の状態に感謝だ。
今生身なら直立出来ないだろう
強制的にガウォーク形態になってしまうに
違いない。
ええい
もう始めてしまうか。
そう考えた時に完全膝カックン耐性が
俺達以外の反応を捉えた。
あれだけ派手に突入した。
上の階に居る者が気が付かないハズは無い。
むしろ遅い位だ。
「・・・・一人なのか?」
侵入者の事を言っているのであろう
その男は入り口に立ちふさがる様に立ち
部屋を見回してそう言った。
「ここに居た連中はどうした?
特に太ったハゲのおっさんは
まだ残金貰ってないんだ。」
金で雇った用心棒先生か
ロン毛でデコ出し
90年代に戻ったのかと錯覚しそうになる髪型だ。
背も同じくらい、高いほうだ。
筋骨隆々という程では無いが痩身でもない。
服装は一般的でしゃれっ気の効いた感じだが
腰にぶら下げている武器に俺は大注目した。
刀だ。
あの作り、反り具合
間違いない。
「アリア下がって居ろ・・・勝負だ。」
俺はストレージから俺専用刀「関祭」を
取り出して抜刀、正眼に構えて
そう言った。
「・・・ほう。」
俺の得物を確認した
その男はそう漏らした。
やはり珍しい武器なようだ。
鍛錬というには
あまりにも短い期間だったが
帰りの道中、リリアン師の教えを思い出す。
刀の作成だが
いきなり躓いた
長さ、厚み、反り具合など
コレと言った正解は無かったのだ。
リリアン師の説明によると
時代や使い方で様々な種類があるとの事だ。
反りに関しては有った方が
振り抜き易く、斬れずとも転倒が期待出来るとの事だ
馬上で使うなら刀身は長く
反っていた方が良いそうだ。
材質に関してはリリアン師は
鍛造の鋼しか認めないと
頑なに仰っていたが
そんなヒマは無いし
魔法の併用も考慮すると
俺はナリ君に授けたタイプにしたかった。
色々作っている内に
リリアン師匠は
刀身が60cm無い程度の
なんでも打刀というタイプらしい
鎬と呼ばれる相手の刀を受ける部分は
そこそこの厚み、長期戦は考慮しないそうだ。
で反りは先端部、打ち身から切っ先と言っていた
にかけて緩やかなタイプ。
鍛造では無いが
俺の金属操作で結果的には酸素保有量は遜色無いレベルの鋼だ。
多層構造に関しては適当数で勘弁してもらった。
ナリ君は
訪雷剣が大剣なのだから
サブウェポンとして短めを勧めたのだが
「これ以外に考えられませんマスター」と
強く、そりゃもう懇願に近いくらい強く
総長180cmにもなる超長刀。
これが魂に響いたみたいだ。
基本リリアン師と同じ構造なのだが
その長さ故、反りはキツく見えた。
厚みもあるのだが長さに比べると
薄いと言える範疇だ。
ナリ君も鋼を希望したのだが
アホみたいな重さになったので
邪道だが中空構造にしカーボンで埋めた。
軽すぎても威力が出ないので
しなりなども何度もテストし
ベストな一振り「抜刀祭」が完成した。
俺と言えば
「抜刀祭」の完成で不要になって返って来た
最初の刀を使用。
鍛錬のに合わせて微調整を加えて行った。
「関祭」と名付けた。
これら3振り
本と読んだらリリアン師に怒られた。
えー3振りの刃を除いた練習用を作り
鍛錬はそれを使用した。
帰りの道中、空いた時間に
俺とナリ君はリリアン師から
刀のレクチャーを受けたのだ。
早速、実戦のチャンスだ。
相手も刀、これはもうやるしかない。
デビルアイで解析した相手のレベルは37
10を超えると一般的に強いレベルなので
これはかなり強い人だ。
ブットバスなどと同等で
騎士団長になれる程の腕前だ。
「誰だか知らんが、ここに居た奴らは
みんな消えてもらった。」
俺も瞬発力、筋力など相手と同じレベルに
合わせて襲い掛かった。
圧倒的差で技術関係無く葬っては
何の勉強にもならない。
「お前も刀の錆にしてやるぜ」
そうは言ったものの
俺の関祭の刀身はセラミックがベースなので
錆びないんだけどね。
上段に構えを変えつつ一気に踏み込む
相手はまだ抜刀しない。
やる気あるのか。
バリバリあった。
俺の間合いの直前
首元に相手の刃が食い込んで来た。
安全機構が作動し
高速思考が始まった。
あ
俺、首撥ねられてるじゃん・・・。
半魔化なので中身は金属粒子にも関わらず
すごい切れ味だった。
斬られながら思い出す。
ベネットだ。
そういえばアイツは技の魔神だったっけな
これも技というやつか
思い出しついでに対処も同じようにした。
切断されるそばから結合だ。
これでまだイケるぞ。
俺はめげずに相手に何度も斬りかかった。
ものの数分の打ち合い・・・
いや、俺のは全て躱されたので
正確には打ち合えていない。
そのたった数分で俺は
首を撥ねられる事8回
心臓を貫かれる事5回
脇、股の大事な腱を切断されること12回
まるで相手にならなかった。
生身じゃなくて良かった。
「くっそー強ぇえなぁ。」
悔しがる俺に対し
圧倒的優位に見える相手は
脂汗を大量に浮かべ呼吸も乱れ始めていた。
たった数分だが
相手にしてみればこんな長丁場は経験がないのだろう。
居合が主な攻撃手段だ。
最初の一撃で終わるのがほとんどだったに違いない。
「な・・・なんだお前は」
哀れだ。
人斬りに代表される暗殺者の悲しい弱点だ。
彼等の卓越した知識・技術は対人、相手が人間という前提だ。
人に特化した技術故、人外を相手にしたとき
悲しいほど脆い。
息も上がり動揺している相手だ。
これでは実力も出せないだろう
俺はレベル100の動きで相手から
一瞬で刀を奪いデビルアイで走査した。
刀を奪われ唖然と立ち尽くし言葉を失っているが
俺は無視して走査を進めた。
「これ何日掛かるんだ・・・。」
叩いては伸ばし、折りたたんではまた叩く
相手の得物は幾重にも重ねられた
執念のミルフィーユだった。
俺の鋼の肉体に何度も打ち込んだせいで
背が伸び(反りが真っ直ぐになってしまう現象)
歯零れもヒドイ。
「リリアン師がみたら怒りそうだ。」
これを作成した職人に少し申し訳ない気持ちもあったが
このまま鉄くずにするには忍びない
金属操作で元の状態に復元し
打ち損じも修復しておいた。
「はい。いい刀だな。良く知らんけど」
俺はちゃんと刀身をハンカチ越しに持ち
相手に刀を返した。
反射的に受け取ると
刀の状態を確認する作業に入った。
クセなのか
呆然としているのにその動きは
流れる用だった。
ストレージから飲み物の入った竹筒を
三個、取り出すと相手と後ろで
控えているアリアにそれぞれ投げて渡し
開け方を教える様にわざと
大袈裟に開けて見せ、俺はそれから
ゴクゴクと飲んだ。
最初は俺が斬られる度に悲鳴を
上げていたアリアだが
全くダメージが入っていない事に気が付いてからは
大人しくなっていた。
顔を伝って落ちた涙の跡を拭うと
同じ様に栓を抜き飲み始めた。
諦めたのか相手も
同じ様に飲み始めた。
「飲んだら続きな。」
俺はミカリン直伝の例の
体の前後で連続で回る動作をしてそう言った。
・・・三回転目の背中側の時
回転方向と刃の向きが合わない。
この回し方は両刃直刀の方が綺麗に見えるな。
「・・・どこを斬れば倒せるんだ。」
何かヤケクソ気味に相手が言った。
ちゃんと答えてやる。
「斬撃では死なない」
もうプラナリアか俺かって感じだ。
「先に居た連中はどうやって始末したんだ。
刀ではないよな。」
死体が転がっていない。
俺が刀を出したのはこいつが来てからだ。
返事の代わりに実践して見せた。
そいつの背後の家具を
悪魔光線で破壊する。
相手はすかさず振り返って
所々火を噴きながら爆散していく
家具を見て咳き込み始めた。
飲み物が変な所に入った様だ。
「何故、俺にはソレを使わない」
「刀を練習中でな、殺したら練習にならないだろ」
たったそれだけの理由か
そんな事を言いたげな表情になったが
激昂する事は無かった。
刀を奪った時の動き
刀を修復した謎の力
何も無い空間からモノを取り出し
目から破壊光線を出し
どこを斬っても効果が無い。
殺すだけならいつでも出来た。
俺を相手にするのはヤバいと思ってくれた様だ。
「命乞いをすれば助けてくれるか」
堂々と言った。
中々理解が速いようだ。
そうだな宣伝役になってもらおうか。




