第二百六十五話 未来技術遺産登録おめでとう
「じゃあ一番の問題って何なんだ。」
「えーとバングではないでしょうか」
何で探る様な言い方なんだ。
自信を持てよハンス。
９大司教が各方面に散らばる様に配置されるのも
この問題に遅れを取らない為の対応とも言えた。
この辺はヨハンとユークリッドが考慮済みだ。
流石と言ってイイ。
「どこに居るかも探る手段が無いし
いつ何処に出て来るかも分からん
クリシアくんだりまで出張って
分かったのがコレだ。
後手に回るのは本意では無いが
打てる先手が無い以上
今は何も出来ん。
現れたバングをせいぜい出来る限り
物理で葬るしか対処が無い。」
魔法は最後の手段にしておかねばな。
ただ、ひとつだけ予想出来る襲撃があった。
今回の遠征冒険譚の中で
ハッキリとは言わずボヤかしておいたが
司教軍団は気づいている様子だ。
まぁ
その為にも俺が入学する必要があるワケだが
勇者ウリハル・ヒリング・バルバリス
彼女が狙われる事は間違い無いだろう。
神頼みを除くと人側の最高戦力だ。
悪魔もバングも真っ先に狙う
現にここまでも根底にソレがあったのだ。
口には出さない
なぜか出す事を皆禁じられているかのように
勇者の話題が司教から出てこない
そんな空気を感じていた。
だが俺はハンスに次いで
空気を読まない男だ。
ダイレクトに聞いてみた。
「そう言えば、ここまでガバガバを見かけていないんだが」
現勇者と一緒に何処かに隠れているのだろう
最重要人物だ。
「ああガバガバはバリエアで丸太運んでいますよ」
ハンスがあっさりそう言った。
次世代に勇者の力を受け渡した
言わば出涸らし元勇者だが
残っている力でも十分規格外だそうで
バリエア再建の為に働いているそうだ。
道理で見かけないと
っておい
お前ら鬼か
仮にも英雄をそんな土木作業に
牛馬の様にコキ使うとか
信じられない。
俺はスゴイ剣幕で
そう捲し立てた
ガバガバとそんなに接点もなく
仲が良かったワケでも無いのだが
この扱いには黙っていられなかった。
「いやいやいやいや」
司教軍団も口々に弁明を始めた。
我先にと皆話始め誰も譲らない
聖徳太子ではないが
何とか理解すると
止めろって言っても聞かない
そうだ。
子育て中はそれに全力投球だったが
子供に手が掛からなくなり始めると
「今、私に出来る事を、最もこの力を
必要としている場所で」
そう言って止める全員を
振り切って活動を始めたそうだ。
なんか目に浮かぶ
あいつ人の言う事を基本聞かないよな。
放置でいいか
つか既にそうなのか。
ついでにバリエア組の面子を聞いておいた。
知ってるトコロではセドリックとガウだった。
そういえば見かけていなかった。
その後は雑談になっていった。
大事は決断もさせられた気がするが
基本お任せだったので
よく覚えていない。
にしても司教軍団
良い身体をしている。
ヨハンとバイス以外は
もうみんな良い年だと言うのに
鍛えているのか激務がそうさせたのか
誰も醜い中年太りになっていない。
首のシワやだ肌の艶艶、シミなどは
流石による年の波に勝てず
特に女子軍団が隣に来ると
如実に浮き彫りになる。
水着ユーさんとサンバダミカリンの
ツーショットは写真に撮っておきたい位
異次元の光景だった。
最初は悲鳴をあげ祈りをささげていたが
自分達も水着
この同化効果は覿面で今は
何ら臆することなく普通に会話してしまっている。
この場においてはむしろ水着で無い方が異質になるだろう。
うーん
この効果を異種族共存に生かせないモノだろうか。
深夜になる前にお開きになり
元の服に着替えてから司教軍は撤収していった。
お土産の水着も喜んで持って帰っていった。
俺達も片づけ、普通の服に着替えた。
片づけの最中
キッチンで手つかずだった料理を
適当に盛り付けているブリッペに気が付いた。
まだ食うのかと思ったが
どう見ても人に出す仕様だ。
ああ、そろそろ起きるかもな。
「カシオ用か」
俺はそう聞くとブリッペは頷いた。
なんだかんだでブリッペも
優しく気配りの出来る良い娘だ。
俺は道中でのカシオの食指をアドバイスした。
肉体が老人なので固い物、脂っこい物は
避ける傾向だった。
残りの片づけをアルコとグレアに頼むと
俺はミカリンを呼び
３人でカシオの部屋に向かう。
この二人にはカシオの正体を打ち明けるべきだろう。
もしかしたらカシオの知らない
天界に戻る方法があるかも知れないし
知らなくてもミカリンからウル、ラハに
１２柱保護の連絡を入れることが出来る。
天界も心配しているだろうし
残りの１１柱なら何とかしてくれる可能性は高い。
カシオは先ほど目覚めた様で
トイレから部屋に戻る所を廊下で会った。
ブリッペの気配りを聞くと
カシオは大層喜びでブリッペの頭をなでなでした。
ブリッペも嬉しそうだ。
そのままカシオの部屋で頂くと言う事になり
４人で入室しカシオは意外な食欲を見せた。
キャリアの振動は胃腸にも負荷を掛けていたのだろうか
もう食う食う
ブリッペの準備した量は老人には
ちょっと多すぎるんじゃないのと思ったが
これは平らげる勢いだ。
「ふぅー美味かったわい」
マジで喜んでいるカシオ。
「薬を忘れるなよ。」
「おぅ、そうじゃったの」
ミカリン初期の腸内細菌不在問題。
これに対応する為に乳酸菌その他を
錠剤にしてあるのだ。
食前だと胃酸にやられてしまうので
食後に服用し食べた食料と一緒に
腸まで行ってもらおう。
悪魔平民も同様の症状が予想されたので
大量に置いて来て有り
ベルタに記録をするように言ってある。
製造は至って簡単だが
抽出する元の材料は口が裂けても言えない。
「で、この爺さんなんだが」
消滅空間で出会った経緯を話した。
想像以上にミカリンだけ狼狽えた。
「え？なんで？柱が落ちたっていうの？」
その狼狽えっぷりにカシオが首を傾げる。
「この娘さんは、何者なんじゃ」
見せた方が速いか
俺はメニュー画面から
ミカリンの状態を人→天使に変えて
直ぐ戻す。
一瞬だけ４大天使のミカ姿になった。
いくら完全隠密でも天使長の間近じゃ
ダークと言えども耐えられないだろう。
一瞬で止めて置く。
効果は十分で
カシオは口をあんぐりと開け驚いた。
「ありゃあワシの記録から消えたと
思うとったら、あらら」
ミカリンの記録消失は俺との戦闘
つまり俺に関わったせいだろう。
俺は最終決戦からリスタートの
ミカリンに関する部分をカシオに説明した。
「そうだったんだーっ」
おいブリッペ
お前には散々説明したぞ。
まぁついでだ。
俺はまだ「あらあら」言ってるカシオに
ベリッペの経緯を説明した。
「アモン君、４大天使を二人も
使役しとるっちゅうコトか？！」
「使役って言うよりも
どっちかって言うと面倒見させられている」
飯だの服だの住む場所など
悪魔が大量に攻めて来れば
少しは有りがたみが体感できるのかも知れないが
今の所、手の掛かる娘二人だ。
平和な時の戦闘機は
コストや手間ばっかり掛かる飛行機だ。
移動という実用のみに着目すれば
セスナやヘリの方が重宝する。
「あれ？どしたの二人とも」
ショックから立ち直れない
ミカリンとカシオ。
天界の事情なんぞ知った事ではない俺と
神がかった天然のブリッペは
どこ吹く風だ。
「しばらくすれば立ち直るから待て。」
俺はそう言ってブリッペを止めた。
パニくってる時にアレコレ言っても
頭に入って来ないだけでなく
余計混乱する。
それにしても爺さんショックでかいな。
これぞ正しく
カシオの爺ショック
俺は自分で思いついて
自分でウケた。
不思議そうな顔でブリッペが見ているが
これは説明出来ないな。
