第二百六十三話 かくしてドルワルドは
「武勇伝ねぇ・・・
お恥ずかしい限りだが
ただのピクニックだったぜ」
ネルネルドで訓練を終えた
魔族第一団の合流を待って
ドワーフ、魔族、聖騎士の連合軍は
南進を開始した。
かつてはネルドに対抗する為に建造された
ドルワルド側の最前線の砦を
戦闘無しで奪還を成し遂げた後
首都に向けて動いた。
「一番大変だったのが補給線つー有様だ」
首都は更に奥地だ。
何も加工しなければ水筒の水も
凍ってしまって飲めない。
なのでポンプで加圧し
中の水が凍らない様になっている
特殊な水筒を魔族と聖騎士は常備している。
ドワーフは何と水ではなく
より融点の低いアルコールで
水分補給していた。
酒好きというより
極寒の環境に適応した種族で
水の代わりが酒なのだ。
人でコレを真似する事は
構造上不可能だ。
摂取したアルコールを分解するのにも
水が必要になるのだ。
酒のみが次の朝
水ーっみずーをくれー
あーもう酒止めた
となるのはこのせいだ。
あっと言う間に王城を奪還
砦同様荒らされた跡が無かったそうだ。
「まぁ人の設備を利用するサイズでは
ありませんからね。手つかずでしょう」
ユークリーッドの言葉に
思い出した様にヨハンは追加した。
「荒らされたって言えば
色々な鉱山で採掘された痕跡が
あったらしいぞ。」
「バングが炭鉱夫を・・・ですか?」
「金属を何に使うんですか、まさか食べるとか」
ハンスもバイスも遭遇したバングが
道具を使わないのは勿論
衣服も装飾品も身に着けてはいない事を知っている。
「まぁそれはイイじゃないか。
それより魔族がヤバいって話は
いつ始まるんだ。それを待ってるんだが」
俺は急いでその話題から離れる様に促した。
犯人としては触れたく無いのだ。
くそ
良い鉱山だったんだがな
これからはドワーフの目を
盗んで行わねばな。
「ん?ああ魔族ね。」
バングとの戦闘が皆無では無かった。
俺とダークの乱獲を逃れ
ミガウィン族地方通過の招集にも
参加出来なかったバングと
復数回戦闘が行われたそうだ。
「どう考えても、誰が見ても
ここは武器を捨ててでも撤退という場面でもな」
すぐ特攻するそうだ。
で
また勝利して帰還してくるらしい。
「精神は大事。これは分かるけどよぉ」
何よりもそれが上位に来ているそうだ。
「何かっちゃあすぐに、死ぬ事とみたり
とか言って覚悟を決めるのが早すぎんだよ」
連携という面でドワーフも聖騎士も
とてもついていけない
と早々に諦めたそうだ。
「過去の資料を紐解いて見ても
国力の差を覆して戦果を上げている
事例が幾つもあります。
魔族を数字だけで判断するのは
危険ですよ。」
パウルがそう補足した。
対処はすれども
バルバリスが魔族を完全に理解するのは
諦めている様子が窺える。
「まぁそんなんで被害らしい被害も無く
あっさりドルワドは奪還出来たんだがな」
今後は城を拠点にして
ドワーフのみで残りの国土を
取り戻していくそうだ。
「んんんここで国内のドワーフを
帰国させられてしまうのはキビシイですねぇ」
9大司教「厚」布教がメインの担当だが
バリエア復興の責任者でもあるユークリッドは
苦々しく漏らした。
素人目で見ても各地で活躍する
ドワーフは労働力としても職人としても
戦士としても人族より秀でていた。
そして何しろその巨体にも関わらず
暴力的行為に陥る事の少ない温厚な者が多い。
欠点を上げろと言われると
魔法に疎い事と酒の消費量がスゴイ事ぐらいで
基本ドワーフはイイ人が多い。
フ〇クリポはクズしかいない。
「ああ、そんな恩知らずな真似はしないそうだ。
今居る人材で王城の復旧に当たり
砦を中継したバルバリスとの経路を
しっかり確保したいそうだ。
帰国はバリエア復興終了後に
望む者を受け入れる方針だって
ゴウが・・・まぁ王様だな
そう言ってたぜ。
今は口約束だがこっちが望むなら
正式に調印してイイと言っていた。」
ホラ、良い人だ。
「・・・でな、それに限らず
何かバルバリスと協定を結ぶ機会が
あった時についでに豪族・・・まぁ
うちで言う貴族みたいなモンだな。
その名誉豪族に兄貴を指定したいそうだ。」
「断る。ヨハンが受けろよ」
そういうのはイイから。
「即答だな。俺も兄貴の意志を
尊重してやりてぇんだが
これはそうもいかねぇぞ。」
「俺は何もしてないだろ。
身の危険を顧みず血や汗を流した代表は
ヨハンだろうに、お前を差し置いて
俺が受けるワケにはいかん。」
「そう言ってくれンのは嬉しいんだけどよ
・・・・これは口止めされていたんだが
知っておいてくれ実はな」
遠征中、魔族とドワーフで
大きく揉める事件があったそうだ。
俺は耳を疑った。
両種族ともよく知っている種族だ。
彼等が争うなど酔ったケンカぐらいしか想像が付かない
「嘘だろ」
俺はそう言ったが
パウルが真面目な顔で説明してきた。
「それが、死者が出てもおかしくない規模でして」
最初は言った言わないレベルの
よくある、争いとも呼べないレベルの
揉め事が発端だったが
両陣営とも仲介に入った者が
参戦する恰好になり
最後の方は種族の誇りをかけて
と真顔で激昂する一触即発の事態に発展した。
ヨハンの指揮で聖騎士が間に入り
ヨハンも沈静の魔法を行使したそうだ。
「バング相手にするより焦ったぜ」
思い出しているのだろう
ウンザリした表情でヨハンはそう漏らした。
どっちもぶっ殺すワケにはいかない。
どっちにも肩入れする訳にもいかない。
ヨハンはこういうの苦手そうだ。
俺はまだ信じられない。
「結局、原因は何だったんだ」
俺の作成した武器。
魔族はこれを貸したと主張し
ドワーフは譲り受けたと主張した。
言った言わないは決着が着かない。
発言の証拠など残らないからだ。
ドワーフより腕力で劣るハズの魔族が
バングをいとも簡単に槍で貫いていく
ただでさえ良く出来た工芸品であるのに
不思議な光を纏い驚異的な威力だ。
これが初めからあれば
国を追われる事も無かった。
ドワーフは
鉱石、金属に非常に興味を持つ種族だ。
欲望を刺激しないはずが無いのだ。
魔族にしてみれば
救世主から賜った武具
義に厚い彼等だ。
己が命より重たい物
平気でそう言いそうだ。
ここまで説明を聞いて
俺は考えを改めた。
それなら争いになり得る。
「で、どうやって解決したんだ。」
「してねぇ。奪還が最優先で誤魔化した。
そんな事情もあってな、今回の武器も
国が買い上げたいんだよ。」
迂闊に流通させるのは危険。
これはユークリッドが初期の頃から
懸念していた事だ。
「確かに俺、ストレガ、ハンスは
数年に渡ってネルドでバングを相手したが
進軍を食い止めるのが精いっぱいだった。
それを簡単にひっくり返したのは
兄貴の武器だ。後もう一つ・・・。」
ヨハンが俺の代わりに名誉豪族の称号を
受ける訳にはいかない理由。
「それを授ける事で兄貴と関係を構築したいんだろ
それも太いパイプをな、あの武器を自国で
なんとしても生産出来る様にしたいんだろうな。」
先が表向きの理由なら
今のは裏の本音だろう。
「今から生産者を魔導院の
誰かに押し付けるか。」
マリオは・・・もう可哀想か
お
マリーでいいや
あいつこういうの喜びそうだ。
「兄貴、そいつはもう無理だな。
俺には金属出来たチーズの模型にしか見えなかったが
そいつをこれ見よがしに首からぶら下げたギガが
もう兄貴をベタ褒めだったぜ。」
うわー、制作内部から裏切り者がー
って口止めはしてなかったか。
「アイツ、ドワーフの中じゃかなりの地位を
持ってるらしい。その兄貴が現地に居ない事も
相まって羨望の救世主化してるぜ。」
その張り合いでも魔族とひと悶着おきたそうだ。
何しに行ったんだ。




