第二百五十九話 今度こそ絆が救う
「なんでだよ。どうしてなんだよ。」
みっともなく滅茶苦茶に泣いた。
駄々をこねる孫をあやす様に
ケイシオンは一つ一つ
ババァルの事を聞いて来た。
横隔膜をヒックヒックさせながらも
俺はババァルとの事を話した。
「それは、人間界におらんちゅう事じゃろ」
人間界⇔消滅世界
魔界⇔消滅世界
天界⇔消滅世界
だそうだ。
そういえばそんな事言っていたっけな。
俺の元の世界の絆は無効というのも
元の人間界⇔人間界⇔消滅世界
となるからだ。
つまりこれは
ババァルはいずれの三界にいないということだ。
これはマジでバング側に拉致られているかも知れない。
バングの目的は魔力収集なら
あいつの魔力はさぞ魅力的だろう。
それか、俺の事を何とも思っていないかのどっちかだ。
ははは。
気を取り直して行こう。
俺は涙を拭いて立ち上がり。
再び右手を翳した。
誰にしようかな。
契約とか忠心とか言っていたな。
呪いもきっとありだ。
「ミカリン!!」
前降臨の時もそうだが
この刻と言う奴は良くも悪くも
俺を縛っている。
現れたのは糸なんてもんじゃ無かった。
ジャリッリンとか音を立て
黄金の鎖がアパートの天井を突き破って
見通せない先まで、真っ直ぐに伸びて行った。
もう俺
ギルガメッシュになったんじゃないかって
勘違いしそうだ。
喜べ雑種。
「やりおったわい」
ケイシオンも嬉しそうにそう言った。
強度も十分だそうだ。
この先が人間界に間違い無く繋がってる。
辿って登ればいいだけだそうだ。
「達者でな、アモン君」
お別れ言葉を言って来たケイシオン。
俺は言って見た。
「なぁコレならじいさんも一緒に来れないか」
消えて欲しくない。
単純にそう思ったのだ。
試しにガンガン引っ張ってみたが
頼もしい程頑丈だ。
俺だけで無く石板の一つでも
持っていけそうな気がしたのだ。
特別な事じゃない
誰だってそうするだろ
助けられるなら
助けたい。
「アモン君は優しい子じゃの
ありがたいがその鎖は君の絆じゃからの
ワシには掴めないのじゃ」
その辺はアクターリバーの蜘蛛の糸とは違うのね。
つか石板じゃ掴めないだろ
「うーん。俺が爺さん担いで
登ればいいんじゃないか」
「この糸にとって他人のワシの負荷は
君の非では無いがこれだけの鎖、可能かもしれんの」
という事で
ケイシオンには石板から
バックパック型にデザインを変更した
黒く四角く赤い01のデザインはそのままだ。
つかいいなコレ
売れば売れるんじゃねーか。
「部屋を解除すれば即落下が始まる。
まずは部屋内で安全をテストするんじゃ」
俺は同意し
ケイシオンを背負う。
ケイシオン自体の重さはほぼ無いと言っていい
空のバックッパックだ。
しかし、鎖だけにぶら下がろうとした時に
違和感が襲って来た。
キキンッキン
とか音を立てて鎖が悲鳴を上げた。
俺自身の辛さは無い
いくらでも登っていけそうだが
鎖がいつ切れるか分からない。
これは恐怖だ。
「はは、やはりのぉ。おいて行っておくれ」
背中でケイシオンがそう言った。
何だろうな
年よりは諦め早くていけない。
「他にも協力してもらおう」
俺は右手を天井に再び翳し
現地に居る人で俺に協力してくれそうな人の
名前を思いつく限り片っ端から叫んだ。
「アルコ!ダーク!ストレガ!ヨハン!ハンス!バイス!
ブリ・・・これは無し
グレア!クフィール!ぶっとばぞおのれ!
怒るでしかし!だがしかーし!」
「アモン君、文句を言いたい気持ちは
分かるが人名しか効果がないぞや」
人名なんだよ。
説明が面臭いので
俺は続けた。
「キャスタリア!マイザー!ギルバート!
クロード!ジゼル!プラプリ!プル!ボーシス!
ガウ!ゲア!ギガ!ギド!ルークス!
ガバガバ!チャッキー!ナリ君!ガガガ!
ビルジバイツ!オーベル!ナナイ!」
鎖がかき消え
その替わりに二本の金属
これはレールか
レールが伸びていく
背後から汽笛が聞こえた。
振り返ると黄金の機関車が
煙を吐きながらガッシャンガッシャン
音を立てて向かって来ていた。
「これは・・・驚いたぞい・・・。」
「おい、爺さん急いで部屋を駅に!」
薄っすら透ける床から
もうすぐ汽車は突っ込んできてしまう
マイホームでなく
駅のホームにしないと
部屋ごと轢かれて木っ端みじんだ。
俺のイメージを素早く投射し
部屋は駅のホームへと変わった。
なんで東武東上線に蒸気機関車が
と湧いて来る疑問を
慌てて打ち消す。
イメージに疑問を持つのは
ここでは命取りだろう。
ゆっくりと停車し扉が開く
俺が乗り込むと同時にケイシンは
駅のホームを解除し全てをバックパックに
詰め込んだ。
少し重くなったが辛くは無い。
今、万感の思いを込めて汽笛が
そんなに万感って程でも無いか
とにかく汽笛が響き扉は閉まった。
切れるとかそういうレベルでは無く
黄金の機関車はたくましく出発した。
鎖を掴むことが出来ない。
ケイシオンはそう言ったので
この汽車も同様なのだろう
そう思ったので俺はバックッパックを
そこいら辺に放る事はせず
背中から正面にまわして
椅子に座った。
「先に言っておかねばならんのだが」
ケイシオンはそう話を切り出した。
振動数ウンヌンの話だ。
神として本体のまま人間界に安定して存在出来ない。
俺の絆では人間界行きだ。
降臨でないので義体を準備できない。
やはり振動数の同調。
本体そのもののダウングレード化しかないそうだ。
「連れて帰っても神としての権能は無い
おそらくただの年寄りになるぞ。
アモン君にメリットはないぞや」
「損得とかじゃなくてさ
ここに居たら消えちまうんだろ
神とか詳しそうな知り合いいるから
戻ったらそいつと相談してみよう。」
汽笛が鳴った。
窓から進行方向を見て見れば
あの回廊が見える。
落っこちた時より
速く戻った気がする。
汽車速いんだな。




