第二十六話 稽古2
嫌々だったが
改めて考えてみると
これは絶好のチャンスだ。
殺される心配なく
全力を試せる
魔力が尽きてぶっ倒れても
ケアしてもらえるだろうし
急ぐ用事も無い。
格上に対する立ち回り
今までの実戦では
見つからない
見つかった場合は逃げる
だったのだ。
これらが叶わない状況でも
戦える引き出しがあるに
越した事は無いのだ。
嫌がるなんてとんでもない
是非お願いしたい。
剣VS魔法
決着の要素としては
これ以上分かりやすい
組み合わせは無いだろう。
剣士の踏み込みが先か
呪文の詠唱が先か
だ。
前衛はそうさせない為の足止めに
尽力するケースも多々ある。
「嬢ちゃん達は盾になってやるぜよ」
3対1での稽古を提案するクロード。
ミカリンもアルコもやる気満々だ。
二人ともキャスタリアの水筒から
水をガブ飲みをして
顎を拳で拭い前に出て来た。
やらいでか
そんなセリフが聞こえてきそうだ。
「あー、最初は1対1で」
クロードの提案を俺は制した。
「ん?まぁ何でもいいぜよ」
クロードは余裕だ。
ミカリンとアルコは
少しガッカリしているようだが
どうせ直ぐに出番になると予想しているのか
座り込む事はしなかった。
さて、作戦だが
無詠唱は今の所出来ないが
圧縮言語の高速化には
一応、成功している。
どうだハンス見たか。
今回の俺は一味違うぞ。
・・・弱い方でだけどな。
一応と表現したのは
威力とレベルが何段階か落ちるのだ。
ただ間に合わない完璧な呪文より
不出来でも機を捉えた呪文の方が
良いのは考えるまでも無い。
事
魔法戦闘に限って
拙速はむしろ好条件だ。
前出の3呪文以外に
レベル上昇のお陰で
追加された新呪文もある。
石壁
土壁の上位版
これが使えるなら、もう土壁の出番は無い。
全てに置いて石が上回っているのだ。
消費MPが土より多いが
微々たる差なので気にならない。
屈強な戦士なら
斧や大剣で一撃で粉砕してしまうだろうが
ブレスや矢なら頼りにして大丈夫な硬さだ。
投石
そこいら辺に転がってる石が
目標に飛んでいく。
致命傷は愚か、大したダメージも
期待出来ないが
うざい
かなりうざい。
一度、ミカリンに試したが
ガチ切れされた。
これらも駆使してやってみよう。
俺は作戦を練り終えると
クロードに準備完了を告げる。
事前のバフは有か無しかを聞く
「あー何でもOKぜよ」
バフが何だか絶対分かって
無いようなので説明すると
クロードは余裕のまま答えた。
「あー何でもOKぜよ」
馬鹿め
これで勝率が上がったぞ。
実戦ではこんな準備は
まず間に合わないが
お試しだ。
俺は遠慮無く
有用だと思われるバフを使用した。
高速詠唱の陣
肉体強化(弱)
体力継続回復(弱)
スピードアップ(弱)
などなどだ。
MPゲージを見ながら唱えた。
バフで使い切ってしまったら
勝負どころでは無くなる。
見た感じゲージが減る様子が無い
俺は唱えられるだけ唱えておいた。
「お待たせしました」
「ん何か光ってるぜよ!?」
掛けたバフの種類に応じて
異なる視覚効果があるようだ
唱えまくったせいで
もう俺も、どれがどれか分からん。
「こんなもんでいいか」
クロードは大袈裟に距離を取ってくれた。
助かる、これだけ間が空いていれば
確実に呪文が先だ。
クロードもそのつもりなのだろう。
「ありがとうございます。」
有難く初手を取らせてもらおう。
「じゃ行くぜよ!!」
クロードは素早いダッシュで前進してきた。
中年の割には足が速い
流石現役だ。
初手は高速詠唱の土壁だ。
突如、進行方向を遮る壁が出現した。
俺はクロードが認識出来る様に
あえて距離を少し開けて出現させる。
それが何だか判断したクロードは
足を止めず肩を当て
土壁を粉砕した。
「はっは。モロいぜよ」
土壁程度では突進の速度を落とす事も
出来なかった。
「二枚ならどうだー!!」
俺は再び土壁を発生させた。
クロードは笑いながら突っ込んで来る。
「変わらんぜよ!!」
勢いそのまま突っ込んでくれる様だ。
本当にクロードは手の掛からない子だ。
ありがとう。
俺は
土壁のすぐ後ろに
石壁
を発生させる。
これが二枚目の意味だ。
土壁を砕く音と連続して
石壁にぶち当たる衝撃音が聞こえた。
石壁に亀裂が走る。
大丈夫かクロード
全速力で壁にぶち当たったぞ。
まぁ
死にはしないし
仮に怪我だったとしても
打ち身程度だ。
ただ、咄嗟には動けないハズだ。
つか動いてくれるなよ
こいつは発動に時間が掛かるんだ。
俺は石壁の直ぐ向こう
見えないがクロードはそこに
必ずいる。
その場所にデスラーホールを発生させた。
「下品な男はいらん」
「っぜぇよぉおおぉぉぉ・・・」
落ちてくれた様だ。
戻りは5秒後
俺は今までの経験から
クロードの落下地点を予想し
そこにスパイクを発生させた。
ドン
クロードは宙に放り出された。
うまくスパイクの場所に
落ちてくれれば勝ち
外れたら
もうクロードを止められないだろう
俺の敗色が濃厚になる。
出来る事をしよう。
俺は高速詠唱で
土壁を乱立させる。
目隠しで使うので強度は
関係無い。
ドサッ
落下音は「グサッ」じゃない
チクショウ外れた。
音からして受け身も上手く取ったようだ。
流石G級だな。
どうする
ここまでしか考えていないぞ。
俺は土壁に寄り添い息を潜める。
「コラァア!!殺す気か!!」
怒った。
うーん
謝ろう。
俺は土壁から姿を現すと
声の方に歩み寄る。
クロードはスパイク群から
50cm程度離れた場所で
尻もちをついていた。
惜しかった・・・。
ここまでか
残念だ。
「次は串刺しにしてみせます」
悔しさいっぱいの声で俺は言った。
クロードは激おこのままだ。
「冗談じゃないぜよ!もうやらんが」




