第二百五十 話 黒い教会へ
馬車に乗り込み皆は出発した。
キャリアをストレージに収納した。
走り去る馬車から
鎧がずっとこっちを見ていた。
俺も鎧を見つめ手を振った。
「仲間が襲われた場合は俺が際限無く暴れる。
しかも、この姿でだ。」
俺はそう言って悪魔男爵に変化し
ちょこっとオーラを漏らして
釘を刺して置く
ベルタと首相は跪き
恐怖と歓喜の入り混じった
変な味をばら撒いた。
ん
首相まで歓喜してるぞ。
その疑問は直ぐに晴れた。
「おぉ我が魔王に栄光あれ」
首相のそんな呟きが聞こえた。
そうか悪魔教なんだっけな。
つか魔王じゃないんだが
別に訂正する必要は無いか。
「我らは忠実なる下僕
全ては魔王のお望みのままに」
ベルタも同じノリだ。
ん
望みのままって言ったよな。
じゃあ
もしかして俺のハーレム作れって言ったら
あれ
もしかしてグッドエンドじゃないか
それも二週目で
やった
ヒャッハー。
『・・・・(怒)!!!』
嘘だよ。
幻聴なんだから何か言えよな。
俺は冒険者ゼータ姿に戻って
咳払いをするとベルタに問うた。
「俺の下僕ってお前にはボスがいるんだろうに」
「ボスも含めて下僕でございます。
我らの悲願、魔王降臨。
ボスも同じ気持ちにございます。」
そうか
上位居ないんだっけな。
下級悪魔クラスの誰か
多少は知恵の回る奴が率いているのだろうか
まぁ会えば分かるだろう。
少し離れた所に首相達の馬車があった。
官僚御用達なのであろう
特別仕様の豪華な奴だ
悪魔男爵では乗り込めないので
予め冒険者ゼータになっておいた。
正解だった。
御者も含め数名、待機していたが
戦闘要員と呼べるような強者は居なかった。
ちょっと不用心じゃないか
そう思った俺はベルタに
そう咎めたのだが
「申し訳ありません。実は・・・。」
戦闘用の悪魔は昨日全滅したそうだ。
かわいそうに
そういえば結構地位の有りそうな
服装の奴もいたよな。
で
先ほど隠密系も全滅して
残っているのは探知系や生産系だそうだ。
生産系ってなんだ。
人族の戦士。
純粋なクリシア民の騎士や戦士は
居るにはいるのだが
教会の事情から教会内部には配置していない。
その理由も尋ねると
どうやら悪魔にすり替わっている事は
国民には秘密だそうで
機密保護の為に遠ざけているのだ。
「ああ、バリエアでもそうだったっけな」
俺は前降臨時のヨハン、チャッキー、ゲカイちゃんとの
日々を思い出した。
種族、職業からして
あれは奇跡のチームだったんじゃないだろうか。
しばらく走ると例の黒い教会のある街に
馬車は滑り込んでいく
この辺り人は多いが
繁華街の様な陽気な賑わいは微塵もなく
不気味な程に人々は静かだ。
それもそのはずで
街全体が薄っすらと恐怖が漂っていた。
女とみればナンパせずにいられない
クリシア男子がここでは別人だ。
窓から外の様子を見ていた俺に
ベルタが気持ち悪い笑顔で
話しかけて来た。
「気に入った供物があれば
ここで積んでいきますよ」
人間牧場
悪魔が生存する為に恐怖が必要だ。
それも知性や品性に優れた者の恐怖ほど
美味だ。
ましてや終わる事の無い拷問
初めから終わりまで
たっぷりと味わい尽くすフルコース。
この街の誰もが
いつ生簀から掬われるか分からないのだ。
全体を覆う恐怖の正体がこれだろう。
この街は魔王からのエネルギー供給の途絶えた
悪魔を生かす為に作られた
人間牧場なのだ。
そりゃ集まるワケだ。
ご機嫌を取るようなベルタの笑顔
ハッキリ言って不快だった。
そりゃもう
オカマがブリブリ踊った挙句
最後に「ドコ見てンのよーっ」とか叫ぶCMを
見た時並みに不快だった。
見たんじゃねぇ
目に入ったんだ。
「いや、特に要らん」
返事を待っている様だったので
ベルタにそう言って置いた。
程なくして黒い教会前に到着した。
一応警戒したのだが
聖属性は欠片も無い。
教会って言うと
どうしても気にしてしまう
悪魔の悲しい性だ。
ここはむしろ逆で快適だ。
・・・ミカリンなんか連れて来ていたら
もう、この時点で逆上してるだろうな
置いて来てよかった。
教会の装飾も悪趣味極まりない
髑髏抜きじゃ何も作れないのかって位
とにかく柱だろうが壁だろうが
髑髏、ドクロだ。
・・・頭頂部をくり抜いた花瓶は
ちょっと評価する。
普段は立ち入らないのであろう
首相のビクビクッっぷりが
哀れを通り越して笑える領域に入って来ていた。
特に庇護してやる気にならん。
事情は知らないが
お前が代表の国だろうが
すれ違う者が皆、恭しく頭を下げた。
なんか悪属性の僧侶って感じの衣装だ。
シスターのスリットは評価する。
ガータベルトを確認
これは来て良かった。
フヒヒ
「・・・あのイー様」
ベルタは相も変わらず
不快な笑顔だ。
その顔で静々申し出て来た。
「何だ。」
「出来ましたら、その先程の魔王の姿に
なっては頂けませんでしょうか。
ここにはもう悪魔しかおりません
卑しい人族の振りをしなくても大丈夫でございます」
人族は卑しい
これが悪魔の一般的な認識なのか
俺は首相をチラと見た。
俺の視線に気が付いたベルタは
慌てて追加した。
「下僕と贄用の人間は居ります。」
「こんな、おっさん食わんぞ」
「こいつは下僕でございます」
お
首相から
少しだが怒りの感情が漏れた。
いいぞ
これで喜ぶようならお終いだが
怒るなら
この国には
まだ見込みがある。
特にこいつらのご機嫌を取る必要は無いのだが
話をスムーズに進める為にも
ここは悪魔男爵の方がイイか
広いし天井も高い
俺は悪魔男爵になると
周囲からは感嘆の声が漏れ
先ほどすれ違った連中も
振り返り、慌てて跪いた。
首相の恐怖も漏れ漏れだ。
・・・さっきの怒りはどうした。
「ささ、こちらに御座います」
ベルタは一層、鼻高々になって
案内を再開し始めた。
お前、俺を手柄にしてんのか
まぁどうせ始末するから
特に今、怒らなくてもいいか。
「あっう」
恐怖に足がすくんでしまうのだろう
首相は何も無い場所だというのに
つまずいて転びそうになった。
俺はすかさず首相の背中に
手を添えて重力操作してやり
転倒を阻止した。
「はわああああ」
重力の枷から外れた
ジェットコースターの下り始めの時の様な
内臓が浮き上がる感触に
首相は変な声を上げていた。
俺はそのまま直立体勢まで戻してやる。
「だいぶ緊張しているようだが
首相を同席させる必要はあるのか」
ベルタは振り返り返事をした。
「こやつの申し出でございます。」
まぁ国を左右する事態だからなぁ
「そうか、じゃ気をしっかり持て
悪魔相手には
気持ちで負けるとお終いだ。
逆にそこを保ち続ければ
案外、平気なんだぞ。」
首相は驚いた表情で俺を見て
不快な感情を漏らしだした。
「あ、ありがとう。尽力する」
うーん
おっさんのときめいた顔は
絵的に宜しくないな。




