第二百四十八話 おはようダーク
クフィールはテーブルに突っ伏し
アリアは椅子の背にもたれ掛かり天を仰ぎ見る恰好。
最悪だったのはバイス君だ。
泡を吹きながら もんどりうって
椅子から転げ落ちて床に倒れた。
「だからオーラーを押さえろと」
「そうでござった。不覚」
夜に合流したダークは
そのまま俺の影に潜んでもらい
朝食後の会議に紹介がてら
参加させようと思っていた。
お茶も飲んだし
そろそろかなと思い出る様に言って
この騒ぎだ。
悪魔属性と神聖属性は
互いにカウンターだ。
圧倒的差があった場合
弱者の方にはヒドイダメージが入る。
すまんバイス。
ダークはこれでも13将だ。
攻撃するつもりの無い素の状態でも
普通の人間では目の前で意識を保つ事も出来ない。
弱っている者なら即死だってあるのだ。
ダークは申し訳なさそうにオーラを弱めた。
会話するに当たっては隠密スキルを
カットする必要がある。
認識できない相手では
会話以前の問題だからだ。
しかし、こういう弊害があった。
残った者で
気絶した人達の状態を確認する。
幸い3人とも気絶しているだけだった。
面子も面子だったので
取り合えず無理に覚醒は止めて
キャリアで横になってもらう。
「ん?リリアンは平気だったのか」
俺の言葉にナリ君も
反応しリリアンの様子を見た。
「平気・・・ではありませんでした。
意識を保つのがやっとで・・・。」
それでもやはり悪魔に耐性があるんだな。
他の魔族でも試して見たい所だ。
「お、お久振りですね。
ヨハン様の隠れ家で一度お会いしていますよね」
油汗が額に残るハンス君が
頑張ってダークにそう話しかけた。
「・・・おぉ!チャッキー殿でござるか」
「ハンスです。あんなのと一緒にしないで下さい」
あんなの呼ばわりだぞ。
どうするチャッキー君。
「お兄様、こちらの方は・・・一体」
お
ストレガが珍しく戦慄している。
ダークの強さを計りかねている様子だ。
「まぁ座ろうか」
キャリア外のテーブルセットまで戻り
各自着席すると俺はダークを紹介した。
「召喚者であるアモン殿の命令で動きます故
基本的に誰の味方でも御座らん。
そこはご理解頂きたいでござる。」
軽く頭を下げるダーク。
ストレガは首を傾げた。
「召喚?」
俺は追加で説明を入れた。
「モナの召喚陣、改善の余地は残っているが
取り合えずは成功って事だ。
必要魔力が膨大だから俺以外では不発だろう
如何に必要魔力を下げるか、今後は
そこに重点を置いた方がいい。」
「お兄様以外不可能という事は
成功というより例外ですね。」
ガックリしている様子のストレガ。
どうやらこの事実をモナに
どう伝えるかで悩んでいる様子だ。
「で、まぁ今まで色々と裏で
諜報活動をしてもらっていた訳なんだが」
俺はそう前置きをして
黒い教会内部でゲートが発見された事を説明した。
「クリシアの悪魔はそこから出て来たと?」
ハンスの疑問に俺は答えた。
「前回の生き残りも居るようだし
下級なら自力で現界も可能だ。
限ってというわけでもなさそうだ。
問題は下級以外がそのゲートを
通過出来そうと言う事だ。」
「上位の悪魔は何故出てこないのですか」
今度はナリ君だ。
続けて答える俺。
「それがな、繋がっている先が
どうも魔界じゃないっぽい」
「ドコなんですか?!」
「行って見ないとなんとも
そして帰れるかどうか確証が無い」
ストレガが椅子から立ち上がって叫んだ。
「私も一緒に行きます。もう離れ離れは嫌!」
俺はなだめてストレガを座らせた。
「この世界にやる事がある者は連れていけない。」
王の帰還で沸く魔族は
これから本格的な復興をしなきゃならん。
9大司教は考えるまでも無い
まだまだ頑張ってもらわねばならない。
将来のある若い者も当然だ。
「なので行くのは俺とダークだけだ」
再び椅子から立ち上がろうとする
ストレガを押さえて追加して続ける。
「まず、黒い教会で誰か捕まえて
どこに繋がっているのか聞き出してからだけどな
無限ゴミ捨て場だったら当然行かない。」
「行き来しているならば方法も聞くでござる。
それに万が一の場合でも
拙者は召喚された身
再び召喚してもらえば良いでござる故
いざとなればこの身を犠牲して
アモン殿だけでも生還して頂く所存でござる」
妙に優しい感じでストレガの説得をするダーク。
何だ?
まぁいいけど
ストレガはそれでも納得しない様子だ。
「それに悪魔専用のゲート故
どうせ我らしか行けないでござる。」
何となくだが
これはストレガの説得の為に
ダークがその場で思いついた嘘だと俺は思った。
「そういう事は先に言って欲しいモノです」
ナリ君が憤慨した。
ストレガと違って黙って強引に
ついて来るつもりだったのかも知れない。
ハラハラした目でナリ君を見つめる
リリアンの瞳に安堵の光が宿った。
ハンスが流れを戻して来た。
「そうなると、昨日は誘いに乗るべきでしたね
ボスとやらならばゲートの事も知っていたでしょうし」
それにはストレガが反論した。
「あの時点ではゲートの存在を知らなかったのですから
仕方がありません」
「間引いても問題無い連中だ。ボスとやらが
まだ無事なのだから手遅れでは無い」
ナリ君も同調していたが
俺が少し慌てる。
「え?ボスなんているのか」
俺の言葉に素早い突っ込みをして来る3人。
「いの一番に言っていましたよ」
「お兄様が光線で焼き払った方が言ってました」
「マスターは初めから相手の言う事を
聞く気が無かったのでしょう」
突撃組3人とも記憶が良いなぁ。
「上位悪魔は居ないでござるよ」
「下位の中でそういう役割の奴がいるんだろ」
ダークは階位を確認したが
組織の役割までは調べていないのだろう。
これも俺の命令の不備だ。
俺はそう言ってから続けた。
「ボスとやらに会いに行くか
その障害になる悪魔は問答無用で殲滅だ。
どうせフリューラは潰す。」
ハンスが割って入って来た。
「同行は難しいですね。バイス君は
耐えられないでしょうし、私も
攻撃態勢が取れないかと」
ネルエッダ起動時の銀色の輝き
確かにアレはダークも嫌だろう。
「ダークは俺の影に入って隠密してろ」
「はっ」
そう言って素早く俺の影の中に消えるダーク
って、いや今じゃないんだけど
・・・まぁいいか。
「凄いですね。プレッシャーも完全に消えてます」
目を見開いて驚くハンス
珍しく糸目じゃ無くなっている。
これは本当にビックリした時の特徴だ。
「ぬぅ、本当に分からぬ・・・これが隠密か」
ナリ君は焦っている。
もしダークが敵で戦うとなったらなどと
想定しているのであろう。
これだけ近くに居ても感知出来ない。
これは恐怖だ。
「さて突入の作戦なんだが・・・。」
ここで、またしても広域完全膝カックン耐性が反応した。
奇しくも昨日と同じ時間だ。
いや
規則正しい連中なのか。
「敵襲だな。」
「ほう、今度は何百人ですかマスター」
「懲りない人達ですね。」
ナリ君とハンスは慌てる様子も無い。
ストレガは慌てて鎧の方へ走っていった。
別に着なくても良いのだが
初めにそう決めちゃったからなぁ
俺は反応を調べて少し驚いた。
ありのまま伝える。
「2人だ。しかも一人は人間だぞ」




