第二百三十九話 再会のメロめろ
馬車を走らせる事、数日
俺達はクリシアの首都に入った。
ハンスもバイスもクリシア語が堪能で
俺を含めたこの三人が行く先々での
交渉役になった。
俺はともかく司教二人は
外面の良さも相まって
何かと都合良く面倒を見てもらえる待遇になった。
交渉能力と言うものの有用性を
新たに考え直す機会になった。
この話をナリ君にすると
同様に感じていた様で
「我には無理ですが」と前置きして
魔族のこういう部門の人選を
真剣に考えるべきだと言っていた。
仏頂面の自覚があるようだ。
ハンスと並んで御者席に座り
馬車を走らせていた。
流石に首都と言うだけあって
町の規模が一番デカい
中でも目についたのが真っ黒な・・・
なんだアレ、闇落ちした教会っぽいぞ。
ハンスに聞いて見ると
「バルバリスと完全に相いれない理由がアレです。」
と言いづらそうに教えてくれた。
公に制定しているワケではないのだが
クリシアの宗教は悪魔教と言われている。
教会の調べでは
勢力を拡大し始めたのは前降臨頃で
バリエア崩壊で一気に流行ったらしい。
教会を受け入れるが首都には置かない
悪魔教の教会は首都のみ
ズルとも言えるギリギリのライン
バランスで戦争を食い止めている恰好だ。
「出来れば秘密裡に破壊してきてくれと言われましたよ。」
ハンスの表情に嫌悪感は見て取れないが
教会内での悪魔教の扱いは聞くまでも無いだろう
ハンスに半分本気でこんな事を大っぴらに言うぐらいだ。
「やろうか」
あの規模の建物なら中心部直上から
悪魔光線数秒照射すれば消せそうだ。
俺はハンスにそう申し出たが
ハンスは笑って遠慮した。
「あはは、一応真面目に返事いたしますと
私は反対です。クリシアの人々には
比較の上で我々を選んで欲しいです。」
地道で不屈の布教活動。
入り口の町の教会は
その取っ掛かりなのだな。
「それに一応はアモンさん達を
称える支援者では無いのですか・・・。」
「いや、全く有難くない。」
悪魔にとって人から欲しいモノは
1に魂、2に恐怖のエネルギーだ。
褒め称えて喜びに浸っている人間など
むしろ不味い感情をまき散らして寄って来る
不快な存在だ。
純粋な悪魔でない俺の感想だが
これはダークに聞いても多分同じ返答だろう
冷たい目で「何の価値もないでござる」とか言いそうだ。
目的の場所に近づくにつれ
町の様相は次第に変化していった。
人影が少なくなっていき
建物も損壊したものが目立ち始めた。
到着する頃には
すっかりゴーストタウンと呼べる状態だ。
「本当にここに居るのですか」
あまりの気配の無さに
ハンスもそう疑った程だ。
人の営み
それが全く感じられないのだ。
「ハンス、バイス、ナリ君は俺と来てくれ
残りは馬車で待機、ストレガ、万が一の時は頼むぞ。
まぁ何かあれば直ぐ戻って来るけどな。」
一同同意した。
リリアンとクフィールはいざという時の為
装備の状態を確認していた。
突入組は屋敷・・・廃屋にしか見えないが
その門の前に並んだ。
「どうですか」
俺がデビルアイで走査しているのを
察したハンスが適当な所で聞いて来た。
「居る・・・なぁ、2人迎撃に動いたな」
これだけ静かだ。
馬車が屋敷の前で停車した事を
中の人間は勘付いたのは間違いない。
正面玄関から伸びる廊下
十時の場所に左右に展開して待機していた。
迎え討つ気か
俺達が何もせず帰る事を期待しているのかも知れない。
門は壊れていて施錠されたままだが
根元の蝶番が完全に柱から取れてしまっていた。
その隙間から侵入すると
堂々と歩いて玄関に向かう。
残りの三人も俺に続いた。
ここで待ち伏せしている左側の人間に
ミスリルの反応がある事に気が付いた。
アリアだ。
彼女に渡したネックレスだと判断した。
殺されて奪われた可能性も無くは無いが
体格から判定しても
アリアである事は間違いなさそうだ。
そうなると
俺は右側で待機している者に
集中して走査した。
間違いなくラテラだ。
変装する為に体格のデータは
細かい値まで収集してある。
こっちも間違いない。
「戦闘にはならないと思うが
身を守る事は怠らないでくれ」
俺はそう言うとずんずん進んで行った。
「ア・・・イーさん罠とかは」
バイスがヒソヒソの大声という
妙な特技で後ろから警戒を促して来た。
「無い、連中は隠れている。
罠なんて外に張れば、ここに居ますと
宣伝するようなものだ。・・・あっ!!」
そう言ったソバから
俺は足に何かを引っ掛けた。
細い金属線、ワナのワイヤーのようだ。
「ホラァアアア!!」
「・・・マスター。」
「大丈夫ですよね」
地団駄を踏むバイス、呆れるナリ君、余裕のハンス。
反応は分かれたな。
急いでワイヤーの繋がった先を
デビルアイで辿って行くと
建物の奥の部屋でベルを揺らす作りだった。
「呼び鈴だよ。こ声を掛ける手間が省けるってもんだ。」
努めて冷静に言う俺だが
背中に刺さる冷たい視線が痛い。
俺は素早く玄関まで移動
その間も罠に注意した。
「俺だーっ三半機関のイーだ!
隠れているのは分かっているぞ」
玄関を開けデカい声を張り上げた。
もう速く次のフェイズに移行したくて
しょうがなかったのだ。
漏れていた美味しい緊張と恐怖が
不味い安堵に一瞬で変わったかと思うと
二人は身を潜めるのを止めて
玄関まで出て来た。
「・・・イーさん。」
屋敷の奥は薄暗く
肉眼で詳細は見えない。
開いた玄関から入る光で
周辺は見える。
そこまで出てきたアリアとラテラの
姿を見て俺は驚愕した。
二人とも重症患者だ。
戦闘なのか事故なのか
原因は分からないが外傷だらけ
包帯を巻いていない面積の方が少ないと言った有様だ。
ラテラは俺を確認すると懇願してきた。
「イーさん、お願いです。
僕の治療は無しで構いません
僕の代わりにボスとリカルドに
治療してください。」
電池じゃ無いだから
そんな風にはいかないだろ。
「ダメよ。ラテラ!何の為にボスが
・・・お願い直ぐに逃げて!」
ラテラを嗜めるとアリアは俺にそう言って来た。
ああ、何てことだ
キレイな顔だったのに
包帯の下に沸いた虫を確認した時点で
俺はデビルアイを切った。
見てられん。
この二人が迎撃に出て来た。
奥の二人はもっとヒドイ有様だというのか
「ア・・・イーさん、治療しても宜しいですよね。」
ハンスがすかさず名乗り出てくれた。
ダメと言っても「分かりましたでは勝手に」と
強行する気満々だ。
頼もしい。
「頼む!」
この姿では回復呪文が使えない。
俺はそう言って頭を下げた。
「バイス君、君は女の子の方を」
「分かりました」
魔法で状態を診断したハンスは
より重症な方を自分が
軽傷な方にバイスを担当させ
直ぐに治療に入ってくれた。
俺は少し距離を開けた
あまり近いとダメージが入ってしまう。
「どうやら、逃げたのはマスターからでは
無い様子ですね。」
ナリ君が横に来てそう言った。
俺はデビルアイで見た状況を説明した。
「奥にもっと重傷者がいる
彼等の治療が終了してから
話を伺うとしようか・・・ん?」
ナリ君が宝剣に手を掛け
俺のセリフを遮って言って来た。
完全膝カックン耐性を持っていないというのに
大したモノだ。
「どうやら我々には我々のすべき事が
出来てしまったようです。」
敵襲だ。




