第二百三十八話 クリシア半島
「おはようございます。お兄様」
2mの鎧の巨人に起こされた。
ストレガは夜のうちに鎧にすっかり慣れ
本当に2mの巨人が装着して動いているのかと
思う程、自然な動作だ。
これなら中身が150cmの女子だとは
誰も思うまい。
ただ武器に関しては
延長腕の触感のフィードバックが皆無な事も相まって
持たない方が良さそうだ。
ほぼ全ての手で持つ道具に関して
適切な向き角度がある。
これがどうも上手くいかない。
クフィール装備を試しに着てみたナリ君も
この事と、後、反応の遅れ
本体の指を動かしてから延長腕が追随するまでの
どうしても発生するラグタイムに辟易していた。
「ある程度、腕に覚えのあるものなら
着ない方が強いでしょう。」
自動防御に関しても不評だった。
熟練の武術家はワザと隙を作り
相手を誘導したりするが
そういう判断が出来ないので
余計な事、邪魔になる事が多いそうだ。
ただ、武術を身に着けていない者の
保護・防御という一点においては
これ以上の物は無いだろうとの評価だ。
鎧姿のまま器用に朝食の準備を進めていくストレガ。
実に器用だと皆言ったが
キャリア内の家具にあちこち擦り傷が増えている事と
夜中、タマに聞こえた転倒音や激突音から
訓練の賜物である事を俺は知っていた。
ストレガは本当に真面目な努力家だ。
天気も良いのでキャリアの外で
朝食を頂く事にした
昨日から出しっぱなしの椅子やテーブルも
そのままだったのだ。
「あ、ピッタリ・・・です。」
リリアン用装備を装着してあげると
リリアンはそう言って驚いていた。
「そうかーそれは良かったー。」
サイズがピッタリ
この話題から早く離脱すべく
俺は早口で操作方法の説明に移った。
食事が終わり
お茶タイムになった所で
俺は冒険者ゼータにチェンジして
話し出した。
「そんなわけでクリシアでは皆素性を隠す
偽名を使用してもらう。ちなみに俺は
この恰好で通す。名前はイーだ。」
アリア達にはこれで通しているので
このままイーで行く方が相手も理解しやすいだろう。
皆、適当に考えろと言ったのだが
俺が決めろと返された。
そうだなー
まずストレガだが
「ストレガは俺の弟設定で名前はアルだ。」
2mフルアーマーから聞こえる萌声
こうなったら、この名前しかないだろう。
「わた・・・僕はアル。」
上手だな。
元から声質が似てるせいで
再現度高いわ
独り悦に入る俺。
誰も分かってはくれないが
構うもんか。
火傷跡が醜いという理由で
鎧も兜も脱がない設定で行く事にした。
「マスター。我は」
イー、アルと来たからな。
「ナリ君はサン。リリアンはスーね。」
頷く二人は復唱した。
「我はサン。」
「リリアン・・・スーです。」
何故だろう黒いビスケットが食いたくなって来た。
「じゃそう言う事で。」
俺がそう言うとクフィールが即突っ込んで来た。
「おーい!」
「なんだよ、うるせぇな。」
「あたしにも偽名つけて欲しいっす」
「好きなの適当に名乗れよ。」
おや
何か悲しそうな顔だ。
皆からも可哀想だとクレームが入った。
しょうがねぇなもう
「リオンだ。」
「なんかあたしだけ違う気がするっす」
俺の元の世界の知識など無いハズなのに
勘のイイやつだな。
でも偽名自体は気に入ったようで
喜んではいた。
嬉しいのかこんな事が
よく分からん。
皆、三半機関のメンバーで
俺の部下と言う設定で決まった。
さぁ人里に入るぞ。
「どこに向かうのか当てはあるのですか。」
俺はMAPを開いてダークの位置を確認した。
「ああ、任せろ。」
前回、確認した時から動いた様子が無い。
ここが連中の根城で間違いないだろう。
取り合えずハンス達と合流する為に
教会のある町まで移動した。
目立ちたく無かったが
歩くのもかったるい
人通りも少ない事から
近くまではキャリアで移動した。
幸いすれ違う事も無く
近隣まで来た所で徒歩に切り替えた。
町の印象はなんかお洒落だ。
アチコチに銅像が立っていたり
ただの柵も凝ったデザインだったり
異国情緒満載だ。
人々は明るく陽気・・・過ぎる。
女性と見れば口説かなければ
失礼に当たるという常識なのだろうか
単独で居れば間違いなく
時には隣に野郎が立っていても
ナンパしてくる始末だ。
「男性、全員バイスみたいっす」
初めはモテモテに浮かれた気分になったクフィールも
流石に辟易し始めていた。
魔族二人に至ってはイライラMAX
「不埒な・・・。」と二人して同じ文句を言っていた。
「この偽装・・・最高です。お兄様」
2mの鎧巨人になっていたストレガちゃんは
この被害から一人免れ感謝してきた。
「お前が他の男に口説かれる姿を見たくなかった。」
と、適当な出まかせを言ったら
キャーキャー言って踊り出した。
2m鎧が女の子仕草で踊る姿は
ハッキリ言って異様だった。
そう言えばクリシアは半島だったな・・・。
個人的見解
異論ももちろん認めるし
反論もあるだろう。
しかし、27年生きて来た俺が出した結論
偏見と言われても仕方が無いが
半島の人間は色々残念だ。
ノリは良いがアッパラパーだ。
元の世界で言えばイタリア・韓国・千葉県民だ。
この自論を展開した時
運悪く千葉県民の人が居て「何で」と聞かれ
社外マフラー装着率、全国一位の県
と答えたら「あ、確かに」と刀を収めてくれた。
何だろう島国根性と言う言葉があるが
半島根性・・・根性って感じじゃないな
半島気質とでも言うべきか
俺は有ると思っていた。
特に社外マフラーに関しては理解出来ない。
うるさくないの?
回りとしてはスッゲー迷惑なんですけど
車はまだしもバイク
信じられないくらい五月蠅いのがタマにいるよね。
珍走団のバイクでも無いのに
で
速いのかって言うとそうでもなく
いつまでもその辺でバビビビビビ
って早くどっか行けよ。
何故
何故、壊れたワケでも無いのに純正を外して
お金を掛けてうるさく改造するの
快適になるなら分かるが逆だろ
うるさいんだから
静かな方がいいだろ。
各段に燃費が上がるワケでも無く
パワー?
サーキットの中だけにしてくれよ。
とにかく
ここクリシアに入って見て
俺は自論をより強固なモノに固めた。
昼も過ぎていたので
適当な店に入って注文した。
その時口から出た言語は耳慣れない言葉だった。
「マスター。クリシア語も出来るのですね」
ナリ君が驚いているが
俺も驚いているんだ。
なんかクフィールもリリアンも
意外だった様で信じられないという顔だ。
ちょっと傷つく
そんなにバカっぽいか俺は
改めて旅をした実感に浸る。
やはりここは外国だ。
「ス・・・アルは来た事あるんだよな
クリシア語は出来るのか。」
「殺さないで、止めてくれ、ぐらいしか
分かりません。問答無用で会話はしなっかったので」
聞くんじゃ無かった。
飯はどうも美味かったらしい
冒険者ゼータ姿なので味わえなくて残念だった。
次からは店に入ったらトイレでチンチクリンに
戻ってから食事にしようと決めた。
MAPの範囲を広げると反応が出た。
ハンスもバイスも無事に教会入り出来たようだ。
食事の後は教会の前辺りでブラブラしていると
一般市民に変装した二人が教会から出て来た。
「ここから先の出来事に教会は無関係です。」
ハンスは笑顔でそう言った。
なんか二人ともこう見ると普通だ。
神々しさが全く感じられない。
制服の威力の凄さだな。
俺はストレガの外観を含めた
俺達の偽名の説明をすると
馬車をレンタルして
ダークの反応の有る場所に向けて出発した。
大体の場所を説明するとハンスは言った。
「首都。マフィアの本拠地ですね」
ほう「メロめろ」の連中も隅に置けないじゃないか。




