第二百三十四話 ネルエッダバイス
「ふむ、成程。マフィアの
それも出来るだけ首脳部を操つるおつもりですね。」
顎に手を当て感心して言うハンス。
「何か、そう言うとすげぇ俺が悪人っぽいけど」
何か周りの視線が冷たいが気のせいだ。
俺は続けた。
「ハンス君、教会側には悪いが・・・。」
俺は現状、マフィアが裏から行っている政治活動を
説明し、それが悪とは思えない事を説明した。
「そこは私も同意します。強引に武力で排除し
その後、教会が血まみれの手で流布を試みても
市民の賛同が得られると思いません。」
ハンス君は反対するどころか
俺に同意した。
おっ「武」って言うから
勝ち負けでしか考えないかと思っていたが
これは意外と言ったら失礼かな。
「正解だ。そんな手段を取れば市民がゲリラを
組織し抵抗、終わりの見えない内戦になっただろう。」
ナリ君がそう言った。
少なくとも魔族なら
最後の一人になるまで戦いを止めない
そんな覚悟が見えた。
「ただ麻薬や売春は・・・・。」
ブットバスが厳しい表情でそう言った。
俺は被せる様に言う。
「潰しても、マフィア以外のならず者が
代わりを取るだけで、無くならないだろうな。
ただヒタイングやベレンを蝕む攻撃レベルに
なりそうなら、その時は聖騎士を派遣して
良いんじゃないか。」
ハンスが答えた。
「その情報が手に入るのであれば
とても有難い事ですね。
クリシアに関してはパウルさんですら
手を焼いていましたから。」
「上手く行けばの話だからな
俺が死体で上がる可能性だってある。」
「「「無い」」」
みんな息ピッタリだね。
その後、明日からの行動の話になった。
明日は朝からオコルデとブットバスは城に戻る。
足はヒタイング教会が馬車を手配する事になった。
戻った二人は教会のお祝いの式典
その日取りやら準備に入ってもらう。
夜も更けて来たので
スィートはそこでお開き
陛下には休んで頂くことになった。
そして続きは男子部屋だ。
「さて本来の目的の話だが、まぁさっき
実際に戦って見当はついていると思うが・・・。」
俺はハンスにそう切り出した。
元々のバイスに課せられた任務
ヒタイングに現れた1型と思しき者の調査だ。
俺は0型の可能性まで話した。
「バングが勇者を狙う・・・ですか」
ハンスが復唱し
俺はそれに続けた。
「ああ、これはもう間違いない。」
ハンスの槍の輝きを見た
1型連中のリアクション。
あいつらは勇者の力を知っているのだ。
「だから、これからハンス君狙われる
可能性が高いぞ。」
「聖壁とネルエッダがある限り
まず、負けませんよ。」
自信満々だ。
しかし悔しいが強くは言えないな。
実際に俺達よりも洗練された対応だった。
「ハンスさんは、あの時空のゆがみを
どうやって感知してるんすか
後、その槍・・・一体どうなってるんすか」
珍しいハズの時空系。
クフィールより更に上の感知能力を持った者が
ポンポン身近にいるものなのか。
そう疑問に思った俺だが
ハンスは意外な返答をした。
「時空・・・系ですか。そんな
難しそうな魔法は使えませんよ。
私はただ・・・。」
ハンスの種明かしは「風」だった。
自己の周囲の流れる空気を
魔法でモニターしているそうだ。
「明らかに不自然な箇所に
槍を突っ込んでいるだけです。」
奴らが現れる場所は
連続した空間が途切れる為
大気の流れもそこで不自然に
切れてしまうそうだ。
成程
匂いに置き換えて考えれば
仮に1型が焼き肉屋から介入すれば
いきなり焼肉の匂いが漂って来る場所が発生しする
そりゃ気づくワナ、そして
そこから必ず出て来るという寸法だ。
これはアルコなら匂いで対応出来そうだ。
帰ったら教えて置こう。
目から鱗だ。
時空系に拘らなくても
方法は他にもあったのだ。
「後、この槍でしたね。
この槍の秘密は・・・。」
ゴクリと鍔を飲み込み注目するクフィール。
ハンスが1型を刺した時にクフィールは反応した。
空間を穿つのを体感しているのだ。
ナリ君も真剣な様子でハンスの言葉を待っていた。
彼の伝家の宝剣「訪雷剣」ですら空間をどうこうは出来ない。
それを一部とは言え凌駕する能力だ。
武人としても気になるのトコロだろう。
ストレガはネルドで共同戦線を張っていたので
周知の様子、あんまり興味はなさそうだ。
「私も知らないんです。ただスゴイとしか」
コケるクフィール
宝剣に手を掛けるナリ君は叫んだ。
「やっぱりコイツぶった切っていいですか」
俺はナリ君を手で制止てハンスに言った。
「あれ?言って無かったっけか、その槍はなぁ」
勇者の家系、ガバガバの実妹エッダちゃんが
使っていた槍の劣化コピーだ。
俺がそう言うと
「はい、それは知っています。」
今度は俺がコケた。
すかさず半魔化して感謝祭を生成した。
慌てるハンス。
「いえ、どういう仕組みで強力なのかは
全く知らないと言う意味で、その」
すごい
笑顔のままキョドってる。
そうか理屈は説明していなかったか。
俺は理屈を説明するのと
元になったエッダの槍は
12柱・鍛冶の神ハルバイストの作品だと
推測される事も話した。
オリジナルはリソース無しで凶悪な聖属性を
誇っていたのだ。
そしてその機関部が解析出来なかった。
多分、今でも無理っぽい
流石は12柱と言った所だ。
「では・・・神器だと?!」
改めて驚いているハンス。
その言い方だとヴィータの黄金のじょうろを
思い出してしまうな。
「神・・・器・・・」
持ち主より驚いているバイス君。
「いや、だからそれの劣化コピーだって」
俺は手を振りながら否定した。
あんまりボルテージ上げないでね。
そんな大した・・・モノなのか
「ハンスさん!持ち歩いてイイんですか?!
教会の最奥に保管すべき武器では?」
バイスが怒った様に責めた。
ハンスもバツが悪そうだ。
「ですね、知ら無かったのですよ。
はは、ネルドでも投げたりしちゃったよ」
「投げたぁ?聖遺物級を投ぁげたぁ?!」
落ち着けハンス
言葉遣いがバグってるぞ。
今いっぱい作ってやろうかと思ったが
設計図が残って無い
つか、あの頃は全部ワンオフで
大量生産しなかったんだ。
「ちょっと貸せ」
そう言ってハンスから槍を奪い取ると
デビルアイで走査して
ちょっと驚く
すんごい良く出来ている
スゲェな前回の俺。
ここまでする必要は無いだろう。
機能を出来るだけ落とさずに
余計なレリーフなどを省いた
量産に特化したバージョンで登録して
生成した。
「ホレ、ネルエッダバイスだ。」
元のをハンスに返し
出来上がった量産品をバイスに渡した。
受け取ったバイスはワナワナ震えていた。
「そんな・・・使えませんよ。」
「じゃ死ぬか?ハンスは使ったから
生きているんだぞ。」
道具は使ってナンボだ。




