第二百三十二話 ハンス無双
俺が命名した瞬間に
ネルエッダは輝きを明らかに増した。
「行きますよ。ネルエッダ」
ネルエッダの光を見た1型達に動揺が走った。
正面の1型はすぐさま後退し
波紋の中に戻って行く
遅れてハンスの突きが飛ぶが
どうみても遅い
完全に逃げられるタイミングだ。
呆れる俺だが
その後、衝撃の展開になった。
「ひっ・・・なんすかあの槍」
ハンスの突きに合わせて
クフィールがそう言った。
振り返ろうとしたが
それよりも目の前で信じられない
出来事が起こってしまった。
綺麗に規則的に動いていた波紋が
乱れ、引き裂かれ
ネルエッダに串刺しにされた1型が
破れた空間から零れ出て来たのだ。
ああ
ガバガバもよく
空間ごと切り裂いていたっけなぁ
ハンスが手首を捻ると同時に
1型は風車のように
その動きに連動して回転した。
適当なタイミングで横に薙ぎ払うと
1型は四肢を分断され
ダルマ状態で地に転がった。
薙ぎ払う勢いそのまま
ハンスは半身を捻ると
何も無い場所に向かって突きを放とうと
振りかぶった。
「あ、ドンピシャっす」
クフィールの呟きに合わせて
突き出された槍の先端は
同時に発生した波紋の中心を貫き
一体目と同様に胴体を貫通された
二体目が空間から零れ落ちた。
後の処理も同様だ。
「・・・・残りは逃げたっぽいっす。」
クフィールが呟く。
だろうな
知能があればここは撤退一択だ。
大勝利だというのに
ハンスは浮かない表情だ。
「あの頃にこの力があれば
もっと役に立てたのに
いつまでもこの後悔が消えません。
バイス君、精進してください。
有事はあなたを成長を待ってはくれませんよ。」
「はい。ハンスさん!」
もうバイス君メロメロだ。
「ハンス君。ゴメン槍しまって」
俺はそう言って
ハンスが槍の効果を終了させたのを
確認してからデビルアイを発動させた。
精度を上げた状態であの光を見れば
目がムスカになってしまう可能性が高い。
あの凶悪な聖属性は悪魔には効果抜群なのだ。
ストレガも感じたのか
本能的に避けたのか
ハンスから距離を取っていた。
後で聞いたのだが
周知だったそうで
ネルドでもハンスが出た時は
ストレガは地上に下りなかったそうだ。
俺はハンスに死体から離れるように言った。
ハンスは素直に指示に従ってくれた。
俺はデビルアイで倒れた1型を走査するが
この状態でもノイズが走るだけだった。
動く様子は無い
仮面が他の宿主に移動する
その隙を伺ってじっとしているのだと
思ったのだが
二体ともその気配は無く
やがてノイズが薄まると同時に
黒いボディは変色し下級悪魔のソレに変わると
瞬時に砂化してしまった。
一瞬しか見れなかったが
やはり魔核はどちらにも無かった。
砂の山に仮面だけが残った。
「駄目だ。分からないや」
死んだ振りかもしれない
俺は警戒を解かずに慎重に仮面に近づき
拾い上げた。
「お兄様!危険では」
「いや、多分コレ完全に死んだ。」
俺は振り返り皆に仮面を見せた。
「ぬっ模様が?」
ナリ君が驚いてそう言った。
そう、あの仮面に走る赤い模様が
完全に消え失せ
2~4型と同様でサイズが
小さいだけの仮面になっていたのだ。
「こちらのも同じですね」
槍をしまったハンスは
もう一体の方に近づき
仮面を拾い上げてそう言った。
「そいつはハンス君が持っていけ
こっちは俺が調べる。」
多分、俺の方は何も分からないだろう。
2~4型と同じだと思っていた。
今のハンス君の様に
教会に俺の知らない新兵器でもある事に
期待するが2~4型の報告書から見ても
そちらも期待薄だろう。
「分かりました。」
ナリ君が俺の傍まで来て
耳打ちをして来た。
「いつぞやの会議ではここまで出来る男とは
思っていませんでした。マスターはご存じだったのか」
先程の戦闘振りを思い出しているのだろう
スマートで洗練されていた。
一体相手に色々ぶっ壊して勝利した
俺達よりも明らかに格上の戦闘だ。
「ああ、昼行燈な奴だからなぁ」
俺が知っているハンスは14年前のハンスだ。
戦力的にはあの時とは別人と調べ直すべきだ。
歳月と9大司教の責務が
ハンスを鍛え上げていたのだ。
俺はそうナリ君に説明した。
「で、何でハンス君がいるんだ」
そもそもの疑問をぶつけた。
「バイスから聞いていませんか。
旧ヒタイング王家との折衝で
9大司教が派遣される事になりまして」
そうかハンス君も9大司教だもんな。
でも速すぎる。
「俺の見立てでは2~3日後だと思っていたのだが」
「ああ、急ぐ方が良いと思いまして
馬車では無く単騎で早馬で来たんですよ。」
それなら日数が合うが
「他には?まさか身ひとつで」
「私だけです。後はヒタイングの教会に
協力してもらうので荷物も殆どないです。」
予想外だった。
もっと速くオコルデを移動させるべきだった。
どうするかな
ハンスがヒタイングの教会に行っている間に
アモン2000で飛ばして先回りするか
俺がそう企んでいると
ハンスが続けて来た。
「で、宿はどちらに
陛下はそちらですか。」
しまったと思いつつも
俺はバイスを睨んでしまった。
バイスは高速で首を横に振る。
どう誤魔化したかは知らないが
オコルデがここに居る事は
言っていないようだ。
「え?陛下って、え?」
ナリ君が頭痛をガマンするかのような
仕草で自分の足元を見た。
何だよ
そんなに下手な演技か。
「アモンさんの事ですから
どうせ連れて歩いているのでしょう。」
くそう
置手紙といい
読んでくれるじゃないか
「冒険とか、危ない目には遭わせていない
あくまでもお忍び市内観光ついでにだなぁ」
俺の返事をニッコリと笑って返すハンス。
「はい、分かっていますよ。」
俺達はハンスとバイスを連れ
宿へと戻った。




