第二百三十一話 聖槍・ネルエッダ
「そう言えば師匠さっき
でっかい悪魔に変身してたっすね」
一通り打合せが終わり
腹を満たす食事タイムに突入していた。
雑談もしながらだ。
クフィールが俺にそう言って来た。
「ああ、魔神モードだ。戦闘では
アレが俺の最強魔法だな。」
俺の状態変化や装備変更など
個別で違う現象なのだが
一々説明するのも面倒だし
理解してもらう意味も少ないので
全部、魔法で通す事にしていた。
「アレは素晴らしいですね。
我がマスターに相応しい姿です」
アルコールが入って
少し赤ら顔になったナリ君が絶賛だ。
悪魔状態で褒められたの初めてかもしれない。
魔族的にはやっぱりカッコよく見えるのだろうか。
俺はナリ君に礼を言った。
「色々、姿をチェンジするけど
どれが本当の姿なんすか?」
「今の姿ですよね。お兄様」
違うだろ。
まぁストレガ的にはそうであって欲しいのだろう
この冒険者ゼータ姿はストレガと冒険者協会に
乗り込む為に調節した兄妹設定だ。
「んー・・・・アレ。」
ここで考え込む俺。
どれなんだ。
悪魔人間における状態
人=14歳の宮本たけし姿
悪魔=4m級の悪魔男爵
半魔化=金属粒子を好きな形態に固定した人型
今のこの姿、冒険者ゼータは
半魔化による変形機能を応用した
外観の変更だ。
真実の姿と言うのは
弄らない姿になる訳だから
半魔化は全て除外だな。
そうなると人か悪魔なワケだが
前回は悪魔がデフォで人里に入る為に
人に化けるのに四苦八苦してたっけな
懐かしい。
今回はどちらかと言うと
人がメインだ。
ミカリンの呪い
同種族化の効果で二人ともチンチクリンになったのだから
人状態がデフォなのだ。
そうだ。
そのせいで疲労回復に手間取っているのだしな。
ただ真実の姿と言われると
チンチクリンも違う気がする
本当は高次元体なので三次元では
一部しか再現されていない
実体としては欠けた状態だ。
しまった。
考え込んでしまった。
返事をしていない。
そう気が付いて我に返るが
俺の返事を誰も待っていなかった。
「最大の力を発揮出来うる魔神の姿こそ
制限の無い開放された真実の姿であると言える。
異論は認めない」
「いいえ、私の兄なのですから
今のこの姿こそこの世界に存在を許可された
あるべき姿です。これこそ真実と言えます。」
「あはは、ラテラ君状態が本体だと
あたし的には最萌えなんすけど」
悩んで損した。
何でもいいか。
つか
14歳宮本たけし人気無ぇーっ
そこで雑談は中止になった。
クフィールの様子が一変した。
壁の方を向き固まった。
焦点は壁より遥かに遠くを見ようとしていた。
「師匠・・・。」
俺も感知系を増幅させるが
時空の違和感を感じ取る事は出来なかった。
もどかしい
どうやったら鍛えられるんだコレは。
「出たのか。」
「4体・・・200m位先っす」
壁の向こうを指さしてクフィールは
緊張感たっぷりに言った。
「行きましょう」
感知出来なかったのは
ストレガも同じだったようで
声に少し悔しさが混じっていた。
まぁ俺以外は気が付かないレベルだ。
俺は通りかかった店員に金貨を一枚渡し
「足りるか?そうか釣りはチップで」と言って
返事を聞かずに飛び出した。
クフィールが指示した場所は
通りを二つ挟んだ向こう側だった。
俺達は狭い横路地を体を斜めにして急いだ。
途中でMAPを確認して
俺は驚きの声を上げた。
目的の場所にマーカーが表示されていた。
誰か知り合いが居る事を示しているのだ。
名前を確認して叫ぶ俺。
「おい、バイスが現場にいるぞ。」
教会で待機を命じられているはずのバイスが
何故、繁華街をうろついているのか。
まさか本物の勇者でも確保したのか
それならば襲われる理由になる。
「急ぎましょう!」
最後尾のストレガはそう叫ぶと
目の前のクフィールを羽交い締めにし
踵から炎を吹き上げ
あっと言う間に俺とナリ君の頭上を通過していった。
「同意だ。」
ナリ君も急加速して
狭い路地なのに信じられないスピードで
駆けだしていく
なんかのスキルだな
身体能力だけとは思えなかった。
冒険者ゼータなので悪魔の身体能力が使える俺は
その加速について行く事が出来た。
生身だったら置いて行かれる所だった。
ほぼ同時に目的地に飛び出した俺達を
バイスと同じような恰好したもう一人が迎えた。
日が落ちて辺りは暗い
表通りなら店の明かりで
判別は容易なのだろうが
ここはいささか暗かった。
もう一人は誰だ。
「ホラ、来たでしょう。さぁバイス君は
危険だから彼等の後ろへ」
不自然に細長いバッグを背に背負ったもう一人が
そう言ってバイスを促した。
「本当だ。凄いですハンスさん!」
そう言ってバイスは俺達の方へと
駆け寄って来た。
それと同時にクフィールが悲鳴にも似た声で叫んだ。
「マズいっす!アゴの人の前後左右に!!」
アゴの人呼ばわりだぞ。
どうするハンス君。
余計な思考で完全に出遅れた。
とはいっても
前後左右じゃどうにも出来ん
何も対応策が思いつかない。
「こんばんはアモンさん。」
当の本人は危機が分かっていない
呑気にいつもの笑顔で俺に向かって
挨拶をしていた。
「しゃがめーハンス!!」
俺がそう叫んだタイミングで
ハンスの前後左右に水たまりの波紋の様な
模様が浮かび上がり広がった。
そこから上半身を乗り出す
1型4体
腕を変形させた武器は
それぞれ形が異なっていた。
間に合わない。
スマン、ハンス
なんとか蘇生頑張ってみるわ。
しかし、それは杞憂だった。
小剣、十時型、三日月湾曲、リング状
それぞれ肘から先を違う武器の形に変化させた
1型全ての攻撃はハンスを捉え
捉え
そこで止まった。
1mmたりともハンスに食い込んではいない。
ハンスの輪郭で青い光がハンスから
肥大化していく、1型の武器は
その光に阻まれ押し返されていく
聖壁だ。
ハンスは自己の体表に聖壁を展開していたのだ。
「最高神12柱が一人、豊穣の女神の寵愛を
受けし私には、いささか物足りない攻撃ですね。」
あれ
ハンス君ってこんなだったっけ
目の前の出来事に信じられないと言った感じになる1型達は
借金取りのノックの様に武器をハンスに
何度も打ち付けていくが
聖壁の肥大化を突破は愚か
減速させることも叶わなかった。
「9大司教、仮にもその武を預かっております。」
1型達を押しのける事に成功したハンスは
ゆっくりと背中の不自然に長いバッグを正面に
回し、おもむろに中の武器を取り出して行った。
ポールウェポン
コーン状の先端を持つ槍だった。
ハンスが構えるとその先端は
銀色に輝き出した。
何その武器
カッコよくない?
「そういえば聞きそびれていましたね。
アモンさん、この槍の名前は何て言うんですか」
1型など気にする様子もなく
俺にそう聞いて来るハンス。
え、何言ってんだ・・・・。
あ
あれ俺が作ったのか
はいはい
思い出した思い出した。
しかし
名前つけていなかったな。
人にあげる武器に名前を付ける様になったのは
結構、後になってからだったもんな
ハンスのは初期も初期だったせいで
付けていない
かと言って正直に言うのは躊躇われた。
相変わらず糸目で瞳が見て取れないハンス君だが
期待MAXで見ているに違いない。
14年以上も待っていたのかと思うと
名無しとは悪くて言えない。
高速思考スタート。
勇者の家系、ガバガバの妹エッダが
所有していた武器を真似て作った槍だ。
エッダちゃん槍改
当時はそう表現していたっけな
改めて名を付けようか
そうだな
エッダの槍に近いモノって事で
「聖槍・ネルエッダ だ!!」




