第二百二十九話 0型存在の可能性
背負い投げで地面に叩きつけられた1型
覗き込む俺は上下反対で
1型と向き合う恰好になった。
幾つか気が付いた事があった。
再戦かと思ったがこいつとは初見だ。
山脈地帯で戦った鎌のあいつとは
仮面の模様が異なった。
そして何より体型だ。
女性型ではなく男性型のフォルムだ。
後、体の感触。
この感触は俺を含む悪魔のソレだ。
金属粒子が形を変えて動いている。
仮面の穴の奥から見える瞳は
黄色く、下等悪魔のそれに見えた。
咄嗟にデビルアイで走査したが
相変わらずノイズが走るだけで
何も分からない。
意味無かったかと思ったが
思わぬ所で効果を発揮した。
不自然に仮面が浮き上がった様に見えたのと同時に
体の端
手足の指先からノイズが晴れていくのが
確認出来たのだ。
瞬間的に思いついた事は
ボディの乗り換え
仮面が本体で
取りついたボディの自由を奪っている。
俺が散々イタズラでやったアレだ。
そう思いついた瞬間に
俺は仮面に向け悪魔光線を照射していた。
バジュン
そんな音を立てて
仮面を構成していた物質は蒸発して
消滅した。
残された黒いボディは色が変化し
茶色とも紫とも言える濁った色になった。
これが本来の色だ。
俺は再びデビルアイで走査する
下等悪魔である事は間違いないのだが
妙な事に魔核が見当たらなかった。
本来なら循環しているハズのエネルギーも見えない。
生き物ではないが
これはもう死体だ。
俺はチンチクリンに戻った。
悪魔男爵の姿で長時間居るのは
騒ぎを引き起こすだけだ。
「マスター、それは・・・。」
額を押さえながらナリ君が
駆け寄って来た。
「スマン。破片が飛んだな」
俺は謝ってから治療呪文を掛けた。
雷防御のお陰で減速してはいたが
命中してしまった。
いや、雷防御で減速していたお陰で
この程度で済んだのだ。
頭が吹き飛んでもおかしくない
勢いと破片の大きさだった。
相変わらず不幸中の幸いが得意な彼だ。
「所長!!無事なんすか」
振り返ると身を隠す魔法を解除した
ストレガとクフィールの姿が確認出来た。
心配するクフィール。
見ればストレガの衣装のアチコチに
穴が開いているのが見えた。
背負い投げの被害だ。
「私は平気です。クフィあなたこそ怪我は無い」
あっさりと言うストレガ。
これは強がりではない
俺と同じ悪魔ボディだ。
石ころなんぞいくら当たっても何でも無いのだ。
だからストレガとだけで
行動したかったのだ。
涙ぐみながらクフールは答えた。
「所長が庇ってくれたお陰で平気っす」
「ぬぅ、負傷は我だけか
修行が足りぬ証拠だ。」
悔しがるナリ君。
いや
コレは修行とか関係ないから
「お兄様!!死体が?!」
丁度、治療が終わった時に
ストレガが叫んだ。
見れば下等悪魔はその形が崩れて
砂の山になり果てていた。
結合をしている悪魔力が無くなれば
金属粒子はまぁこうなるわな。
「一旦、宿に戻ろう。野次馬に囲まれる前にな」
その砂のサンプル採集はいいのかと
ナリ君が言っていたが
意味が無いとだけ伝え
俺達は逃げる様にその場を後にした。
宿まで戻るつもりだったが
ストレガの提案で
近くの酒場で話をする事に変更した。
オコルデ達は巻き込まない方が良いと言ったのだ。
俺も賛成した。
「酒場か、じゃあ」
俺は冒険者ゼータにチェンジした。
子供では何かと不便な場所だからな。
「全裸じゃないんすね」
ちゃんと服を着て登録し直してある
アレはあの時だけだ。
何かストレガが真っ赤になっている気がしたが
敢えて何も言わずに俺達は
適当な酒場に入った。
俺達はテーブル一つを陣取り
注文が揃った所で話を始めた。
「1型の正体は悪魔だったという事でしょうか」
ストレガはストレートにそう言った。
「いや、俺の位置からは見えたが・・・。」
1型の正体は仮面そのモノだ。
悪魔は体を乗っ取られていたのだ。
より強力なボディだと判断したのだろう
あの時、仮面は俺に移動しようとしていたのだ。
「今、思えば捕獲するべきだった
咄嗟だったので反射的に破壊しちまったなぁ
失敗した。スマン」
貴重な手掛かりを自ら破壊してしまった。
これは悔やまれる。
「いいえ、お兄様が乗っ取られる事態に
ならなかったのが幸いです。」
ストレガがそう言った。
「1型とやらも失策よ。そのまま動かなければ
マスターなら自ら被りそうなものを」
ナリ君がそう言った。
「しししししねぇよ、そんな事」
散々やりました。
今思えば本当に危なかったんだな。
その後は俺の仮説を皆に話した。
「ですね。バングと呼称するなら1型のみで
234型は別呼称を設けるべきです。」
ストレガは俺と同じ発想のようだ。
「えーと、2型以降はマリオがやってる事
そのまんま1型が動かしてるって事っすか」
魔法が効く理由
1型が魔法を使える理由だ。
バングの弱点は魔法
これは誤りで他の魔力の干渉で崩壊する。
マリオのメカバングも俺の魔力干渉で停止してしまった。
「マリオのは一挙手一投足操作しているが
2型以降は自動で動いている様子だ。
もう少し進んだ技術だな。」
プログラム的なモノが仮面に
仕込まれていると思って良さそうだ。
「ぬぅ、これは1型とやらを滅ぼさぬ限り
2型以降をいくら屠ってもキリが無いと」
ナリ君が呻いた。
結構な苦労をして倒して来たと言うのに
この事実は堪えるな。
「俺もそう思う。だから1型は
あまり表に出てこないのだろうな」
「聞けば聞くほど道理です。マスター」
ここでクフィールが肉を食いながら
割り込んで来た。
今日のMVPという事で
好きなモノを好きなだけ注文させた。
「じゃ何で今回は出て来たんすかね?」
「2型以降の出来る事は無差別な襲撃だけっぽいな
今回はそれじゃよろしくない事情があるのだろう」
恐らくマフィアの狙いと同じだ。
「それが勇者だと」
ストレガがズバリそう言った。
「ああ、そう言う事だ」
そしてこの事からいくつかの確定事項があった。
1型には意志があり行動している。
偽者に引っかかった。真偽を見わける目は無い。
確実に仕留める気でいる。
本体は模様のある仮面、他の体を乗っ取って行動している。
「どこで悪魔なんか仕入れたんすかね?」
俺は先程から感心しっぱなしだ。
クフィールは良い所を突いて来ている。
「より強い身体に乗り換えた結果だろうな。
最初から悪魔だったワケじゃないのだろう
現にさっきは俺に移ろうとしていた。」
下等悪魔なら自力で現界が可能だ。
この世界でもダンジョンなどで遭遇例がある。
不眠不休、食事も不要で毒も効かない。
乗っ取るには都合の良い身体だ。
・・・・・。
「どうかしましたか、お兄様」
相変わらず
俺は直ぐに顔に出る様だ。
ストレガが心配して
そう尋ねて来た。
「仮説に仮説を重ねるんで申し訳ないが
おれは0型の存在を想定している。」
ババァルの奴
乗っ取られているんじゃないだろうな。
「仮面を生産している者が
どこか安全な場所で1型達を増やし動かしている。
その0型の目的の障害になり得るのが勇者だとすれば」
「妥当な推測だと思います。マスター」
「あたしもだとだと思うっす」
何か嫌ーっな目でクフィールを見るナリ君。
「1型を捕獲して拷問しますか」
拷問必須ですか
相変わらず恐ろしい妹だ。
こらナリ君うっとりするんじゃない。




