第二百二十四話 土手の怪人
ナンジャ・ワーレイ
旧ヒタイング貴族の中でも
オノーレ家に並ぶ武芸に秀でた貴族。
現在はヒタイングの治安統括の任に当たっている。
現当主のナンジャはお手本の様な良い貴族で
彼の屋敷がある周辺は古きヒタイングの街並みが
数多く残っていて
ナンジャ・タウンと呼ばれていた。
いい加減にしろ。
話が終わった様で
ブットバスはナンジャを連れて
キャリアの方までやって来た。
俺の隣の人物、その顔を確認するや否や
片膝を着いて控えた。
「ま真に陛下であらせられたとは・・・・。」
忠誠心もオノーレ家に負けていない様だ。
「コラやめないか。お忍びだと言ったソバからもう」
ブットバスの口調も心なしか
フレンドリーな調子だ。
ギクシャクしがちな貴族間にあって
この仲良しっぷりは良い事だ。
「お久しぶりですね。ナンジャ
こんな所でどうなされたのですか。」
彼の領地も治安を担当するべき市内も
まだ先だ。
この先の川を越えてからだ。
ここは人通りも少ない川向う
その土手周辺だ。
巡回するような場所では無い
死体でも上がったのか
「はっ実はですな・・・。」
ブットバスに腕を引っ張られる様にして
立ち上がるナンジャはそう言いながら
ブットバスを見た。
ブットバスは無言で頷いた。
発言にも許可がいるようだ。
「リディ殿が追われている件に
もしかしたら関連があるやもです。」
ナンジャに向かって頷いた後
ブットバスは俺の方を向いてそう言った。
俺も聞いていいって事か。
偽勇者を襲った黒装束の者
そこまでは話をしてあるが
バングについては伏せた。
教会の意向で
これはバイスから念を押されていた。
「怪人の出現が報告されました。」
俺はそこで一旦話を止め
ストレガとナリ君そしてバイスを呼んで
キャリアから下りた。
車上じゃなんかやっぱり失礼だ。
改めて続きを聞いてみると
5日程前、この先の土手に
爆発音みたいな音が響き
近くで釣りをしていた人が
駆けつけて見ると
それまでは何も無かった土手に
横穴が出来ていて
中から子供程の身長の怪人が現れ
雷の術で釣り師に襲い掛かったそうだ。
「信じがたい話ですが・・・。」
ブットバスはそう言って
見える土手を指さすと
そこには出来たばかりと思われる穴が
ココからでも確認出来た。
出来たばかりと言い切れるのは
噴き出したであろう土砂の真新しさや
穴の周辺に苔など
時間の経過を思わせるモノが
一切見受けられないのだ。
「その釣り師の方は・・・・。」
青ざめた表情でバイスは聞いた。
死亡
最悪の結果を予想している様子だ。
「幸い気絶しただけなんですが・・・。」
後から駆け付けた者に介抱されたそうだ。
その者の話によると金品も奪われてはおらず
後遺症なども無いそうだ。
「穴を開けた意味が分からぬのです。」
穴を調べた結果
土手を貫通してはいないそうだ。
「遥か太古から埋まっていて
目覚めて出て来たのでは」
これだ
とでも言いたげにオコルデが口を挟んだ。
「素晴らしい考察です陛下。」
孫を相手にするような笑顔で
ナンジャはオコルデを賞賛するが
ブットバスは呆れて答える。
「陛下、この土手は治水の為に
先々代の時期に人の手で作ったモノです。」
「ではその時の作業員が」
すんげぇ事故だな
タイタニックの多層外壁工事じゃないんだから
オコルデはかき氷を餌に
クフィールに車内に回収された。
良いぞ弟子。
「目撃者はその釣り師だけなのですか」
ストレガがそう聞いた。
ナンジャは頷いて
顔はもちろん外見も確認する前に
雷で気絶したそうで
子供程度の体格しか
手掛かりが無いそうだ。
「奇々怪々、正に怪人ですね・・・マスター?」
皆、真剣な面持ちの中
1人だけ
きっとすんげぇつまんなさそうな顔してたんだろうな
そんな俺に気が付いたナリ君。
「あー勝手にすればいいが
もう、警戒の必要は無いぞ。」
俺は無感情たっぷりの棒読みで言った。
訳が分からない様子の皆の中から
俺はストレガとナリ君を引っ張り
少し離れた場所で耳打ちした。
「その怪人が俺だからだ。」
「何してんの」
「そんな気はしていました。」
俺は二人に事件当時の様子を説明した。
城を飛び出し半魔化状態での
全力疾走からの減速を面倒くさがった故の衝突
そして説明の難しさと
納得してもらうには不条理な理由
被害者も軽微で済んでいるなどの事から
とぼける事にした。
「じゃあお仕事頑張って」
背中を押す様にしてブットバスを
回収すると逃げる様に
その場を後にする俺達。
「認めたく無い物だな
自分自身の若さ故の過ちというやつを」
アモンカーシリーズ
今度赤く塗るか。




