第二百十九話 だがしかし
ナリ君は事情を説明しに
一旦戻って行った。
こいつが探していたマーマンのオスなら
ヒタイングも万々歳だろう。
復活までの間ヒマだったので
釣りを始めた。
結構釣れた。
魚介類は実はそんなに好きじゃないので
あんまりワクワクはしないが
釣りそのものは面白い。
そして不自然に檻が揺れた。
「おっ復活したか。」
俺は釣りを中断すると
四つん這いになり檻を覗き込んだ。
乾燥時は茶褐色だった体は
今は赤く瑞々しくなっていて
日の光を反射していた。
「光物か。」
オコルデもそうだったが
彼女は紫寄りの青系だった。
まだ上手く体が動かない様子で
波に打たれてはよろめき
檻の鉄棒に体を預けるようにして
転倒を避けていた。
手を握ったり開いたりしたりしていた。
眼球はゆっくりだが辺りを見回していた。
「おい、言葉分かるか。」
耳に聞こえた自分の声は
いつものエラシア大陸の言葉だ。
マーマンが言葉を話すなら
標準語、或いは全く言語を使用しないかの
どちらかと言う事だ。
「・・・ここは・・俺は・・・。」
話せるようだ。
俺は話しを始めようとしたが
マーマンは激しい空腹を訴えた。
マーマンの主食って何だ。
「お前、何食うの?」
そう聞いて見たらどうも
魚でいいらしいので
俺はバケツから釣った魚を見せた。
すかさずマーマンはジャンプの体勢に
入るが俺はそれより速く檻の隙間から
魚を落とした。
このマーマンの実力を知らないが
檻を破壊されるかも知れない。
それは勘弁願いたい。
マーマンは落ちて来る魚を
口でナイスキャッチ、咀嚼する事無く
丸飲みだった。
何かミニゲームっぽいぞ。
次々と魚を投下していく
どうも好みが無いのか
それともあまりの空腹に
そんな事に構っていられないのか
好き嫌いする様子も無く
落とす傍から丸飲みしていく
結構、釣り上げたのだが
全部飲まれてしまった。
「なんと平らげたか、済まない・・・。」
最後の一匹を食った後でマーマンはそう言った後
お辞儀をする状態になった。
・・・頭を下げたのか、首無いもんな。
「いいってヒマつぶしに釣っていただけだ。」
「お陰で生き返った。」
いや、蘇生はその前の段階なんだが
そう言う意味じゃないよな。
「で、世話になりついでに教えて欲しいのだが・・・。」
マーマンは自分の状況について尋ねて来た。
今、何故自分は檻にいれられているのか
知りたがっていた。
「波にさらわれないようにと
俺の身の安全の為だ。
蘇生の際、問答無用で
襲い掛かって来るかもしれないし
言葉も通じないかもしれない。
・・・だがその心配は要らなかったようだな。
今、開けるよ。」
腕を組んで聞いていたマーマンは頷き
警戒するのは最もだと納得してくれた。
怒ってはいない様子だ。
俺は片っ端から鉄パイプを外しては
ストレージに放り込んでいった。
外したパイプが消失していく現象に
マーマンは驚いて説明を求めた。
俺は例によって魔法のせいにした。
「人族は不思議な技を使うな。」
魔法の概念が無い様子だが
人の道具や服、建築物、火を使った調理などと
ひっくるめて納得している感じだ。
片づけの最中もマーマンは質問を続けて来た。
「今、何年だ。」
そう言えば知らん。
気にした事も無かった。
「スマン・・・年号は俺も知らんのだ。」
俺は崖に開けた横穴を指さして続けた。
「あの崖の中で干からびたあんたを
見つけて蘇生の為にここまで運んだんだ。
崖の上の建物、干からびる前に
あれは建っていたかい?」
眉毛・・・は生えてはいないが
その位置に両手を持っていき
俺の指さした方向を見るマーマン。
なんかカワイイな。
「見覚えは無いな。俺が穴に落ち
干からびた後に建てたのだろう。」
あの城は戦争末期にそれまでの城から
王族が避難する為に建てられたと思われる。
パウルですら産まれる前の戦争だ。
俺はそう説明した。
それを聞いたマーマンは酷く狼狽えた。
「ヒタイングとバルバリスが戦争をしただと?!」
やはりヒタイングがまだ独立国だった頃に
干からびたようだ。
バルバリスも知っている事も分かった。
「いずれが勝利したのだ?」
「・・・バルバリスだ。」
俺の返答に
がっくり項垂れるマーマン。
顔が半分、海水に浸かった。
一瞬慌てた俺だが
エラあるもんね
窒息はしないか。
「降伏という形で全滅では無いぞ。
正確な年数は、これから来る連中に聞くと良い
ヒタイング王家の末裔だ。」
弾かれたように水面から
顔を上げるマーマン。
「真か?!」
「まことですよ。
カーシ家は続いている。」
「そうか・・・・そうか。」
マーマンは震え目から涙が零れていた。
カーシ家の関係者の様だな。
つか魚って泣くのか
手足以外にも人の器官があると見て良さそうだ。
檻を解体し終わり
俺はマーマンと並んで海岸まで歩き出した。
「申し遅れた。俺の名はダガ・シ・カーシだ。」
やっぱり王家の血縁か。
「ここではリディって名乗っている。
本名はゼータ・アモンだ。これは内緒で頼む。」
「礼を言うリディ。」
ダガはそう言って手を差し出して来た。
人族の握手の習慣を知っているのだ。
「どういたしまして。」
俺も手を出すが
大きさが違い過ぎて
ダガの手の平は俺の肘位まで握り込んでしまった。
気を使っているのだろう
そっと、丁寧に握って来た。
冷たい。
体温は無い様だ。




