第二百十五話 ハサミと結び
前にこの魔法結界を紐と例えた。
あまり真剣にならなかった理由は
その例えになぞらえるなら
俺はハサミを所有している状態なのだ。
強引に力づくでどうにか出来る。
しかし、これは結び目その他を
解く事を放棄した。
言わば知恵比べでの敗北だ。
将棋を指す事無く
対戦相手を拳で殴って
参りましたと言わせる行為だ。
強盗の手段で
怪盗や名探偵は絶対に行わない行為だ。
その余裕がそのまま油断になった。
こんな仕掛けまであるとは
もっと良く調べるべきだった。
結界の網目はその黒い腕と
連動し俺が通過出来るように
広がり、俺の通過に合わせて
元通りになった。
俺は引っ張り込まれる最中に
半魔化し危険を感知出来なかったので
そのまま部屋の床に放り出される格好になった。
腕は俺を放り投げると
網目の一部に変化した。
尻もちを着いたまま
その変化の様子を観察した。
目の前で見ても
この魔法の原理すら想像がつかなかった。
四行相克に代表される
精霊由来、それではでは無い魔法
その位しか分からない。
結界の魔法の紐は
物理的な存在ではない
肉眼では視認出来ない
それには驚く事は無かったのだが
物理的に視認出来なければいけないハズの
扉や床までもが薄く透けていた。
視覚だけでなく
聴覚、音も遮蔽されているとは思えない程
廊下のバカ騒ぎが聞こえていた。
まだ廊下では俺が消えた事に
気が付いていない。
踊りに皆、夢中だ。
想像通り
この魔法結界は
中の情報を外に漏らす事無く
外からの情報は筒抜けだった。
これも仕組みが分からない。
分かってはいた。
ストレガは俺より魔法使いとして
遥かに高みにいる。
ただ
何故だか素直に認めたくなかった。
ストレガの創造者だからなのか
義理とは言え兄だからなのか
なんにしろ
とても小さく
下らないプライドのせいだ。
なんでも切れるハサミを持っている。
それに甘んじて結び方を全く
学ぼうとしなかった。
14年のアドバンテージが
ストレガにはあったが
これが逆で
俺に時間があったとしても
結果は変わらなかっただろう
始めない者には
いくら時間の余裕があったとしても
始めないのだから
何も始まらないのだ。
思い知った。
やっぱりストレガはすごい奴だ。
そして俺は大した事ない奴だ。
ただ
大した事は無くとも
このバカげた巨大なハサミ
それ自体には
それにしかない意味がある。
それぞれに意味はある。
立ち上がろう。
俺はそう思い
床にに手を付いて気が付いた。
初めは模様かと思ったが違った。
文字だ。
一瞬魔法陣なのかと思ったが
その考えは直ぐに打ち消された。
式もへったくれもなく
同じ文字が大量に書き込まれているだけの様だ。
だから最初に模様と勘違いしたのだ。
なんて書いてあるのかと見て見ると
「うあああああああああああああっ!!」
そこには床全面だけでは収まらず
壁にも天井にもただ「お兄様」という文字が
ただひたすらに書き込まれていたのだ。
思わず悲鳴が出た。
怖い
ナニコレ
ただの文字だけで
俺を一瞬にして恐怖のどん底に叩き落とすとは
我が妹ながらやるじゃないか。
「・・・・によ。」
居る。
ストレガは直ぐ近くに居る。
感知出来ないが
俺は確信した
小さな呟きだが聞こえたのだ。
「・・・・によ、何よ何よ。」
すぐ後ろだ。
呟きのトーンがエスカレートし
だんだんと声が大きくなっていく
遠くから近づいているのでは無く
動かないで声のボリュームが上がっている。
一流のソナーマンは搭乗していないが
分かるぞ海江田め
それに流すならモーツァルトだろ
「おっぱいおっぱいおっぱいいいい」
激昂して術式が崩れたのか
ストレガの姿が確認出来た。
激オコだ。
「そんなに大きいおっぱいがいいなら牛でも飼えばいいじゃない」
おい
ババァルに謝れ
ぶるんぶるうん震わせ
踊る軍団を指さし怒るストレガ。
アマノイワト作戦
逆効果でした。
「お兄様はいつも他の女ばっかり
私の裸なんて見ようともしないのに!!」
見るトコ無いじゃないですか
思わず言いそうになってしまったが
喉元で強引に止める。
危なかった。




