第二百十二話 いちにのさーんのしのにのご
「はは、いや私の方だって冗談ですよ。」
真っ赤になって涙目のブットバス。
すかさず冗談だと言ったら
この反応だ。
悪い事をしてしまったのか。
「まさか真に受けたのか、俺子供だぞ。」
この辺りの常識を知っていそうな
バイスに俺はそっと聞いて見た。
「・・・王族や貴族の間では珍しくありません。
早ければ12歳でも相手が決まってしまう事も有ります。」
冷や汗を垂らしながらバイスは
そう教えてくれた。
「げっ、じゃあ年齢を聞いていないが
ブットバスさんはもしかして・・・。」
「平たく言うと行き遅れです。」
洒落にならない冗談になってしまった。
「そうかー悪い事したな。」
そんな話をしながら俺達は
最初の部屋へと戻って来た。
部屋の中にはクフィールとリリアンが
お茶をしながらくつろいでいた。
リリアンちゃんは残念ながら
汗だくでは無かった。
いや、良かった良かった。
「・・・若!」
部屋に入って来た面子を確認した
リリアンは椅子から立ち上がりそう声を上げた。
「心配を掛けてしまったようだな。すまぬ」
「いいえ」
うんうん
いい笑顔だ。
しかし
くそうナリ君が羨ましい。
ただでさえ
実は王族の血筋でした系主人公属性っていう
恵まれたポジションなのに
こんな専属ロリメイドまで付いて
くそ
死なねぇかな
・・・何度か死んでるか。
「マスター?」
「死ね。」
「はい?!」
「ん?!何何ゴメン考え事してた。」
不自然さ極まりない慌てっぷりで
俺は席に着いた。
「で、最大の難関と思われる妹君ですが。」
ナリ君がそう切り出すと
バイスも頷いた。
「あの時は自分の事で精一杯でしたが
ストレガさんの様子
あれはどういう状態だったのでしょうか」
ナリ君が人形の様だと表現した感じ
恐らくストレガは人の擬態を止めたのだろう
本来のストレガはアンデッドモンスターの
スケルトンをベースに悪魔の契約で
俺が魔改造した新種とも呼べる存在なのだ。
本人の希望で生前の姿と思われる人の姿恰好だが
当然、血肉のある生命体では無いが
人の世の中で生活するにあたって
不自然にならないように
不必要な呼吸や食事など人に擬態していたのだ。
俺が怒った。
この事実で精神的余裕が無くなり
擬態が停止してしまったと思われる。
皆はストレガの正体を知らない。
出来ればこの状態のまま
復活させてやりたいものだ。
「先に申し上げておきたいのですが・・・。」
ここで平常心を取り戻したブットバスが
割って入って来た。
彼女の説明によると
何とストレガの部屋に侵入は勿論
何の干渉も出来ない状態で
呼び出す事は不可能だと言うのだ。
「宮廷魔術師・・・あ、あの玄関で水晶を
持っていた男の事なんですが、彼の所見によると」
名前はチャ・ウンカイだそうだ。
俺はそこでまた噴き出しそうになった。
そのチャの調べではストレガの滞在している部屋
自体に魔法的な術式が施されていて
外からの干渉を拒絶している状態だそうだ。
「呼びかけにもお答え頂けない
ノックをしてみても、これが何と言えば良いか・・・。」
音が響いている感じがしないそうだ
扉の材質が変化でもしているかの様だとは
ブットバスの感想だ。
「確実に魔法を使用している。」
ナリ君はそう断言した。
以前、二人で隠れて俺とバイスを
見ていた事があったっけな
その時にナリ君はストレガの魔法を体験しているのだ。
「バイスなら解除出来るんじゃないっすか?」
クフィールがそう言ったが
首を横に振りながらバイスは答えた。
「魔導院の魔法と教会の魔法は
根本的に別系統だよ。仮に仕組みが分かっても
私の実力で魔導院院長の張った結界に
立ち討ち出来る気がしない。」
学園時代、バイスは余程優秀だったのだろうか
クフィールはバイスなら何でも出来る様に
考えている様だ。
ここで扉が音を立てた。
そーっと開けようとして失敗した感じだ。
思わず皆は扉に注目してしまった。
「陛下?!・・・失礼する。」
隙間から片目だけが確認出来る程の狭い隙間
その片目だけで扉の向こうの人物を
特定したブットバスはそう言って
1人だけ着席していなかった事も手伝い
素早く扉まで移動していき退室した。
「御身体の方は?出歩いて大丈夫なのか」
「お戻りになったと聞いて」
「ああ、今お仲間の対処について会議中です。」
「ブス・・・救世主さまは私の事については・・・。」
「済まないオコルデ。まだ聞いてない
その色々ショックな事が続いてその
決して忘れていたワケでは無いのだが」
ああ、そう言えば俺の怒りの原因が
自分せいじゃないかとオコルデは思っていたんだっけな。
とっとと憂いを晴らすか
俺は扉まで歩いて行き
いきなり開けるのも悪い気がしたので
内側からノックという
なんとも奇妙な行動をした。
「オコルデ、怒って無いぞ」
俺はそう言ったのだが
扉の向こうからオコルデは質問してきた。
「どっちなんですか。」
この場合の「オコルデ」は固有名詞で
お前の名前だろうが
自動翻訳がどう機能しているのか
出力側に何の情報も無いのが
最大の欠点だ。
「・・・怒って無いよ。」
変な名前の陛下が悪いんだが
陛下だって好きで
そんな名前になったんじゃないからな
俺は名前を省いてそう言った。
これなら翻訳も大丈夫だろう。
ゆっくりと扉が開きオコルデは
顔を半分だけ出して
様子を窺っていた。
警戒している。
かわいい。
「良かったら妹の説得に陛下も
協力してもらえないか」
俺はそう言ってオコルデを招き入れた。
機嫌が良くなったのかオコルデは
雀の歩行の様にピョンピョンしていた。
オコルデの後方を歩くブットバスも
安堵の表情だ。
もう完全に保護者の目だ。
人状態のオコルデは地位に見合った
豪華な衣装になっていた。
宝石をあしらったティアラやら
各種の輪っかが首元や手足でジャラジャラ言っていた。
問題があるとすれば
銀っぽい髪の毛の方が
反射が強く装飾品よりも目立ってしまって
宝石その他が霞んで見える事か
「おわっ綺麗っす!」
部屋に入って来たオコルデを見たクフィールが
思わず声を上げた。
バイスも見とれているのか
口を間抜けにもポカーンだ。
リリアンちゃんは半目で警戒している。
ナリ君もおめかし陛下は初めてなのか
先ほどの俺のアドバイスに従って
品定めをしているのか
何か目を見開いている。
うーん
変な顔になってるぞナリ君。
出展:いちにのさーんのしのにのご 吉本興業の「Wコミック」のネタ




