第二百五話 メロめろに
リカルドが俺を呼びに上がって来た。
二人とも落ち着き
ラテラも食事その他も済ませたとの事だ。
「あたしも行っていいかね。」
そう申し出るマスター。
お願いしたい位だ。
俺は快諾した。
地下に下りて部屋に入るとラテラは
アリアに甲斐甲斐しく世話をされていた。
おい
替われ。
「あ、あなたが・・・。」
「挨拶はイイ、聞くだけ聞いたら出ていく」
俺は早速ラテラをデビルアイで走査した。
心配していた左腕は細胞の損壊こそ
多いものの生命力自体は通っていて
自力での修復が始まっていた。
腐り落ちる心配はもうしなくて良さそうだ。
「おい、呪いは解いてくれよ。」
リカルドがそう突っ込んだ。
「の・・・呪い?」
怯えるラテラ。
言わんでもイイのに
リカルドの馬鹿。
「それを解いてもらう為にも正直に答えてね。」
真顔でラテラに忠告するアリア。
それを聞いたラテラはマスターの方を見た。
無言で頷くマスター。
それらを見てから俺はラテラに質問した。
「お前を襲った奴について詳しく聞かせてくれ」
クリシア本国で準備を済ませたラテラは
この店を起点に偽勇者の活動を開始した
どうも駐在しているのはマスターだけで
リカルドも任務によっては長く空けたりするらしい
現にアリアはついこの間まで魔導院で
活動していた。
マフィアの息が掛かっていない飲み屋などで
勇者アピールをしていたある日の帰りに
黒装束の者に問答無用で襲い掛かられたそうだ。
俺は黒装束の特徴などをしつこく聞いた。
出現、退去時に神出鬼没のような不自然さがあったか
鎌は手に持った武器なのか
腕に固定されているような感じでは無かったか
黒装束というより黒い皮膚では無かったか
何か喋っていないかなどだが
どれもハッキリしなかった。
襲われたのは突然で
最初からソコに隠れていた様に思えた。
一言も話さなかったのと
斬られた後は逃げるに精一杯で
気を失いどうして助かったのか覚えていないそうだ。
退去の様子は見ていないのか。
服装や武器に関しても暗がりだった事と
戦闘に集中していた為
どれも断言出来ないそうだ。
俺はストレージから
紙とペンを出して
思い出しながら1型を描いて見せた。
「こんな感じか。」
「・・・・。」
ラテラは絵を見つめたまま困ってしまった。
不審に思ったアリアは絵を覗き込むと
口を押えて笑いを堪え・・・きれていなかった。
その様子をみたリカルドとマスターも
ラテラから絵を受け取り言った。
「下手すぎて分からないぜ。」
「3歳ぐらいの子がこんなの書いたりして
大人ビックリさせる事あるねぇ」
おのれマフィアどもめ
見てろ
俺はもう一枚紙を取り出すと
ペンと一緒に自分の影の中に突っ込む
察したダークはサラサラっと描くと
入れっぱなしで待機している俺の手に
紙とペンを返してくれた。
影の中に手を突っ込んでいる。
俺のその状態に皆、唖然としていた。
返してくれるまでの間が持たないが
俺は不敵に睨み返していた。
返って来た紙とペンを
影から抜き取り
上下裏表を確認して
ダークの描いた1型を見た。
相変わらず上手い
浮世絵っぽいのも相変わらずだが
右下に漢字のハンコみたいな文字も
見受けられた。
漢字だと思って無理やり読むと「堕悪」と読める。
・・・お前、銘なんか入れてんじゃねぇよ。
何のアピールだよ。
何目立とうとしてんの隠密のクセに
「これならどうだ。」
俺は銘の部分を塗りつぶしてから
再びラテラに見せた。
返事は要らない位
表情が物語っていた。
「こ・・・こいつだよ!!
おじさんこいつ誰だか知ってるの?!」
俺はラテラから絵を取り戻すと
マスターに向かい手招きをして
廊下に出た。
「ビンゴのようだね。」
俺はマスターに絵を渡して言った。
「こいつは極秘で調査を進めてくれ
まぁ従う義務は無いんだが・・・
何故、俺がこんな事を頼むか
その理由は
その方があんた達が安全になるからだ。」
「了解したよ。」
色々説明を追加しようとする俺に
笑顔であっさりと承諾するマスター。
「で、情報が入ったらどうする。
お兄さんにどうやって連絡したらイイんだい」
「タマに寄るよ。その時にでも・・・」
「あいよ。で、こいつ強いの?」
「倒してしまっても構わないが
お勧めしない。俺ともう一人で
取り逃がしている相手だ。」
眉毛を八の字の様に垂らして
マスターは呻いた。
「そりゃヤバいわ。ラテラは運が良かった。」
そうだバイスも事も根回ししてしまうか。
「今、足止めしている司教もこの件を
探りに来るが協力してやって欲しい
同じ理由だ。追う者に反撃するからな。」
「OK。ささやかですが、あたしの息が
掛かっている所は徹底させときましょう。」
潮時だな。
「時間が惜しい、ここで一旦サヨナラだ。」
そう言って踵を返す俺に
マスターは慌てて言って来た。
「ちょっと、呪いは?」
俺は走り出しながらマスターに言った。
「そんなモノ初めから無い。」
振り返らず走る俺の悪魔耳に
マスターのボヤキが聞こえた。
「全く・・・人の悪い良い人だよ。」
店の名前を憶えていなかった事に気が付き
マスターの店を出て所で振り返って
改めて看板を確認した。
酒場「メロめろ」
ふん
ダサいネーミングだな。
マスターの名前も聞いていなかったが
今からそれだけの為に戻るのも
面倒だし知らなくても問題は無いか。
京都の料亭なんて
さんざん通い詰めてすっかり常連気分
店側も特別に扱ってくれていると思っていたのに
女将の名前を知らなかった。
なんて事も良くあるそうだ。
俺は「メロめろ」を後にした。




