第二百 話 偽勇者を探して
魔導院に潜入捜査していたクリシアの工作員。
それがアリアだ。
生えっぱなし、手入れしていない感じで
片目を隠していた髪は
今はキチンと整えられて7:3に分かれ
今日は両目が見えていた。
地味な美人だと思っていたが
メイクすると結構派手な顔なんだな。
瞳の色は・・・うーん?
黒じゃないよな
確認する為に近寄ってガン見だ。
紺だな。
髪の色と同系色だ。
顔と顔の距離が近い。
「わ・・・分かったわ。」
何を勘違いしたのか
アリアは服を脱ごうとし始めた。
はぁ?
これで口説いた事になるのか
しかも成功したのか
ズルいぞイケメン。
元の世界じゃ
ヒドイもんだった。
普通に深夜帰宅でアパートに向かって
歩いているだけのなのに
先行していたOL風が急に駆け足で逃げたりとか
思わず振り返ったよ
誰も居ねぇよ
俺かよ
コンビニでつり銭渡す時とかも
手から離れた高所で落とす様にとか
賽銭箱か俺は
道で、すれ違う時とかも
反対側ギリギリまで回避されるとか
エスカレータでもバッグで
スカートの裾押さえるとか
最初から短いの穿いてくんじゃねぇよ。
・・・最後のは違うか。
俺は咄嗟にアリアから距離を取り言った。
「頼んだのは情報屋で
ルームサービスでもコールガールでも無いんだが」
慌てて脱ぐのを止めるアリア。
真っ赤になって返事した。
「わ私がその情報屋よ。」
クリシアの情報員。
ユークリッドはつついても下っ端マイフィアの
構成員を差し出して来るだけだと言った。
昔からマフィアが政治に深く食い込んでいる国。
つまりアリアはクリシアマフィアって事か
じゃあ罠じゃん。
はい
半殺し決定。
金貨貢いで罠に嵌めてもらった恰好か
あのマスターも半殺しにするか
ふざけやがって
まぁカモがネギ背負って鍋に飛び込んで来たようなものか
・・・でもそれにしては手が込んでいるか
マスターにしてみれば
あのままカウンターに雑談で足止めして
さっきの報復に来た連中に連行してもらえばイイ。
「ほ本当よ。そう見えないでしょうけど
これでも仲間内じゃやる方なんだから」
俺の沈黙をどう勘違いしたのか
アリアはアピールを始めた。
「それは内容で判断させてもらう」
完全膝カックンセンサーで見てみれば
対面の部屋からお仲間が
俺の部屋の前まで来ている所だ。
俺は床から数センチの所で滞空し
ムーンウォークっぽく扉まで
後ろ向きで移動した。
アリアの驚いた顔が傑作すぎて
思わず笑いそうになるが
ここはガマンだ。
「立ち話もなんだ。座ろうか」
俺はそう言って扉を開けた。
丁度、息を殺し聞き耳を立てる姿勢の男が
丸見えになった。
「一緒にどうだ」
足音をさせない移動だ。
俺の接近をまるで感知出来なかった男は
一瞬体を硬直させ、その後の動作に迷ったのか
固まった。
「入れよ」
俺は男をロクにチェックせず
ドカドカと足音を立てて戻り
敢えて扉から最も遠いソファに座った。
片手剣も盾も外してソファに放り
身軽になった。
窓に後頭部も堂々と晒す
ってまぁライフルなんて無いんですけどね。
椅子はあるのだが二人とも座る気配は無かった。
「最初に言っておこう、俺を始末するつもりなら
止めて置け、この部屋にいる時点で
生殺与奪は俺が握っている。」
俺はソファのクッションを無造作に掴んで
適当に放り投げ着地地点にスパイクを発生させた。
着地した瞬間、クッションは串刺しになり
吊るしあげられる様な恰好になった。
「なっ・・・なんだそりゃあ?!」
石の床だから出来る芸当だ。
良かったーちゃんと刺さって
外れたら超恥ずかしトコロだった。
「女の方はもう分かっているだろうが
俺はかなり特殊だ。色々な常識は
通用しないと考えてくれ」
先ほどのムーンウォーク(ズル)を
思い出しているのだろうアリアの額に冷や汗が浮かぶ
「女の方がお仲間を同伴するように
俺も何の準備もしていないはずは無い
ただ俺の方の目的はお前らの始末じゃあない
あくまで身を守る為だ。
繰り返すが始末するつもりなら止めて置け」
漏れて来る恐怖がイイ感じの二人だ。
「そして、お前らが殺し屋だろうが情報屋だろうが
求めている情報が手に入るなら俺はどっちでも構わない。
有益な情報なら報酬はこの通りだ。」
俺は懐に手を入れる
その瞬間、殺気が走る二人。
あ
そうか
俺はゆーっくりと手を出す
握っているのはストレージから出した金塊だ。
前のめりにしゃがむと恰好悪いので
ソファにふんぞり返ったまま
その手の位置から目の前の低いテーブルの上に落とす。
ドゴン
金て重たいからな
結構デカい音になった。
ダイジョブか俺
ビクっってしてないよね。
「そ・・・そうかい、あんた名前は俺は」
「名前はイイ」
必要な情報じゃない
ここを全員生きて出られてからにしようと
カッコよく言うつもりだったが。
「イーさんか。よろしく俺はリカルドだ。」
「・・・よろしく。」
面倒くさいからそれでイーです。
なんか悪の組織の下級戦闘員みたいで
軽いのが気に食わないが
「名乗らなくてもイイかしら。」
頭痛を堪えるような仕草でアリアはそう言った。
「構わない。仕事的に欲しい情報じゃない
が、個人的に男としてすごく残念だ。
きっと素敵な」
「アリアよ。」
おい工作員、偽名使えよ。
パーティに入れた時に本名だと分かっているのだ。
仕事なら偽名を使い分けた方がイイんじゃないのか。
「クリシアマフィアを探っていると聞いて来たわ。
色々あるけど具体的に何が知りたいの」
チラチラと金塊を見てしまうアリア。
まだ頑張ってる方だ
リカルドの方はガン見だ。
もう目が$マークだ。
「真に知りたい情報は鎌の様な武器を
使う黒装束の者の情報だ。」
二人の様子を注意深く見ながら
俺はそう言った。
うーん、よく分からない
空振りかもしれないな。
「そいつが偽勇者を襲ったとの情報が入ってね。」
「そそそれがどどどどどうしてマフィアに」
おいアリア
どうした?
「アリア、イーさんは調べに来たんじゃ無い
全部、調べ終わった上で乗り込んで来たんだ。
・・・なぁ化かし合いは止めないか。」
真顔だと結構渋い表情の中年・・・は失礼かな
でも若者では無いよね。
リカルドはそう言って来た。
ここまで見た彼の表情。
潜んでいた所、開いた扉でバツの悪い表情
未知の棘の罠に恐怖した表情
金塊に目がくらんだ表情と
ロクなのが無かったが
これが普段の表情なのだろう。
「真実を得る為の最短距離を希望する。」
なんだ
何を勘違いしているんだ。
こっちはまったく白紙なんですけど
でも、それを言うのはすごく恥ずかしい気がしたので
頑張ってカッコつけて俺は言った。
表情も口調もパウルを参考にさせてもらった。
「分かった。会せよう」
「リカルド!」
責める様な声を出すアリアに
説得する様に語るリカルド。
「どうせ今夜明日が山だ。
最後に彼が来たのは何かの縁だよ。」
「・・・・。」
泣くのを我慢しているような表情だ。
なんか急に美味しくない感情が漂った。
これは仲間を思う気持ちか。
「来てくれ、分かっているとは思うが地下だ。案内する。」
「感謝する。」
えーここに居るのかよ偽勇者。




