第百九十九話 単独捜査
悪魔化での飛行は目立ちすぎるので
半魔化の状態で全力疾走だ。
ここでの重力操作は重くする。
普通の体重だと十分に踏力が伝わる前に
飛び上がってしまうのだ。
オーベルと追いかけっこをした時と違い
全力疾走だった為
回避が間に合わず、木とか
色々破壊してしまったが
頭に来ているせいで止まる事なく
むしろ途中から面白半分になぎ倒して行った。
計ってはいないが確実に
アモン2000より速い
ただ疲労の具合から走るを選択する事は無いだろう
疲れる。
やっぱり車輪ってすごい発明なのだ。
減速が面倒だったので
適当な土手に激突して停止した。
思った以上にめり込んだ。
軽い洞窟が出来た。
空いた穴は円形で
漫画のように人が走っているシルエット形の
穴にはならない。
一つ勉強になったな。
なにやら穴を覗き込んで
叫んでくる奴が居たが
強めの静電気で気絶させた。
我ながら一体何がしたいのか
こういう時は酒だな。
ヒタイングの繁華街まで丁度来た。
もうすぐ日も落ちる。
飲んじゃおうもう
酒場付近まで来て
ひとつ問題に気が付いた。
人状態のチンチクリンだと酒を売ってくれない。
そしてこの子供の体だと酒が美味しくないのだ。
かと言って半魔化して大人形態を取ると
食事は勿論、酒も味がしない。
金属製の疑似胃袋に貯めるだけだからなぁ
考えた挙句、半魔化の
冒険者ゼータで酒の味を解読する練習にすることにした。
どうせだ、偽勇者の情報も仕入れてみるか
俺は冒険者ゼータに変化、装備は周囲の
冒険者と大差ないのでこのままだ。
大地の盾を模したラウンドシールドと
最近やっと作成出来るようになった感謝祭の片手剣だ。
さて情報が手に入りそうな
怪しくて、それで繁盛しているお店を
探す為に繁華街をウロつくが
人々の視線がすんごい
やっぱりこの青紫のロンゲと青と赤のオッドアイは目立つなぁ
ストレガはいつもこんな視線にさらされているのか
いや
あいつは単独で夜の繁華街を歩かないか
それにしても木魚みたいに人の頭叩きやがるわ
ラッキースケベを全てブロックするわ
ムカついた。
俺の邪魔がそんなに楽しいか
そう思って歩いていると女性に捕まった。
「イケメンのお兄さん、うちで飲んで行かない」
客引きか
はぁ・・・積極的に話しかけて来るのは
俺をカモとみている者だけだな
どこに行っても同じなのか
虚しいぜ。
瞬間的に沸騰した俺は
悪魔光線で吹き飛ばしてやろうかと
思ったが、流石に飲むどころでは無くなる。
思いとどまり客引きに聞き返した。
「流行っている酒場を教えてくれないか」
「丁度良いねぇ、それならウチがこの街で一番」
阿呆か。
まぁでも仕事だからしょうがないか
「流行っている店は客引きなんか使わない。」
仕事、金目的でしているなら
金で言う事を聞いてもらうか
俺は懐から金貨を客引きに手渡し再度尋ねた。
上機嫌になった客引きは、とあるお店を紹介してくれた。
礼を言って去り、その店に向かった。
西部劇か駅の改札みたいな
なんの役に立っているのか今一疑問を感じる扉だ。
それを跳ね除け店に入ると
いきなり人が飛んできた。
俺は首根っこを掴んでキャッチした。
「成程、これで壊れない扉だとコレになるのか」
早速、疑問が解決した。
呪文を唱えるのが面倒だったので
かつてチャッキー君を蘇生した
電気ショックで適当に電気を流し込んでやる。
そのタイミングに合わせてカエルの玩具の様に
四肢を伸縮させる男。
飽きた所で横に放り投げた。
襲い掛かって来ない所を見ると
気絶してくれたようだ。
さっきの客引きといい
この街は分かりやすい人が多い
助かるな。
ケンカ相手と思われる人物が
動揺の色を隠す事無く俺を凝視していた。
取り巻きも同様だ。
しかし、何も言って来ないようなので
俺は無視してそいつらの横を通り過ぎ
一直線に奥のカウンターに向かう
真ん中辺りに居るバーテンダーは
明らかに他の店員と雰囲気が異なった。
こいつがマスターだろう。
マスターって言えば
ナリ君もそう言って俺をおだてているだけで
単に利用しまくっているだけじゃあないのか
なんで彼の偉業とやらに俺が全面協力せにゃならんのだ
ちょっと思い出してムカついた。
オーラが漏れたかもしれんが
いいか
よっぽど怖い顔になったのか
マスターの前にいた客は
急いで代金を払うと
俺の為に場所を空けてくれた。
うん
やっぱりイイ人が多いな。
この調子で行きたいモノだ。
「悪いね。」
すれ違いざまそう言ったのだが
男の返事はなんか聞き取れなかった。
あひゃあひゃ言っていた気がする。
聞き取れないのは
俺に聞く気が無いせいかもしれない。
「お兄さん、この辺じゃ見ない顔だねぇ」
マスターは気圧される事無く余裕だ。
もしかしたら相当強いのかもしれない。
初老のダンディ、ロマンスグレーなマスターだ。
引退した冒険者かな。
「今日着いたばかりだ。」
「飲んでる場合じゃないと思うよ。早く逃げた方がイイ
お兄さんが妙な技で気絶させた男、
あれクリシアマフィアの一員だよ。」
その言葉を聞きながら俺はマスターの前に
着席した。
丸い座面の背もたれの無い
なんか立ってんのか座ってんのか微妙な高さの椅子だ。
「ふうん、そいつはツイてる。」
丁度、その情報が欲しい
向こうから来てくれるなら手間が省ける
親切な人が多すぎでちょっと怖いぐらいだ。
俺は懐から金貨をカウンターに置いて
マスターにスライドして渡した。
マスターは金貨を摘まみ上げると
チラ見していった。
「店を買い取る気かい」
「それで望みの情報が手に入るなら
そうするが、後何枚あればイイ」
「はは、いよいよになったらお兄さんを頼らせてもらうかな」
「なんか強いの頂戴」
マスターは馴れた動作で豪華なボトルから
金属製のジョッキに一杯注いで出してくれた。
俺は感覚器官の感度を上げて
酒の匂いを嗅ぐ
穀物系から蒸留させアルコール濃度を上げた酒だと分析出来た。
うーん、つまらんワクワクもしない
一口口をつけて舌に感覚を集中させるが
アルコール度数を分析しただけだった。
舌は電気信号で反応しているが脳が味に換算してくれない感じだ。
「クリシアマフィアに首を突っ込むのは
止めて置いた方がイイんだけど
そう言っても聞かないよね。」
「直接だと店に迷惑が掛かるか
それは本意では無いな
良い情報屋を教えてくれないか」
マスターはさり気無くカウンターの下から
一本の鍵を取り出して囁いた。
「最上階のマスターキーだ。
一度、店を出て裏の非常階段から
404の部屋で待ってな。マフィアには
もう帰ったって言って置くよ」
「済まない。」
俺はもう一枚金貨を置くと
代わりに鍵を手にして席を立つと
マスターは呟いた。
「黄色は多すぎだよ。次からは銀にしなさいな」
いや銀は武器で使うんで貴重なんですよ。
「他ではそうさせてもらうよ。」
俺はそう言って
店を出て裏口に回った。
石造りの四階建ての建物
それに後付けで作った木製の非常階段だ。
言われた通り四階まであがると
施錠された扉がある。
デビルアイで解析するが別段罠は無い
俺はマスターキーを複製し
そちらを使って開け、404号室にも
それを使って入った。
404号室は洒落た感じの個室だった。
上の階は宿泊施設なのだろう。
適当な柱に指を当て盗聴をした。
「紫髪野郎はどこにいった」などの怒号が聞こえたが
マスターは打合せ通りに答えてくれた。
罠じゃなかったのか
しばらく待っていると
このフロアの廊下を歩く足音を拾う
二人だ。
1人は体重40kg程度、女子か子供か
もう一人は70kg程度、こっちの足音に
合わせて聞こえる僅かな金属音から
鎧などは着ていないが帯剣はしている様だ。
俺の部屋の前まで来ると
鍵を開け扉が開く音がした。
向かいの部屋に入ったのか
いや
入ったのは70Kgの方で
40Kgは数歩、歩いた。
そして扉がノックされた。
はいはい
仲間がそばに控えているのね。
感心感心。
・・・俺は孤独なんだなぁ
ここで妙な反応に気が付いた。
金属探知が少量だがまとまったミスリルを検知したのだ。
なんだと
これはにちょっと驚いた。
俺以外に精製に成功した者がいる証拠だ。
魔法を使用する暗殺者
最初に頭に浮かんだのがコレだ。
割りばし一本程度でも暗殺者なら
事足りるからだ。
やっぱり罠だったか
まぁイイやどうせ返り討ちだ。
半魔化の俺には毒はどうせ効かない
ミスリルで魔力を集中伝達させようが
この鋼の悪魔ボディにダメージなんて入りっこないのだ。
フヒヒ
どうやっていたぶってやろうか
奥で控えている仲間も半殺しにして
マスターに放り投げ「追加よろしく」って
ダンディに言ってみるか。
戸惑った様子で二回目のノックが聞こえた。
あ
ゴメン
妄想入ってた。
「どうぞー。」
「・・・鍵が」
若い女性の声で返事が聞こえた。
何?オートロックだったけ
俺は重力操作で浮遊しながら扉に
近づきデビルアイで鍵を解析した。
オートロックでは無い。
自分で開ける事を警戒しているのか
近づいて手を塞いでしまうより
距離を取り、両手が使える方が良いもんな
なるほど
俺は感心して
扉を開けてやる。
「どうも」
そう言って
入って来たのはワゴンを押したメイドだった。
メイドはワゴン押しながら
ズカズカと室内に入って来た。
俺はちょっと混乱した。
あれ?
情報屋じゃないのか
え
でもミスリルは・・・。
俺は金属探知の感度を上げてメイドを走査すると
ミスリルは首の辺りにある事が分かった。
部屋の中央まで入ると
ワゴンから手を離して振り返り
メイドは言った。
「扉閉めて」
この言葉少な目な口調
ミスリルのネックレス。
ツナギの作業着と違い
メイド服でメイクするとまるで別人なんだな。
会いたかったぞ、アリアちゃん。
それにしても
女は化けるな。




