第百九十八話 呪いの正体
取り合えず歓迎の宴が開催される事になり
執事・メイド軍団は退室していき
騎士団も通常の配置に戻った。
陛下の部屋には俺達とブットバスだけだ
テーブルが運び込まれ
宴まではまったりだ。
「たんせいせいしょく?」
翻訳機能がどう伝えたのか
分からない事が欠点だ。
俺の言葉を首を傾げて
皆聞き返して来た。
呪いの正体だ。
単性生殖
メスが単独で子孫を残す事
こんな認識でいいだろう。
「呪いが再発する可能性は?」
ブットバスが心配そうに
問い詰めて来た。
俺は安心させるように笑顔で答えた。
「オコルデに関しては無い。
ただ子孫には出る可能性がある。
多分、極秘なんだろうから
答えなくてもいいが」
ヒタイング
オコルデ以外は人族だ。
恐らく、もしかしたら建国当初から
マーマンは王一人だったのかもしれない。
繰り返す単性生殖が遺伝子を壊した。
「近親者ばかりの村落は呪いが起こると言われていますね。」
顎に手当てバイスが答えた。
遺伝子ウンヌンは無理か
インブリードと言われ
競走馬などでは特定の血統を保つために
計算されて行われているが
劣性遺伝など問題点がある。
人の場合も当然で
キチガイやかたわなどが生まれやすくなるのだ。
オコルデの場合は近親ですらない
余計に遺伝子が壊れる危険が大きかったのだろう。
戦争時に発症したのは
たまたまなのか
生存の危機、そのストレスがトリガーに
なったのか調べようが無いが
噂はどれも外れだ。
呪いでは無いのだ。
「解決する方法は無いのか。」
オコルデが安心と分かり
落ち着いたブットバスだが
問題の根本的解決はしていない
先の心配をしていた。
「ある。オスを探してこい。」
「・・・陛下。」
「良いでしょう。この方は全てお見通しです。
隠し立ては愚策であるばかりか
恩人に対して仇名す行為です。
私が許可します。お話しなさい。」
やっぱり秘密事項だったようだ。
オコルデの許可をもらったブットバスは
ヒタイング王族の歴史を語ってくれた。
俺の指摘通り、代々女王が独力で卵を
産み落として継いで来たのだ。
部屋に飾られた見事な油絵
オコルデの肖像画だが
明らかに古すぎだ。
何代か前の女王を描いた物なのだろう
推理モノじゃないが
答えは最初から俺達の目の前にあったのだ。
「代々、捜索はしてきたのですが・・・・。」
成果無しだそうだ。
海に面した国
港や船が発達するのは当たり前だが
もっと切実な隠れた理由に駆られた発展だった。
帆船を上回る性能を誇る蒸気船
この入港を拒むどころか大歓迎だったのも
裏にそんな理由があった。
上手くその技術をモノに出来れば
今まで行けなかった遠海にまで
その捜索の手を伸ばせる。
そんな希望があったのだ。
ババァルを見つけるより大変そうだな。
そう思うと急に親近感が沸いて来た。
「人の男性では駄目なのですか」
バイスがそう聞いた。
お前が言うと口説いてる様に見えるな。
まぁ美男美女だから絵になるが
ふとナリ君がちょっと殺気立っていた。
なんだ、もしかして御妃にしたいのか
無理だろ
同族を探しなさい。
しかし、バイスの疑問も最もだ。
今のオコルデはどう見ても
人族の美女だ。
髪の色だけ独特な青み掛かったシルバーだ。
サンマとかイワシみたいだ。
顔を見合わせるオコルデとブットバス。
人族の姿が安定したのは
今さっきだ。
考えるとしたらこれからなのだ。
見合わせてお互い答えられず
同じタイミングで俺を見て来た。
答えを求めているのだ。
俺は椅子から立ち上がりながら
ズボンを下ろし
「たた試してみましょう。」
と言うつもりだったのだが
二回目の た でストレガのツッコミが入った。
速いよ。
もしかして余裕綽錫で殴られてるの
俺が一番回数多いんじゃないのか
タラスクか俺は
仕方が無いので真面目に答えた。
「出来る。人状態での機能は人のソレと
何ら変わりは無い、ただし妊娠中の
変身が制限される恐れ・・・つうか
しない方がいい」
お腹の胎児が卵に変化対応するか
そんなの分からない。
「後・・・生まれて来る子は
マーマンではなくただの人族に
なる可能性が高い
血を残したいなら、やはり同族しかない」
人の遺伝子にマーマンの遺伝子を
組み込めるかどうかだが
人状態で受精したのなら可能性は低い
低い
低いが無くは無い
もしかしたら
ライカンスロープの出発点は
こんな形なのかもしれない
アルコ
ベアーマンは稀に出る突然変異と
言っていたが遠い祖先に人も混じっていたかもだ。
ただ
そんな研究に付き合う気は無いし
そもそもオコルデを実験体にする気は無い
大体ン百年単位で見て行かないとならない
付き合ってられるか。
種付けだけは協力しますよ。
ってまたストレガが俺を睨んだ。
お前はエスパーなのか。
その辺はこれからゆっくり考える事にするそうだ。
その後は報酬と言うかお礼の話になった。
「これ程の恩に釣り合う礼を用意できるとも
思えなく心苦しい限りですが・・。」
オコルデを俺のハーレムに
無理か
王だもんな
じゃ
ブットバスでいいか
「礼は不要です。」
素敵な笑顔で答えるバイス。
カッコイイねー
でも
なんでお前が決めるんだよ。
礼を受け取るのは俺だろうが
「いや、要るぞ」
たまらず突っ込む俺だが
え
バイスを始めナリ君もストレガも
責めるような目で俺を見た。
ちぃ
このお人好し共が
なんもしてねぇクセに
俺を非難する資格は無いぞ。
負けるか
俺は続けた。
「俺達がここに来た理由のひとつに
ヒタイングでの捜査活動が含まれる。
それを円滑に行う為の免状みたいなのを
発行してもらえないか。」
振りかぶった余裕綽錫を
慌てて戻すストレガ。
お前なぁ
何だろう
急にやってられなくなって来た。
宴の用意が出来たそうで
移動する事になったが
不機嫌MAXだ。
俺は誰にと言うワケでも無く
「俺は遠慮する。勝手にやってろ」
そう言い捨てて窓から脱出した。