第百九十三話 禁断の城へ
王は城から出られない。
まぁ気軽に出ては来ないモノだが
決して出られないとなると話は別だ。
旧ヒタイング王国の現在の王は
決して城から出る事は出来ないのだ。
一説によると
一説と言っても
噂レベルの説だが
バルバリスとの戦争時に
呪いを掛けられ人の姿で無くなったと言う。
この呪いが
バルバリスの司教による攻撃説と
敗戦濃厚になったヒタイングが
逆転を計る為に呼び出した悪魔による説
元から化け物で人の振りをしていた説など
もう色々だ。
触らぬ神になんとやらだ。
幸い王城も港町から外れた所にあるそうで
ひっそりと、引きこもるように
今に至るそうだ。
俺達は馬に乗る騎士隊に護衛されながら
キャリアを王城に向け走らせていた。
王にかき氷食わす為だ。
いいでしょう
行きますよ。
「メタめた」響き情けないですけど
みんな笑うけど
意味は高度を越えた高度とか
究極の金属とか
結構深いんですよ。
それに
オーナー悪魔ですから
求めるならば授けますよ。
「司教が呪いを掛けたってのは・・・。」
着くまで退屈なので
運転しながら隣に座るバイスに何気なく聞いた。
「親父ですら生まれる前の戦争ですからねぇ
私が知りうる限り、そんな術は教会には無いですよ。
ただ・・・。」
「秘術か。」
「はい。」
やっぱりご存じですか
そんな気持ちの篭った返事だった。
「それは無いな。秘術は基本にして絶対
神の御業の再現だ。悪を滅ぼす術はあっても
呪いをもたらすようなものは無い。」
「そう・・・ですか。」
ホッとしたようだ。
ごめん嘘
神側にも呪いある
今も俺とミカリンを縛ってる。
ただ
戦争で相手に使用するには選択しない術だ。
秘術は確実に使用者の命を削る。
負けそうならともかく
ましてや勝っていたのだ。
その状況で嫌がらせの為に命を掛ける
司教がいるとは思えない。
「つか、まだ生きてんのか、王何歳なんだ。」
「当時の王が生きている。
代替わりしているが
呪いも受け継がれている。
この辺はハッキリしません。
ただ王の身が只ならない状態である事は
間違いありません。・・・ハンス様から聞いていますよね」
「・・・。」
何をだ
思い起こそうとしている沈黙を
どう勘違いしたのか
バイスは話を続けて来た。
「数年前、極秘で禁断の城にハンス様が
訪れ治療を試みようとしたのですが
神の御業をもってしても不可能と・・・。」
成程、現時点で最高の回復魔法の使い手だろう。
過去はどうあれ今はヒタイングはバルバリスだ。
「酒を飲むと、当時の事を親父が良く話すのですけど」
酒止めさせた方が
いや
そのままで行こう。
「親父は元敵だから、そこまでする必要は無いと
意見したんですよ。そしたらハンスさんが・・・。」
そんなケツの穴の小さい事言ってるから駄目なんですよ。
魔王だって救って見せる。
我々が我々こそが、その位言わないといけないんです!!
「だそうですよ。カッコ良いですよねー。
私が本気で司教を目指そうと思ったのは
この言葉のせいかもしれないですよ。」
なんだろう
顔から火が出る程恥ずかしい
なんでだ。
忘れろ
それが一番だ。
「しかし、ハンスでダメか・・・。」
この事でいくつかの確定事項がある。
呪いでは無い
外的な要因による負傷、病気でも無い
だ。
恐らくだがハンスはヴィータの奇跡を
ある程度、再現出来るハズだ。
遺伝子に書き込まれた「こうあるべき」と言う
状態には笛吹いて整列みたいな感じで
直せるハズなのだ。
以前、俺は結果だけを見て勘違いし
笛を吹かず、整列とも言わず
1人1人掴んで移動して並べる行為をしてしまった。
ヴィータは治療では無く「改変」と言っていた。
この時の経験が生きてヨハンの改造が成功したので
良かったわけだが
良かったんだ。
うん。
考えを戻そう。
そうなると噂レベルの中では
元からそう言う生き物が人の振りしていた。
これが有力だ。
海岸を右手に西方向へ
クリシアとは逆方向になる
繁華街は意外と狭く、すぐに住宅街に
左手に森をかすめながら
かつての首都を通過した。
石造りの半壊した建物だらけだ
壊れた家の中央から若木が
結構な高さに伸びている事から
戦争が昔の事だと言う事を感じさせた。
自然の造形としては
不自然に整った台形の丘が見える。
王城跡だ。
ってか、どう見ても人が住んでいる様には見えないのだ
だから跡と表現した。
先導する騎士は減速する事無く
通過していく
バイスの説明によると
敗戦が迫った折に王族だけ
今の別宅に移動したとこの事だ。
そこまで攻め込まれているのなら
さっさと降伏すればいいものを
あれですか
完成の暁にはバルバリス兵などってな感じの
最終兵器でも作っていたのか。
そうこうしている内に
城が見えてきたが
これは豪邸ではあるが
城と呼ぶには規模が小さいな。
迎賓館も隣接されたドーマの政治執行部の建物の方が
まだ規模がデカい。
しかし、この立地は良く出来ている。
この先は崖と海しかなく
この道は城に向かう為のみの道だ。
警護しやすい。
その先に用事がありまして
通りすがりなんですよエヘヘ
と言う言い訳が出来ない。
ベレンの冒険者協会のスィートも
良くで来ていた。
一般の客室の上にスタッフのフロアがあり
その上がスィートだ。
ここはスタッフだけで、この上はスィートですが
と言って不審者を止められるのだ。
道に迷いましてエヘヘと言う言い訳が通じない。
「メタめた」の最上階である3階が
女子部屋なのも同じ理由からだ。
俺のこの配慮になんの感謝も無いが
まぁそれはいい。
門をくぐり
囲まれた騎馬に誘導されるまま
正面の広場を進むと正面玄関に繋がる。
少し待てと言われた。
俺は運転席から客室に引っ込むと
「何してんの。」
白装束になったナリ君がいた。
「マスター。これでレベルはどうですか」
ナリ君がそう聞いて来たので
メニューを開き、そのまま答える俺。
「・・・24だが。」
「こんなところですかね」
してやったり顔のナリ君だ。
よく見てみると70衣装の上に
白の腰巻きと
肩には白のマント
そして白手袋だ。
「何がこんなところなんだ。」
折角、最適解を探したと言うのに
俺がそう聞いたら
何でそんな事を尋ねるのかと不思議そうに
ナリ君は答えた。
「警戒されると同行させてもらえないと思いまして。」
一瞬で脱衣して70になれる
白いカバーって事か。
ああ
そうか。
俺も慌てて工作員にジョブチェンジして
レベル偽装のスキルを使用して
・・・どの位ならいいんだ。
ええい、弱けりゃいいんだろ
3だ。
子供だし3でも立派なもんだ。
そうこうしている内に
女騎士が戻って来た。
執事やら、怪しげなローブを被った者もいた。
出て瀬列する様に言われた。
素直に従い、俺達はキャリア前に並ぶ
片手に水晶球を持ったローブの者が
値踏みする様に一人一人見ていく
俺の前に立った時に鼻で笑ったのが見えた。
レベル偽装しておいて良かった。
あの水晶で安全かどうか
万が一暴れ出しても騎士団で止められるかどうかを
見ているのだろう。
そしてストレガの前に立った瞬間
「な・・・何じゃと?!」
それまでの怪しい雰囲気が台無しになる程
甲高くて情けない声を上げるローブの男。
「何ですか失礼な。」
腕を組んで睨み返すストレガ。
見えづらいのであろうフードを
跳ね除けるローブの男。
年は・・・初老ってとこかな。
ストレガの顔をまじまじと見て
確認というか、思い出したのか
更に甲高い声で驚いた。
「まっ魔法鬼神じゃないか。」
ローブの男の叫びを聞いた取り巻きの
俺達を連行してきた騎士達は
抜刀して構えた。
「その呼び名は好きではありません。
魔導院・院長ストレガです。
何か問題でも」
動じる事も無く堂々しているストレガ。
・・・問題だろ。
「馬鹿者ども!誰が抜刀の許可を出したか」
唯一落ち着いていたのは
例の女騎士だけだった。
彼女は狼狽える部下とローブの男その他を
一喝して納刀させると
頭を下げて来た。
「失礼をお許し下さい。」
早目に止めよう。
俺は一歩前へ出て言った。
「いや、先に言って置くべきだった。
王に謁見するのに強力な魔法使いがいるなんてな
防衛上問題ありまくりだ。
こちらの配慮が足りなかった。
・・・・ストレガ。」
まだ腕を組んで立っているストレガに
俺は顎で促した。
「はい。こちらこそ失礼致しました。」
そんなにシュンとするな。
別に怒った訳じゃないぞ。
これは後でフォローしないとな。
「勝手に呼び出したのはこちらなのに
そう言って頂けると助かる。」
少し戸惑った表情になる女騎士。
こんなチンチクリンのガキが魔導院院長より
偉そうな態度だ。
怪しいよな。
かと言って本名を言えば
もっと混乱させてしまうか
ストレガでコレだもんな
止めて置こう
立場は適当に親戚とかでいいか。
えーと偽名偽名・・・。
「僕はリックデアス。リディって呼んで。」
仲間が全員「プッ」とか噴き出し掛けた
おい協力しろ