第百八十七話 再びのエルフ里
歓声に応えていると
エルフの何人かが俺の背後を指さした。
振り返るとアモンキャリアがこちらに向かって
走って来ていた。
懸命に操縦するクフィール
その横に戦闘態勢で立つナリ君。
大人しく待つより加勢する気だったのだろう
それにしてもあの距離をクフィールの魔力量で
よく動かせたモノだ。
だが限界の様だ。
里が無事な事
バングが全滅している事が見て取れたのだろう
緊張が切れると同時にクフィールも
事切れたようだ。
キャリアは見る見る失速し
それに釣られ
ナリ君が前のめりに倒れ
そのままキャリアに轢かれた。
「若ーーー!!」
絹を割く様なリリアンの悲鳴が響き渡った。
「何をしているんだ。」
俺は慌ててキャリアに駆け寄り
ナリ君を救出した。
「鎧のお陰で無傷です。」
丹精込めて作った鎧
初めて役立つ出来事が
こんな事で俺は悲しいが
とにかく無事で良かった。
運転席で昇天しているクフィールをどけ
魔力譲渡してやりストレガに渡すと
俺はキャリアを動かして
エルフの里に入っていった。
外から見た感じでは無事だったのだが
里は結構やられていた。
3型の砲撃が主な原因だ。
倒壊した家屋や
大穴が開いた道など
惨劇の爪痕がまざまざと刻まれていた。
「アモーン!!」
豪華な鎧を着こんだ偉そうなエルフが
びっこを引きながらも駆け寄って来た。
里の長を務めるプラプリだ。
「助かったよ。いつも済まない」
油汗が酷い。
足をやられているのか。
俺はすかさず短杖を装備し人化すると
挨拶もそこそこに
回復呪文を掛けた。
「ありがとう。欲言わせてくれるならば
他の負傷者にもお願いできないだろうか。」
「私もお手伝いします。」
キャリアから出てきたバイスが
そう申し出て来た。
「頼んでもいいのか。」
教会としてどうなんだろうと
思い、そう言ったのだが。
バイスはやる気満々だ。
助かる。
大量の負傷者など想定していなかった。
今のメンツで回復呪文が使えるのは
俺とバイスだけだ。
プラプリに案内され
負傷者の運び込まれた建物に行くと
戦士、一般人、大量の負傷者がいた。
重傷者を優先して二人で片っ端から
治療していく。
「ぐ・・・」
膝を着くバイス。
メニューを見てみると案の定MP切れだ。
当たり前だがヨハンに比べると少ないな。
「アモンさんすいません私はもう」
「おりゃあ!」
「ふわぁああああ!!」
「イケるな。」
「何ですか今の?!」
魔力譲渡は初体験だった様だ。
余程驚いたのか泣きそうな顔だ。
俺は仕組みを説明して
バイスに治療をなまはげになるまで
続行させた。
「うぉおおお悪い子はいねえですかー!」
命に関わる様な負傷者は
取り合えず済んだ。
ここで一旦休む事にした。
「マスター。バイスはどうなってしまったですか」
豹変したバイスの様子にナリ君は驚いていた。
自分だってミガウィン族地方のバング戦で
なまはげ化を経験しているだろうに
そう言ってみたのだが
ナリ君いわく
ハイになっていたのは覚えているのだが
何を口走っていたのかを
ちゃんと覚えていないそうだ。
「休ませれば良いのですね。」
ストレガはそう言って呪文を唱え
余裕綽錫でバイスの後頭部を打つと
バイスは安らかな顔で即眠りに落ちた。
そのまま倒れ込むバイスの襟首を
ダイレクトに掴むと片手で
脱いだ上着でも持つかのように
掴み上げ空いている場所に寝かせた。
華奢な少女が成人男性を怪力で
扱う姿は周囲から奇異の目で見られた。
妹だと説明したら
皆、すぐに納得した。
これはこれで嫌だ。
前回、宴を開催した大広間は
今は負傷者で埋め尽くされているので
里長の執務室まで移動して
話を聞く事になった。
「へぇーペルナの奴がねぇ」
以前俺と魔法勝負をしたエルフの少年は
今では里で一番の攻撃魔法の使い手で
バング相手に大活躍だそうだ。
あの生意気な一面は
俺との勝負の後、すっかり影を潜め
別人の様に真面目に努力を重ねる様になったそうだ。
ちなみに今はマインドダウンでぶっ倒れているそうだ。
プラプリから俺達が去った後の事を詳しく聞いた。
ブンドンの資料と合致したが
生々しい、危機的状況を潜り抜けて来た感じだ。
やはり数字だけで見るのと現場の意見は大違いだ。
俺はバルバリスで採用された
対バング用の武器を説明し持っているだけ
提供する事を申し出た。
「本当かい!これは助かるよ。」
魔法部隊に頼りっきりで立場が無くなりそうな
戦士部隊には朗報だそうだ。
「後、ネルドで採用された・・・。」
クリスタルを矢尻に付ける方法だ。
矢に加工する作業は問題無いだろう
クリスタルだけ適当数渡す。
「これで、戦士部隊、弓兵部隊、魔法部隊の
3部隊で迎え撃てるようになる!!」
勝つる。
そんな意気込みになるプラプリ。
俺は念のため俺の予想も言って置いた。
「あくまでも予想なんだがな・・・。」
大規模襲撃失敗後はバングは
現れなくなる。
ミガウィン族地方の例を挙げ
バングの進行ルート設定の話をした。
「そりゃ、現れないに越した事ないけど」
日々追い詰められて行く中で
絶望的状況になりかけていた。
武力増強は明るいニュースだ。
「だな、現れない可能性は伏せて
警戒を怠らない方が良いだろう。」
現れないと限ったワケでは無い。
もしかしたらもっと大群で襲撃してくる
可能性だってあるのだ。
「救世主様!!」
その叫び声と同時に突然扉が開いた。
聞き覚えのあるおっぱい
じゃない声だ。
「プルか。無事なんだな」
俺は席を立ち振り返り
両手を広げハグプリーズの体勢を取った。
もちろん冗談だ。
しかし、そのアクションに反応して
あろう事かプルはそのまま飛び込んでハグしてきた。
「救世主様ーーーっ」
ダークエルフであるプルには
二つの異次元の柔らかさを持つ
「どんなアモルファス構造なんだろう」物体を持っている
それが身長差から俺の
首の辺りを圧迫してくる。
あ、もう死んでもいいかも知れない。
一瞬で天国に行きかけたが
視界の隅に悪鬼羅刹化しようとしている
ストレガが目に入り
背筋が凍った。
まぁまぁと二人をなだめ
改めて無事を祝う。
不自然じゃないよな。
落ち着いた所でプルが不意に
思い出した様に言った。
「長、そういえば偽者の話はされたのですか」
「・・・すっかり忘れていたよ。」
プルに言われてプラプリも
今、思い出した感じだ。
「偽物?」
俺がそう促すと、プラプリが説明をしてくれた。
「ああ、アモンの偽者が一昨日・・・だったかな
現れて、えーと・・。」
「今は牢です。」
プルが担当したのか
うろ覚えのプラプリを補足した。
「俺の偽者が?」
「ほほぉ」
ストレガの目が心なしか輝いた様に見えた。




