第百八十六話 エルフの里 強襲
いわゆるベアリングで
回転する支柱などを支える部品である。
それが軸受けだ。
違う
時空系だ。
言われてみれば四大元素で固定された
空間を保持しているのは
固体である土だけだ。
風は流動することが原則で
時間停止の際には存在の力が作用しない
火は一定の形と重さを持たず
水は固定された形が無い。
時空系と相性の良いのも
そう考えれば納得なのか。
そこまで考えて
ストレガが俺の反応を待っているのに
気が付いた。
「・・・外れました・・・か?」
自信は無いのか。
しかし、ストレガは俺と違って
魔王図鑑を熟読しているし
魔導院の院長を十年以上も勤め上げた
実績の持ち主だ。
攻撃系以外読み飛ばした
うろ覚えの俺とは違う。
そのストレガの考察だ。
正解の可能性は高いと見るべきだが
「検証する方法がな」
「ですよね。やはりお兄様もそこで・・・。」
これはストレガなりに
改めてクフィールの事を考えていたのだ。
元々面倒見も良く責任感の強い娘だ。
自分の部下であったクフィール。
彼女に隠れた才能などと言う
俺の適当なでっち上げのせいで
悩みぬいてしまったのだろう。
悪い事をしてしまった。
しかし、嘘から出たなんとやらだ。
もし本当に時空系なら
これは貴重だ。
魔王ビルジバイツをして
そうそう誰でも使える能力では無い
と言っていた。
魔界ですら貴重なら
人間界ではもっとレアになるはずだ。
知らない事は教えられないし
下手をしたら、目の前にあっても
気が付きさえしないかもしれない。
ストレガも俺も時空系の魔法は無い。
・・・
いや、時間停止だ。
前回、俺はそれを使用してラハを仕留めた。
その一回こっきりだった。
その後、使用した事は無い
良く出来たな前回の俺。
今、出来る気がしないのだ。
「調べようにも、教えようにも
出来る呪文が無いからなぁ。」
時間停止など大掛かりなモノで無い
初級の呪文は無いのか。
ストレガも同意した。
魔王図鑑にも該当する呪文は無かったとの事だ。
その日はそれ以上進まず
そこでお開きになった。
なんか切っ掛けか手掛かりが欲しいトコロだ。
翌朝、槍の納品を済ませると
ギルバートは代金はどうした良いか聞いて来たので
ベレンの協会に「メタめた」宛てに払う様に
頼んでおいた。
実は1本あたりの値段を俺も知らないのだ。
グレアと教会に任せっぱなしだった。
本来ならこのまま次の目的地はヒタイングなのだが
俺はバイスにエルフの里に立ち寄りたい旨を申し出ると
快諾してくれた。
出発はなんだかんだで昼過ぎになり
その日は途中で宿泊し
エルフの里に到着するは次の日になった。
徒歩で森を抜けるルートでは無く
多少、遠回りだが
ヒタイング側の街道まで回り込む
ルートを選択した。
アモンキャリアではショートカットの
森抜けコースは無理だったのだ。
街道から右折しエルフの里方面に入って
少し進むと異常に気が付いた。
道が荒れているのだ。
自慢のサスペンションが路面の凸凹を吸収してくれるが
速度が速ければ、合わせて衝撃も激しくなる。
何事かと奥から運転席まで出てきた
ストレガは路面を見て声を上げた。
「お兄様。この足跡は!」
ストレガは流石に見慣れているのだろう。
路面を荒らした原因。
この特徴的な足跡は
2型~4型大量の足跡だ。
俺は車を止めると叫ぶ。
「ちょっと片づけて来る。」
自分も行くと名乗り出るストレガとナリ君だが
時間が惜しい、ハグレが居た場合も考慮し
残ってもらった。
単独で行く事にした。
運転席から跳躍すると半魔化し
重力操作とストレガバーナーで一気に上昇
そこで悪魔男爵になると
エルフの里まで一気に飛行した。
数分で状況が見える位置まで来た。
エルフの里は無事だが
最終防衛ラインまで攻め込まれている状態だ。
真上まで到達した。
魔法部隊の魔力切れ寸前なのだろう。
エルフ側は絶え間なく打ち込まれる矢と
たまに見える緑色の光弾、ウィンドエッヂの光だ。
しかしバングの圧倒的な数の前に
里の防壁目前まで攻め込まれていた。
「良かった。なんとか間に合ったか」
俺は悪魔光線を手あたり次第に
上空から叩き込みながら
防壁前に着地した。
撃ち漏らしを見つけては
各個撃破していった。
先の視界が悪い。
大量のバングの煙化でデビルアイも
ブラックアウトだ。
その煙の中から砲弾が飛んで来て焦るも
直前で撃ち落とせた。
3型も居る様だ。
・・・向こうはどうやって俺を補足しているんだ。
などと思っていると
立て続けに打ち込まれ不覚にも被弾してしまうが
全然ダメージが入らない。
衝撃で少し後退しただけだった。
焦って損した。
腕鞭は効かないのはミガウィン族地方での
戦いで分かっていたのだが
3型の砲弾を食らったのは初だった。
「これ警戒しなくて良いな」
俺は肩の力を抜き
むしろ俺以外を狙った攻撃を迎撃する様に心掛けた。
後ろのエルフの里の被害を少しでも減らさねばならない。
自分への攻撃は当たるに任せて
丁寧に各個撃破して行く。
ものの数分で辺りは仮面とその破片だらけになった。
背後で歓声が上がっている。
だが漏れて来る恐怖も凄い。
転生組には懐かしい姿だが
新生組にはただの悪魔にしか見えないだろう。
えーっと、エルフの里では
チンチクリンでいいのか
俺は普通に人化すると
振り返り歓声に答える様に手を振った。