第百八十四話 ルート変更
「ひゃ・・・百体ですか?!」
バイスが素っ頓狂な声を張り上げて驚いた。
ついこの間たった1体にあれだけ恐怖したのだ。
百体など正気の沙汰では無いだろう。
頑張って馴れてね。
〇ナバ物置みたいに百でも大丈夫になってね。
「根拠を聞かせて頂きたい。」
ギルバートは嘘だと思っていない。
真面目な顔で俺に質問してきた。
随分、信頼されているんだな。
俺はネルドの状況説明から始めた。
「ええ、砦を奪還した知らせは
こちらにも届いています。」
定期的に表れていたネルドのバングが姿を消した。
これは恐らく、俺とダークの乱獲のせいで
供給より損失が上回った。
それでバング側は、このルートを放棄したのだ。
そして単独で各個撃破される事を恐れて
大群による一斉攻撃に方針を変更した。
それがたまたまミガウィン族の領地を
横切る新ルートだった。
ダーク(手下とだけ表現した。)が遭遇した1型は
今までのルートを変更する為に
山側からミガウィン族方面に変更する
その新ルート設定の視察及び何らかの作業に
従事していたのでは無いだろうか。
ルートは変更済みだった為
帰還の途中だったトコロで
ダークと遭遇したと俺は思っていた。
これがドルワルド方面に出現しなくなった理由だ。
そして折角の新ルートも
初戦でベレンに辿り着く前に
壊滅という悲劇を迎えた。
その後、出現した様子は無い
ビルジバイツはどこ吹く風状態だった。
恐らくミガウィン族は安泰だろう
ドワーフを楽勝で追い詰めたのに
それを上回る大群が一瞬でパーだ。
バングの間でミガウィン最強伝説が
語り継がれているかもしれない。
ルートを変更しない方がおかしい。
「それが・・・エルフの里方面だ・・・と」
ここまでの説明でギルバートは
冷や汗たらたらだ。
見てるこっちが体温上がりそうだ。
「この上昇傾向はついこの間までの
ネルドに酷似しています。
大規模侵略前の状態です。」
ストレガが補足した。
「で、だ。ミガウィン族領での失敗で
やつらが学習していると想定すると
エルフ方面以外の新ルートを」
俺がそこまで言うと
椅子を膝の裏で弾く様にバイスが
立ち上がり叫んだ。
「ヒタイングの1型目撃はもしかして?!」
「俺はそう思っている。
対策を全く施していない地域だ。
俺が敵なら笑いが止まらないね。」
「お兄様、笑顔は不謹慎です。」
バイスは大声のまま続けた。
「そんな、重要かつ危険な任務だなんて!」
「おいおい、9大司教は安くないぞ。
その若さで入るんだ。それなりの
偉業が必要ってもんだ。
逆に考えろ、楽して地位を手に入れれば
一生七光りって言われるぞ。」
俺の言葉に表情が変化するバイス。
恐らく今までも陰で言われ続けて来た言葉なのだろう。
「・・・それは、そうですが」
「見事やり遂げて見せれば
親を超える逸材に評価を変えられるぞ。
これまでのパウルの息子という呼ばれ方じゃあなく
パウルの方がバイスの親父って言われるようになる
・・・面白いと思わないか。」
バイスの目の奥に火が灯った。
おもしれぇ
革命なんて真面目に画策するぐらいだ。
バイスは大人しいお坊ちゃんじゃない。
野心を持て余しているボンボンだ。
これは
どんどん焚きつけよう
例えどんな結果になっても
面白い事は間違いないだろう。
「ゼータがついてるんだろう。
これ以上の好条件は無いぜよ。」
呆れ気味にクロードが言った。
ギルバートも続く。
「だな。バイス卿が要らないなら
ブンドンに下さいませんか。」
野郎に取り合いされても全く嬉しくない。
どうせなら美女に争奪戦を演じて欲しいものだ。
「すぐにヒタイングに向け出発しましょう!」
「落ち着け、こっちが先だ。」
天を仰ぐ様な姿勢になり
バイスは力が抜ける様に
椅子に座り込んだ。
忙しい奴だ。
「ああ、ですよね。エルフの里が
抜かれたらヒタイングを固めても無意味だ。
すいません・・・焦って混乱しています。」
基本、好青年だ。
弱ったイケメンって女子的にはどうなんだろう。
「守ってあげたい」とか思うんだろうか
ふと横のストレガを見てみると
見た事も無い冷たい表情でバイスを見ていた。
怖いので俺は直ぐに視線を正面に戻した。
「で、どうする。ブンドンはエルフを
見殺しにするのかい。」
「共闘したいのは山々ですが
ブンドンには攻撃魔法の使い手が居ない。」
俺の挑発に動揺することなく
ギルバートは冷静に答えた。
「先ほどの書簡・・・まだ目を通されてはいないのですね」
バイスが不思議そうにギルバートに言った。
「あ、後でと思っていまして・・・
少々お待ちを・・・えーと・・・」
ギルバートは慌てて懐から
封筒を取り出し、その場で読み始めた。
俺は気づかれない様にストレージから
そーっと魔族に支給したのと同型の槍を
出しておく。
「何?!対バング用の武器開発成功だってぇ」
「これです。持ってきました。」
「「わぁ!!」」
ギルバートだけ脅かすつもりだったが
他の面々もビックリさせてしまった。
怒られる前に
俺はもうすんごい早口で武器の原理を説明した。
「必要数を後で教えてください。
出来る限り都合しますよ。
エルフの里にも持って行ってあげたいので
全部は置いて行けないです。」
すぐに数を調べると言っていたが
少し時間が欲しいと言われた事と
キャンプ続きで馴れない者の疲労を考え
この日はブンドンに滞在することになった。
流石に全員はクロードの家に入りきらないので
ストレガ、クフィール、リリアンの女子組だけお願いし
ドーマより更に簡易ではあるが
ここにも教会があり、バイスはここで
俺とナリ君だけアモンキャリアだ。
夕飯まで空いた時間を利用して
クフィールのレベルアップだ。
クロード邸ですっかりくつろぎ体勢に
入っていたクフィールの首根っこを
掴んでブンドン周辺に出た。
「投石じゃ威嚇にもならないっすよー」
ごねるごねる。
「マスター。雷撃系を教えてみては」
新装備を試したくて仕方が無かったナリ君も
ついて来た。
「モノは試しか・・・。」
俺は静電気を教えてみたが
まるでダメだった。
見込み無さすぎて、直ぐに中止した。
「やはり土系しかダメなんだな。」
「特異体質っすー。」
「むぅ土系が有利な雷、水も全くダメとは・・・。
マスターもしかして彼女は土系ではなく
土系に有利な何か別の系統では」
特異体質で片づけて思考停止してしまうより
あくまで法則に従って仮定するならば
今のナリ君の仮説は理に適う。
確かに土系そのものも強力とは言えないレベルだ。
風では無い何か別の土に有利な系統。
そう土系は副次的なモノで
彼女の本来の系統ではないとすれば
納得の効果率だ。
「いい考えだ。」
「フッ」
「で、何か思いつくかね・・・。」
「ぬぅ・・・。」
色々試していくしかなさそうだ。
取り合えずは土系で呪文を増やしていくのが
即効性が高い対処だろう。
俺はスパイクと土壁をクフィールに教えるが
使い物にならなかった。
スパイクはくるぶし程度の高さで
強度と呼べるほどの結合は出来なかった。
砂場に乱入したいじめっ子のごとく
簡単に踏みつぶせた。
土壁も同様で背丈以上の高さからは
自重で崩れる有様だ。
「マスター。土系の事は専門外ですが
これは手強くないですか。」
「想像以上だ。レベルに見合わない弱さだ。」
適当に狩りながら進んでいた。
俺とナリ君には足しにならない経験値でも
クフィールには効果大で
基本レベルが9、魔法使いレベルと
投石のレベルも
この狩りで使用していないのに9で並んでいた。
やはり基本レベルが蓋をしていた恰好になっていたようだ。
レベル9ともなれば
そこそこの殺傷力の魔法が使えるハズだ。
俺は自分のスパイクの歴史を振り返って
そう思った。
やはりクフィール本来の属性を見つけないと
話にならなさそうだ。
日が落ちそうなのでブンドンに帰還する事にした。
落ち込むクフィールを二人で元気づけた。