第百八十三話 三度ブンドン
翌日の午前中にはブンドンに到着した。
ブンドンの村長兼冒険者協会支部長の
ギルバートは歓迎してくれた。
「今回は普通に入って来たんだな。」
「いつぞやはお世話になりました。」
「お仲間が変わった様だな・・・あっ」
ミカリンとアルコはお留守番だ。
キャリアから降りて来た面々を
見渡しギルバートは声を詰まらせた。
明らかにストレガを凝視している。
「ゼータ君、魔導院院長がどうして」
協会からクロードの奴も出て来るのが見えた。
・・・・。
面倒だからここでは冒険者ゼータでいくか
別に大丈夫だろう。
俺は半魔化ついでに冒険者ゼータに変化した。
「最近やっと力を取り戻しましてね。」
「ぜぜぜぜぜータ・アモンぜよ」
叫ぶクロード。
ぜ
多すぎだろ。
「兄がお世話になったそうで。」
俺の横に並んだストレガが
丁寧にギルバートにお辞儀をした。
「いえいえいえいえ、こちらこそ
お兄さんには助けて頂いたような物です。」
ギルバートは聞いた事の無い声で恐縮しまくった。
普段は一番偉い立場だが今だけは
かなり偉さが落ちるのだろう。
「うごわぁ!!」
ストレガとは反対側の俺の隣に並んだ
ナリ君が後ろから何者かに背中を蹴られて
前に飛んだ。
「ナリ君のクセに何偉そうな恰好してんのよ」
おお
ブンドンの女王だ。
元気そうで何より
「ちょまっ」
「何?王様にでもなったつもりなの
マントとか豪華な鎧でもう」
踏む踏む
「いや、我・・・あっ!あっ!」
ナリ君、超嬉しそうだ。
良かったなぁ
良かったなぁ。
「止めてください!!」
ここで前回とは違う状況になる。
前は居なかったからなぁ
リリアンが身を挺してナリ君を庇ったのだ。
「・・・ナリ君。あなたこんな小さな子を」
あ
なんかボーシスさん本気で怒ったっぽい。
それを感じたナリ君から
喜びの感情が湧き出す。
悪感情でないので半魔化だと不味いのなんの
「あなたこそ何なんですか
我が王にこのような無礼を働いて!!」
「あたしだって女王よ」
開き直った。
すげぇ嫌がってたんじゃ無かったけか。
そろそろ国際問題に発展しそうなので
ここいらで種明かしをしようか
俺はボーシスさんに
あの後、ナリ君に何が起こり
今何しに来ているかを説明した。
「嘘・・・本当に王様だったの・・・?」
真っ青になるボーシスさん。
知らなかったとはいえ王様を足蹴にした。
「正式に抗議します!」
「良い!良いのだリリアン」
興奮して喚き始めたリリアンを
最初強め、直ぐに優しく
ナリ君は諫めた。
「・・・若。」
納得行っていない様子のリリアン。
その頭を優しく撫で
ナリ君は立ち上がるとボーシスさんに挨拶した。
「お久しぶりです。元気そうで我も嬉しいです。」
すかさずナリ君の物まねをしながら
俺が続けた。
「もっと我を踏んでください。」
色んな人から怒られた。
「教会から全権大使として参りました。
バイス・ヒルテンと申します。」
混沌とする状況の中
ギルバートの隙を逃さず
話しかけるバイス。
「おぉ、すいません。知り合いだったもので
ついハシャイでしまいました。」
本題を思い出したギルバートは
いつもの顔になると「程ほどにしろ」と
言い残しバイスと連れ立って協会に
入っていった。
「っと俺も遊んでいる場合じゃないぜよ。
ボーシス、客人の相手は任せるぜよ。」
バイスとギルバートの後を追い
クロードも協会に入っていった。
その背中に「行かないで」と言いたげに
手を伸ばすボーシス。
バイスの用事が終わるまで俺達は
協会の一階で食事を済まさせてもらう事にした。
支払いの為
冒険者プレートを出そうとするボーシスを
ストレガが制した。
「私のがありますので。」
ストレガが取り出したプレートは
黄金に輝き1の番号だ。
くそぅ
ヨハンだけでなくストレガにも
抜かされているのか
まぁ14年もブランクが
あるんじゃしょうがないか
というか俺のプレートは無い
リスタート時の再構成の際
俺の一部と判定されなかったのだろう。
ストレージの何処にも無かった。
紛失扱いで再発行願えないものか
アレ便利だもんなぁ
ブンドンの規模では無理だろう
ベレンで聞いておけば良かった。
黄金に輝くプレートに目を奪われるボーシス。
やはり現役冒険者には効果絶大だ。
羨望の眼差しでストレガを見るようになった。
席に着き、それぞれ注文を済ませた。
「ボーシスさんは我を特別扱いしない
貴重な人です。我の事はいつまでもナリ君で
お願いしたい。」
ずっと踏みつけてと申しております。
「えーギロチンに掛けられたくない。」
踏む、それ自体には抵抗が無いのですね。
「我の力でそんな事は絶対させません。」
一生懸命に説得するナリ君。
横のリリアンは微妙な表情だ。
食べ終わらない内にバイス達は
用事を終え奥から出てきた。
そのまま近くのテーブルに座り
同様に食事を注文し始めた。
全員が食べ終わり茶を飲み始めた所で
ギルバートが俺に言って来た。
「ちょっと別室で話を聞いてもらえないだろうか」
俺はバイスを見た。
「私も同席しますよ。」
皆も付いて来たがったが
部屋がそこまで広くないので
俺とバイス、それとストレガの三人で
支部長の部屋に移動した。
「諸君らが去った後、何回か
エルフの里に現れてね。」
クセになっているのだろうか
バングという単語を伏せるようだ。
「無事、討伐している。君が残した
魔法部隊が最大限に機能しているとの事だ。」
俺を気遣って無事な事を即教えてくれるギルバート。
捕捉するようにボーシスが続けた。
「長がいくら礼を言っても足りないと
仰っておられました。」
ボーシスは連絡係でエルフの里と
ブンドンを行き来しているのだ。
礼ならダークエルフのプルを
俺のハーレムに差し出せば
それで十分なんだが
ストレガが怖くて言えない。
「エルフが優れているだけです。」
それだけ言って置いた。
「ただ気になる点があってね。」
ギルバートの話によると
襲来するバングの数、頻度とも
上昇傾向にあるそうだ。
「今はまだエルフの防衛力が
上回っているから問題は無いが・・・。」
限界はある。
疲弊もするだろう。
「日時や敵の数などをまとめた資料は無いですか」
ギルバートは自分のデスクの鍵付きの
引き出しから革表紙のバインダー的な
物を取り出すと手渡してくれた。
俺は内容を確認し
自分の予想を話す前に
念のため先に隣に座るストレガに説明し
意見を聞いて見た。
「・・・私もそう思います。」
ストレガは小声で賛同してくれた。
バングを相手にした期間は
俺より遥かに長い
そのストレガが賛同してくれたのだ
俺は自信をもってギルバートに言った。
「近いうちに100体を超える
大規模な襲撃が起こりそうですね。」