第百八十一話 全権大使
気絶から復帰したバイスは
動こうとして出来ない事と
周囲に聖騎士が居なくなっている事から
自分の状況をすぐに理解したようだ。
「さて、今度は俺のターンだ。
それも、ずっとだ。
ずっと俺のターン」
もう社長って呼んで
調子こいてる俺を尻目に
バイスは尺取り虫の様に動き
木を背にもたれ掛かる。
器用な奴だ。
表情は意外にも余裕だ。
そして偉そうに語り始めた。
「今の私は教会から全権を委任された
全権大使なんですよ。
ふふ、私に何かあれば教会が黙っていませんよ。」
えー
革命でひっくり返す予定だった組織の
後ろ盾をアテにするんですか。
「それとも一時の感情に任せて
殺しますか?全権大使である、この」
世界で一番売れているクッキーは
「俺ぉを!!」
やったー。
梶くーーん!!
「いや、今の君に必要なのは死じゃない」
死体はウンザリなんだよ。
「じゃ縛を解け」
エリート様的には嬉しくないようだな。
ナリ君は喜んだんだが
「自由にするのも早い
動くのは正確な情報を得てからだ。
革命した後で間違ってましたじゃ
カッコ悪いぞ。」
「得たから動いたんだ!」
その割には時期尚早じゃないか。
「バングにはどう対処する気だったんだ。」
そもそも1型の調査で現地に赴く
ここで俺を始末して
どうやって1型に対応するつもりだったのだろう
その切り札が気になっていたのだ。
「バングぅ?アハっアハハハハ」
突然、上機嫌に笑い出したバイス。
「そんなモノ居る訳無いだろ
情報操作の一環で生み出された
仮想敵だよ。軍備増強その他に
都合の良い方便なんだよ。
信じていたのかい?」
ありゃー安全な所に置き過ぎだぜ。
その時、脳内センサーが響いた。
「静かに!」
そう言って背後を振りむいた瞬間
森を突き破って何かが飛び出して来た。
その何かは地面に一度バウンドすると
少し転がり何かがほどけた。
解けた様に見えたのは手足だ。
骨が砕け過ぎて紐の様になっていたのだ。
飛び出した何かは
先ほど逃がしてやった聖騎士の一人だった。
「・・・・何だ?!」
バイスも、飛び出した何かが理解出来た様だ
笑うの止め、現状を把握しようとしていた。
俺はデビルアイを起動し奥を探る。
これは丁度良い。
「仮想敵ねぇ、じゃあアレは
何ですか全権大使さま。」
木々の間を一々90度に方向転換して
障害物を避け2型がゆっくりと
その姿を現した。
俺はバイスの縛を解いてやりながら説明した。
「そんな・・・嘘だ。
あんなデタラメなモノがこの世に
存在するハズが無い」
すっかり怯えている。
バイスは若い
場数もそう多くは踏んでいないであろう
バングの持つ与恐怖効果に抵抗出来ないようだ。
「頭を切り替えろ。嘘情報が本当だったんだ。
その嘘情報でバングの弱点は何だった?」
あれ程の聖壁を行使出来るバイスだ。
バングに対して十分勝てる実力がある。
ここで馴れてもらおうと思ったのだが
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁあ」
ダメだ。
初回はしょうがないか
ミカリンですら駄目だったしな
仕方ない俺が倒して
バングは倒せるモノなんだと
その認識だけ確固たるものにしてもらおう
「弱点は魔法です。えー仮面の部分には
通らないので黒い場所を狙います。」
半狂乱になったバイスの耳に
どれだけ届いているのか分からないが
一応説明をしながら俺は注錫を構えた。
「移動速度は一定なので狙いが付けやすいです。
上手にタイミングを計って魔法を発動させましょう。」
俺はスパイクを発動させ
2型を串刺しにした。
スパイクの中程で宙ぶらりんになるバング。
「2型は半径5m程度。えー身長の凡そ倍ですな。
が、射程範囲です。標的である知的生命体が
射程に入ると自動的に腕鞭で襲い掛かってきます。」
俺はそう言いながら
ワザと射程内に入りすぐに離脱した。
俺の飛び込んだ場所に振るわれる腕鞭。
「ひぃっ」
威力に驚いたバイスは小さく悲鳴を上げる。
俺は倒れた聖騎士を指さして続けた。
「威力は凄いです。鎧を着ていても
あのザマです。絶対に食らわない様に
注意してくださいね。」
「早く・・・早く倒してくれー」
泣きそうだ。
泣きそうな表情でもイケメンはイケメンなんだな。
ズルいな。
でも流石に爽やかさは微塵も無くなっていた。
俺は雷撃で2型を蒸発させた。
死体に該当する破片すら残らず
2型は煙化し仮面だけ地面に落ちた。
腰が抜けたのかバイスは
折角縛を解いたというのに
逃げも出来ず座り込んで
驚愕の表情を浮かべたまま
必要以上に動く心臓と横隔膜に
ただその身を任せているようだ。
手伝えというのも酷か
俺は注錫をしまい
短杖、ブリッペに渡したのと同型を
装備すると転がっている聖騎士の元へ向かった。
「流石は革命の志士。しぶといじゃない」
なんと聖騎士は息があった。
しかし、それだけで意識は保てていないようだ
俺が近づいても何の反応を示さない。
胸当てが思いっきり凹んでいる。
このまま治療呪文をすると
盛り返した患部が凹みに圧迫されてしまう。
俺は危険そうな装備を片っ端から外してから
治療呪文を唱えた。
「災難だったな。」
「・・・・あ、ありがとうございます」
バングに襲われた事
治療呪文で死地から舞い戻った事
どれも人生で初体験だったのだろう
若い聖騎士は呆然としていた。
自分の血液が夥しく付着した胸当てを
手に取り眺めていた。
この胸当てが今自分に降りかかった一連の出来事が
夢で無い事を教えていた。
「他にやられた者はいるか。
出来れば助けてやりたい。
バイスの大事な仲間なんだろ」
俺の語り掛けに自我を取り戻し
襲われたのは自分だけだと答えた。
送ろうかと申し出たのだが
近くの集落が勤務地なので
大丈夫だとも言っていた。
「ただ、これ支給装備なんですけど
どうしたら良いんでしょうか」
知らんわ。
何らかのルールがあるだろ
それに従えと言って置く
若い聖騎士は何度も礼を言ってその場を後にした。
振り返って見てみると
バイスはまだ呆けて座り込んだままだ。
余程ショックだったようだ。
俺はバイスの所まで歩いて戻るついでに
2型の仮面を拾い上げた。
その様子を見ていたのだろう
バイスは弾かれたように慌てふためく
「ひっ!かか仮面が残っているじゃあないか」
こいつ嘘情報だと思って
バングの記録をロクに覚えていないな
仮面だけなら何も起きないんだぞ。
「大丈夫。危険は無い」
ちょっとイタズラ心が疼いた。
「間違って被ったりすると
肉体を乗っ取られたりするので
それだけ注意してくだ」
俺は仮面を両手で持ったままワザと転ぶ。
仮面が顔に来るようにだ。
「え・・・・あ・・・アモンさん?嘘でしょ」
俺は俯いたまま
ゆっくり起き上がって
クワッとバイスを睨むように顔を上げた。
バング俺型だ。
「ぎゃああああああああああ!!」
お馴染みの物まねバングでバイスを追い立てる。
バイスは復活したようだ。
脱兎のごとく逃げ出した
流石にエリートだ足が速い
だが魔神の比では無い
俺は同速度で追いかけた。
悲鳴を上げつつもちゃんと考えている様で
アモンカー方面に最短距離で走っていた。
出展
殺しますかこの俺を FF14