第百七十九話 豹変
説明して誤解は解けた。
解けたハズなのだが
俺の上着の背中にはでっかく
「終身刑」とナリ君が書いてくれた。
なんかカッコイイのでこのままだ。
「ぶわーっもう駄目っす」
投石がモノになったようなので
クフィールが魔法、俺が運転で
バロードを出発したが
ものの1kmも行かない内に
クフィールのMPは底を尽きそうだ。
「はい、お疲れ。奥で転がってろ」
ヨタヨタと客室へ逃げ込んでいくクフィール。
メニューを見てみると
基本レベル5で魔法使いと投石も
5で頭打ちになっていた。
うーん、これはどうなんだろう
まぁ成長はしているから良しだ。
今までのメンツが豪華過ぎで
普通のレベル上昇率が分からない。
ミス普通のクフィールを今後の
普通の標準にしていこう。
クフィールが簡易ベッドに横になるまで
発進は待ってあげた。
そうしていると
入れ替わりでリリアンが横にやって来た。
「こちら宜しいでしょうか。」
「どうぞどうぞ。」
特等席で眺めるだけでも楽しい。
子供だし座りたがるハズだ。
そういえばリリアンのステータスを
見ていなかったな。
俺はメニューをスライドさせるが
リリアンが居ない。
これは
俺の指揮下に入っていないという事だ。
あくまでも王のお付きメイドという立場で
パーティメンバーではない。
ナリ君がメニューを開けるなら
見る事が可能だろう。
まぁ戦闘をさせる気は無いので
別にいいか。
「お渡しする物を預かっておりました。」
リリアンはそう言うと
ナリ君お世話セットの入った
サイドポーチから何やら取り出した。
「どうぞ。シャーリーからです。」
大き目の封筒だ。
不自然に膨らんでいた。
「ありがとう。なんだろう・・・。」
受け取った俺は封筒を開け
中を覗いてみた。
ハンカチか・・・いや・・・これは!!
パンツじゃないか!!!!
「何が入っていたのですか」
封筒を覗いたまま硬直してしまった俺を
不審におもったのかリリアンは
そう聞いて来た。
「いつだったか貸したハンカチだよ。
いいって言ったのに律儀な人だなぁ」
俺はそう言いながら封筒から出さず
ストレージの「大事な物」に収納した。
うっかり間違って「使用」「装備」を
してしまわない様にロックを掛けた。
「魔族の覚悟・・・確かに受け取った。」
俺は聞こえない様に小さな声で呟いた。
・・・等価交換の原則に従い
今度会ったら俺のパンツも渡そう。
クフィールが横になったようなので
俺は車を出発させた。
「ぅわぁ・・。」
リリアンが小さな驚嘆の声を漏らした。
この時ばかりは鉄面皮が崩れ
幼い子供の顔になった。
嬉しい、無理しなくていいんだよ。
怖がらない程度のスピードを探りながら
急ぐ、次の目的地はブンドンだ。
性能は上がっているのだがメンツと
路面の状況からスピードを増す事が出来ない。
3日程かかるな。
キャリアの屋根に装備された
テルマエにはバイスもクフィールも
驚き通り越して呆れていた。
日本人の執念は異世界から見ても
異常に映るらしい。
追加した新機構のジェットバスは
知らずに起動し驚きまくったナリ君が
裸で屋根から転落という
まさに珍事となった。
ブンドンまで後一日の距離位の所で
バイスが停止を要求してきた。
「どうかしたのか」
俺はバイスに尋ねるが
キャリアから下りたバイスは
周囲を注意深く探って居た。
「邪な気を感じます。」
俺の感知系はさっぱりだ。
何事かと下りて来た残りの面々
俺は皆を窺うが
皆首を振っていた。
「実力は折り紙付きっすからねぇ」
学生時代からバイスを知るクフィールは
そう言った。
過去にもこんな事があったのだろう。
「これは見過ごせません。」
神聖魔術、いわゆる僧侶系の魔法は
人状態の俺も使えるのだが
属性的には得意分野にならない。
やはり専門の神聖属性ならではの
感知能力があるのであろうか。
「そう言うなら、片づけていくか」
「お願い出来ますか。心強いです。」
車を放置するのは
それはそれで心配なので
バイスは護衛は俺一人で十分だと言った。
分かってるじゃあないか。
「そうだな。ストレガとナリ君は
クフィールとリリアンを守っていてくれ」
ストレガが俺の傍まで駆け寄り囁いた。
「罠かも知れません。私も行った方が・・・。」
心配性の妹だな。
どうもスパイ放置の一件から
ストレガは教会を疑って掛かるフシがあった。
俺は精一杯カッコつけて囁き返した。
「罠でもいいさ。」
「・・・お兄様。」
尊敬の目で俺をうっとりと見るストレガ
くーっ俺カッコイイ。
そうして俺はバイスの後を付いて
森に入って行った。
バイスの呪文は悪魔状態の俺にも
ダメージが入りそうだ。
なので俺は人状態の魔法使い装備だ。
奇襲を考慮すれば防御力の高い
戦士系にすべきだが人状態のチンチクリンでは
ロクな戦力にならない。
馴れもある、ここは魔法使いでいいだろう。
森の中にポッカリと木々の無い
小さめの広場みたいな場所に出た。
「近いですよ。警戒してください。」
緊張感たっぷりにバイスは忠告してきた。
そうなのか
半魔化してデビルアイその他を起動させるべきか
悩む俺にバイスは振り返って続けた。
「防御魔法を掛けますので動かないで下さい。」
「ん、いや大丈夫だぞ」
俺の返事を聞かずバイスは呪文の詠唱に入った。
知らない呪文だが脳内センサーは鳴らないので
周囲もこの呪文も危険ではないのだろう。
「・・・聖壁!!」
俺は青く半透明な壁
というか立方体に囲まれた。
神聖属性の防護壁だ。
ご丁寧に足元と天井までだ。
聖なる輝きで薄っすら光っていた。
「ありがたいが、これじゃ歩けないぞ。」
床まで出来上がっているのだ。
これでは立方体の中しか移動出来ない。
「アハっいいんですよ。それで」
バイスは良い笑顔でそう言うと
指を鳴らした。
それを合図に何処に潜んでいたのか
槍を装備した聖騎士が
あちこちから姿を現し
俺を取り囲んだ。
「もう移動なんてしないんですからね。」
「いや、するだろ」
笑顔が一瞬で不機嫌な表情に変わるバイス。
「バカなのか、ここでお前は死ぬんだよ」
槍を構える聖騎士軍団。
俺を殺す気満々だ。
俺は奥歯を噛み締め呻いた。
「くそぅ・・・・罠だったのか!!」
神聖属性で囲われた。
これでは悪魔化は勿論、半魔化も
すればダメージが入ってしまう。
俺は壁をノックするかのように
裏拳で叩いた。
石壁と同等の強度があるようだ。
「無駄ですよ。あなたには破れない」
バイスは勝ち誇った様に言った。
「しかし、これ防御用だろ
そっちからも攻撃出来ないんじゃあないか」
これじゃ俺、安全じゃん。
「神聖属性だけは通過するんです。
その属性の攻撃魔法をお持ちならどうぞ」
持って無いよ。
つか俺の事を調べた上での罠だ。
ちゃんと考えての行動だ。
「ちなみにこの槍は破魔の力を
宿した銀製です。」
そう言ってバイスは近くにいた
聖騎士の槍を奪うと
俺目掛けて投擲した。
槍は壁が幻かの様に減速せず
飛んできた。
若い肉体の動体視力と
魔族槍兵との訓練のお陰で
躱す事に成功した。
危っねぇ
心臓バクバクだ。
魔族槍兵さんありがとう。
返さないと
俺は床を貫通し地面に刺さった槍を引き抜き
元の持ち主に向かって差し出した。
ちゃんと刃は自分に向けてだ。
フルフェイスのせいで聖騎士の表情は見えないが
かなり予想外だったようで
槍とバイスを交互に見てキョドっていた。
「ガキぃ・・・自分の状況分かってる?」
不機嫌から怒りの表情に変わるバイス。
「うん。殺されるんだろ
いつかこうなると思ってた」
俺はその場に胡坐を組んで座った。
「潔いな・・・。」
お
俺が諦めていると思ってくれたようだ。
馬鹿め若造が。
「冥土の土産に教えてよ。」
この外見のズルさ炸裂だ。
明らかに聖騎士達は戦意が失われている。
子供を大勢で武器を突き付けて取り囲んでいるのだ。
何が聖騎士だ。
まるで賊だ。
そんな思いがよぎっているに違いない。
戦士や騎士よりも
遥かに正義に拘った職業だ。
いくら悪魔と教えられていても
相手は無抵抗の子供、どうしても鈍るだろう。
「フン。いいだろう」
バイスはそう言って
片手を下ろすような仕草をした。
それを見た聖騎士達は構えた槍を下ろした。
「何が聞きたい。」
どっから出したのか
1人の聖騎士が折り畳み用の椅子
座る所が布になってる奴を
バイスの動作に合わせて
座らせる。
アレ結構カッコイイな。
今度クフィールに覚えさせよう。
「これは教会の命令なのか」
そんなハズは無い。
出発する時のパウルの様子を
覚えている。
アレが演技なら
もう俺は人を信じられないだろう。
俺の質問にバイスはすぐに答えなかった。
ただ表情がまた変わった。
今までの余裕が消え失せ
目が座った。
「9大司教は地に落ちた。
神を裏切り、悪魔に魂を売った!!」
返事になって無い
激オコですわ。