第百七十二話 おかえり魔導院
アリアをヒタイング近くの集落まで送り届けた。
そこで仲間と合流する手筈らしい。
荒野に街道が走っているだけの
錆びれた集落だ。
ヒタイングから馬車で半日の距離で
商用馬車の休憩用の集落だ。
同じ距離程度に間隔を空けて集落が点在しており
さすがのパウルも全てに影を
配置しきれないだろう。
何か言いたげなアリアだったが
ミスリル製のネックレスを渡し
「縁が合ったらまた会おう」とだけ言って
俺は去った。
ミスリルは最近ようやく解放された金属素材だ。
スクロールの問題もこれで解決できるな。
超音速で戻る。
一時間も掛からない。
上空から見えた
かつての毒沼のセントボージ城は
灯りがいくつも見えた
復興しているとは聞いたが
知っている景色と違う事が
時間が経っている事を
改めて俺に感じさせた。
高空で半魔化すると
垂直に魔導院広場に俺は軟着陸した。
「ええと、何するだっけな」
・・・。
ロクサーヌさんに謝らないとな
心配しているんじゃないかな。
まぁクフィールがネタばらししているだろうが
謝罪はしないとな。
堂々と入り口まで行くと
受付が俺を見るなり慌てて伝令管に
向かって必死の形相で何やら言っている。
「おう、入るぞ。」
返事も聞かず俺は魔導院内に入った。
後ろで受付が何か言っているが
聞き直す前に正面から
人だかりがドタドタとやって来た。
「お兄様!!」
その集団の中央にストレガだ。
あ
怒ってる
ヤバい
本能的に危機を感じた俺は
注錫を取り出し
魔法だと誤魔化す為の嘘呪文を唱え
華麗なターンで一瞬で
冒険者ゼータ・アモンに変化した。
「!!」
瞬間的に怒りが表情から消えるストレガ
息を飲むような音をさせる。
「ただいま。愛しの妹よ」
可愛げのないチンチクリンから
イケメン冒険者に変わった俺を見て
観衆もどよめいた。
「うズ・・・ズルイです。」
真っ赤になって瞳に涙を貯めながらも
ストレガは俺の胸に飛び込んで来た。
あーよしよし
かわいいかわいい
俺はストレガの頭を撫でてやる。
周囲の中にクフィールがいる事を
発見した俺は声を掛けた。
「ロクサーヌさんには説明してくれたのか。」
「はい師匠。でも信じてくんないっす」
クフィールの横にロクサーヌさんもいた。
「今・・・信じました。あらあら
本当に院長さんのお兄さんだったんですね。」
俺はロクサーヌに素直に謝罪した。
「ごめんなさい。悪乗りしました。
壊した備品の弁償は色をつけてしますので」
そこでストレガが満足したのか
通常モードに戻った。
「そうです。お兄様色々とご相談が。」
怒りは消えたが
急いでる感じは消えていない。
場所を食堂に移して
俺は話しを聞いた。
「曲者が入り込んでいたようですが」
そう切り出すストレガ。
それでなんか物々しいのか
そりゃそうだよな。
「ああ、もう脱出させた。」
呆れた様な
何とも表現しがたい表情になる
ストレガその他。
俺はアリアから得た情報を
話して聞かせた。
「おのれクリシアあああああっ」
ストレガが珍しく
悔しがって怒っている。
俺よりも魔導院の面々の方が
ストレガの豹変振りに驚いていた。
クフィールをからかう前
忙しく指示を出していたストレガが
普段の魔導院でのストレガの標準なのだろう。
冷静沈着で頼もしい指導者だった。
どうも俺の前だと
仮面が取れるようだが
いいのかな。
「いかがいたしますか。お兄様」
「魔導院はお前のモノだ。
ただ俺の意見をきいてくれるなら
隠し部屋を調べるのは当然としても
封鎖は待ってくれ、どうせこれから
クリシアへ行くんだ。そこでの話が
どう流れるかで、それから決めよう。」
ストレガは取り巻きの中から
警備担当と思われる者にテキパキと
指示を出すと担当は一礼して
足早にその場を離れた。
俺が関係していると聞いて
捜査その他を一時停止していたようだ。
悪い事したな。
夜空の逃避行を話すのは止めておこう
絶対に怒るだろう。
関連して指示待ち状態だった
者達へ次々を指示をだしていくストレガ
結局、残ったのは
クフィールとストレガだけになった。
「お兄様、クフィを弟子に取ったそうですが」
「信じてくれないっす」
ストレガは横目でクフィールを
一瞥すると続けた。
「本当なんですか。」
「ああ、本当だ。」
「彼女の持つ特別な才能とは・・・。」
無いよ。
しかし、そうは言えん。
俺は少し考える振りをして答えた。
「特異体質に起因するのははっきりしている
これがどんな花になるかは今の段階では
未知数としか言えん。」
なんか変わった花が咲くのは
間違い無いだろう。
俺の返事を聞いたストレガは
クフィールの方に向き直り頭を下げた。
「ごめんさない。あなたの才能
私が先に気が付いて然るべきでした。」
慌てるクフィール。
「いややや院長、止めてくださいっす。
自分で磨き上げ、貢献できる者ばかりの
魔導院で自分はやっぱり半端者の域を
出ないっすよ。謝るのは自分っす」
俺は割って入った。
どっちも謝る事じゃない。
それに才能無いので
ストレガは間違ってない。
「だな。今だって具体的に、これから
どうしたらいいか想像がついていないのだろう」
俺もなんだけどね。
「えへへ、はいっす」
図星だ。
照れ笑いを浮かべるクフィール。
「という訳だ。クフィールを
クリシアに同行させたいが構わないか。」
俺はストレガにそう申し出た。
「はい。クフィ、凡そ一ヵ月程度
魔導院を空けます。その間の
業務の代行を引き継ぎしてください。」
「はい。了解っす」
クフィールは元気よく返事すると
足早に退場して行った。
二人だけになったのを確認してから
俺はストレガに言った。
「政治的な対応の方はユーか
パウルを交えて相談した方がいいな。」
そんなんで
「メタめた」に帰れたのは
結構、遅目になってしまった。